Episode2 泣くなウグイス
プロローグ
鶯谷、という駅がある。
東京は上野の天台宗関東総本山。東叡山寛永寺の裏手にあたる。
山手線、京浜東北線で上野駅から一駅の所だ。
上野一帯は丸の内や神田、御徒町といったオフィス街にも近いが、上野や根岸、浅草といった古くからの寺社や、入谷など下町の風景も色濃く残された地域でもある。
そしてサブカルチャーの聖地、秋葉原や上野公園、浅草寺などの観光スポットを抱え、更に上野駅は東京の一大旅客ターミナルでもあるため、年間を通して国内外から多くの観光客が訪れる観光地として有名だ。
鶯谷の地名の由来は、江戸の頃京都からやって来た天台宗の門主により、ウグイスが放鳥されたことに依るらしい。
そしてこの鶯谷近辺。長閑な田園風景が広がっていた江戸の頃と、大都会東京の一部となった現在でも一つの共通点がある。
それは男女が
まぁ、有り体にいってしまえばラブホ街なのだ、ここは。
****
ラブホテルが軒を連ねる入り組んだ細い路地。
陽が暮れかけ薄暗くなり、そこはかと無く怪しげな雰囲気のそこを歩く一人の少女がいた。
年は小学校高学年ぐらいだろうか。背丈の割にしっかりとしていて少し大人びて見える。
少女はまるで歩き慣れた通学路でも歩くかのように、その道を淡々と歩いていた。
暫くして路地を抜け、言問通りに出た少女。
少女は通りに面して建つ、一階に飲食店の入った、この辺りではよく見かけるペンシルビルの狭い階段を登って行く。
五階建てのビル。その三階の踊り場で一息ついた少女。
目の前には古ぼけた重そうな金属のドア。
彼女はそのまま何のためらいも無く、鈍く光るドアノブを握り、中へと入って行った。
表の灯りが差し込むだけの薄暗い部屋。
部屋の中央にはソファーとローテーブルがあり。通り側に物が乱雑に積まれた業務デスクが一台。そして入り口の向かいの壁際にはファイル棚。
少女は一言声を発する。
「……お父さん。もう夕ご飯出来てるんだけど。帰ってこないで寝てるんだったら先食べちゃうわよ?」
と。
ソファーに横になり、イビキをかいていた中年男に向かって。
「うーん。もうそんな時間か?
分かっ……うぉっ!!」
ここは男の構える探偵事務所。
……そして娘の声に反応して、ソファーから落ちたこの男は事務所の主その人である。
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