Act.2 にわめ

「いやー悪いわねぇ! 夕飯タカる様な真似して」


 京子はダイニングテーブルに食器を並べるのを手伝いながら、大して恐縮した様子も見せずにそう言った。

 ただ、京子に座っているよう言った少女を手伝っているのを見る限り、少しはそう思っているのだろう。


 テーブルの上には、サラダボウルに盛られたレタスにミニトマト、京子提供のチーズの盛り合わせ。そして勿論ビーフシチュー。

 更にその隣には、京子お気に入りの赤ワインボトルと、少女の好物の桃ジュースの缶が並べられている。


 ワイングラスは3つ。

 家主の男に京子、そして京子の生徒であるらしい若い女性だ。


「私までご馳走になってしまってすいません」


と、その女性は申し訳なさそうに席に着いている。


 とても綺麗な声だ。と少女は思った。

 恐らく年齢は二十歳前半であろうと思われる。長いストレートの黒髪が印象的な小柄で可愛らしい女性。

 彼女は深田美雪と名乗った。


 京子曰く、アルバイトで生活費を稼ぎつつ学校に通う真面目な生徒らしい。

 京子の授業を受けている訳でもないらしいが、どういうわけか京子とは懇意にしているらしく、たまに夕食を共にしているのだという。


「構いませんよ、沢山作りましたし。先生にはいつもお世話になっていますから。

 でも先生、あんまりお父さんにお酒飲ませないで下さいね」


と、少女はジト目で京子を見ながらそう言った。

 その視線を受け京子はバツが悪そうにする。


 そんなやり取りを聞きつつ、男は美雪に尋ねる。


「ところで、君は先生の学校で何を学んでいるんだ?」


 一瞬ビクッとする美雪だったが、すぐに笑顔を作り答えた。


「あっ、はい。私は声優科に所属してます」


 そう答える彼女の表情には緊張の色が見える。

 だが、男はそれに気付かなかったのか特に気にする素振りも無く話を続ける。

 少女はその美雪の様子に違和感を覚えたのだが、敢えて口には出さなかった。


 美雪の後に京子が続く。


「その子は声優科イチの有望株で、既に幾つかのプロダクションから声が掛かっているくらいの実力者なのよ」


などと自慢げに話す京子。


「へぇーどおりで素敵な声だと思いました」


と、少女は素直に感心した。

 確かにその声はとても美しいと思えるものだったからだ。


「良し、これで準備出来たわね!

 じゃあいよいよ乾杯といきますか!」


 京子が掌をパンッと打ち鳴らし、皆を促す。

 皆が席に着くのを確認すると京子がワインのコルク栓を抜き、グラスにワインを注いでいく。

 少女は自分でジュースをコップに注ぐ。


 それぞれの前にワインの注がれたグラスが行き渡る。

 それを確認した男が相変わらずの気取った仕草で音頭を取る。


「では、この晩餐会を祝して、……乾杯!」


 男の言葉と共に、カチンとグラスのぶつかる音が部屋に響く。

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