Act.4 三羽、揃って

翌朝。


「あぁ頭イテェ。

 昨晩の記憶が無い……俺は一体何をしたんだ」


と、頭を抱えてうずくまる男が一人。

 そんな彼に少女は声をかけた。


「もう、だから言ったのに。

 お父さん下戸なんだから、そうなるに決まってるでしょ?」


「ううっ、面目無い」


 彼は、娘に弱いのだ。

 ……酒にも弱いが。


 なので酔っ払って醜態を晒したとあれば尚更である。

 一方、少女はそんな父親の様子を気にも止めず、淡々と朝食の支度を進める。


「もうすぐ朝ご飯出来るから、そんな所でうずくまってないで顔でも洗って来なさいよ」


「ああ……」


と、キッチンから聞こえてくる娘の言葉に男は弱々しく答え洗面所に向かう。


 そんな父を見やりつつ少女は小さくため息をつくと、 フライパンの上で焼いている目玉焼きをフライ返しで裏返す。

 男の好みのターンオーバーだ。

 父親の妙な拘りに、寛容な所のある孝行娘なのだ。この少女は。


 少女は少し考えた後、小さな声で呟いた。


「お父さん、美雪さんの事覚えてるのかしら……」


****


 食事を終え、身支度を整えた父娘は二人揃って家を出る。

 男は事務所に、少女は学校に行く為だ。

 玄関を出ると、丁度隣からも人が出てくるところだった。京子と美雪の二人だ。


「あら、おはよう。

 昨夜はご馳走さま」


と、朗らかに挨拶する京子。

 対して美雪は京子に引っ付き、無言のまま会釈だけする。


「あ、先生に美雪さん。おはようございます。

 ……美雪さん、どうかしたんですか?」


と、不思議そうに問う少女に、京子は笑顔で言う。


「ああ……昨夜、彼女が『挨拶』に来たみたいでね〜。

 びっくりしてるだけよ」


 その言葉の意味を察し、少女も頷きながら呟いた。


「……ああ。まぁびっくりしますよね、それは」


 それに続き男も、苦笑を浮かべつつ言った。



「俺の所にも嫁さんが出ていって直ぐの頃、一ヶ月くらい連続して来てたな。……正直、アレには参った」


 すると、 美雪は震える声で


「……何で皆さんそんな落ち着いていられるんですか!?

 あの人、どう見たってお化けじゃないですか! 幽霊ですよ、幽霊!」


と叫ぶ。


 その様子に、少女は少し考えてから口を開いた。


「でも、美雪さんにはあの人が悪いモノに感じられましたか?」


「……いえ。どちらかというと、興味とか親近感みたいな雰囲気で……怖くはなかったです。

 ビックリしただけで。」


 そう言った美雪に、少女は優しく微笑みかけた。


「随分気に入られたみたいですね。

 なら、大丈夫ですよ。

 彼女は気に入った人には優しいですから」


「俺は昔、散々脅かされたけどな……。

 まぁ、基本的に悪さはしないし、居たいと思っている内は居させてやりゃあ良いんじゃないか?

 ……家賃も安くなるし」


 男の言葉に京子が笑いながら、美雪に言い含めるように語り掛ける。


「世の中、これだけ多くの人が交わって色んな事が起きているんだもの、少しくらい不思議な事もあるものよ」


 そして続けて言う。

 まるで、自分に言い聞かせているかのように。


 ―――そうでないと、あまりにも救いが無いと思わない?

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