新大阪~新神戸 佳境

 車両がゆっくりと新大阪駅を離れてゆく。

 ここまで来ると乗客も大分入れ替わり、客数自体も少しずつまばらになりだした。


 そんな中ワタワタと騒がしくしている父娘(主に父親がだが)は、当然ながらかなり目立っていた。


 父親の不始末を片付け終わり、それに気付いた少女は恥ずかしげに辺りを見回すと縮こまる様にしながら座席に着く。

 そしてスマホを取り出し、何やら操作を始める。

 どうやら動画サイトで猫動画を眺め濡れたカラス父親で荒んだ心を癒しているらしい。


 そんな少女の様子を横目に見やりながら、女は改めてこの二人の正体について考える。

 初めは女が殺めてしまったヤクザ者の組織が放った追手かとも思ったが、そんな気配は微塵も見せていない。

 しかし、やはりただの一般人というにはこの男は風体から言動まで怪しすぎる。少女がフォローしていなければ、不振人物として通報されてもおかしくないだろう。


 そんな事を女がつらつらと考えていると、突然少女が


「えっ!」


と、声を上げる。


 少女の視線の先に目をやる女。

 少女の視線はスマホの画面に釘付けになっていた。

 少女の驚きの声に反応したのか、男が反対側から画面を覗き込む。


「ん、なになに?

 テレビ局の速報か……。

 ○✕会本部長他殺体で発見。組織間の抗争か。

 ふーん、こんなニュースに興味があるのか?」


 少女は男の言葉に小さくコクりと首肯く。


「話を書く種にしようと色々調べた事もあるけど、この○✕会って日本の裏社会の半分を仕切ってるって言っても良いような存在でしょ?

 本部長って言ったらその大幹部。

 そんな人がいきなり殺されるって、かなり大事なんじゃ……。

 ホントに人が沢山死ぬような抗争になったりして」


 少女のその言葉に男は一度首を横に振る。


「......いや。それは無いな」


「どうしてよ?」


 少女は自分の危惧が一蹴された事が不満なのか、若干言葉を尖らせ尋ねる。


「……普段からアイツらはな、今でもこの平和な日本でタマ取った取られたってやってんのさ。

 だからこそある程度以上貫目のある奴は、いつも兵隊を大勢側に置いておく。仮に抗争相手に殺られてそいつらが全く気付かなかったっていうなら……おお怖い」


 男はそう言うと大袈裟に肩を竦める。

 だがそこには、先程までの頼りない姿はなく。触れられただけでこちらの身体を切り裂きそうな空気を纏っている様に少女には感じられた。


「……じゃあこのヤクザは誰にどうやって殺されたっていうの?」


 それでも少女はなんとか質問を重ねる。

 男はそれに対し一言だけ呟く。


「どんな用心深い男でも、この時だけは周りを手薄にするって時がある。

 ……あんたには分かるかい? お嬢さん」


 それは果たして娘に向けられた問いなのか、それともぎゅっと拳を握りしめ身を固くしていた女に向けられたものなのか……。

 男はぼんやりと虚空を見つめるのみだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る