くちなしの姫君と銀白の龍その六
二人は永年引き離された末に逢いまみえた恋人同士のように狂おしく抱きあった。口接けを何度も交わし、朱殷が姫君を抱き上げて寝所へと向かう。姫君は未知のことに震えていたが、不安や恐れはなかった。朱殷への信頼と想いに後押しされて、されるまま身を委ねた。
朱殷が姫君を横たわらせ、首筋に唇を這わせる。衣に手をかけて、姫君の諸肌をあらわにする。
姫君は朱殷の衣を掴み、それから手を滑らせて、おずおずと朱殷の背にすがりついた。朱殷が微笑み、姫君の耳許に口接ける。吐息は姫君の耳をくすぐり、脳がじんと痺れた。
朱殷はまだ幼さの残る姫君の体を、宝物を扱う動作で愛した。
「清の肌は真珠よりも綺麗だ……私の手に応えて吸いつく……口接ければ芳しく甘い」
「あ……朱殷……」
朱殷が膨らみはじめたばかりの姫君の胸をじっくりと撫で、桃色の乳首を吸う。舌先で転がし、甘噛みする。姫君のしなやかな背がのけぞった。
全身の余すところなく口接けてゆく。次第に姫君の固く閉ざされていた蕾がほころび、花開く。
そして姫君の秘所に朱殷の舌が触れる。姫君がためらいに身をよじらせた。朱殷は執拗なまでに愛撫する。姫君の秘所は悦びに濡れて蜜があふれた。
「あ……朱殷……もう……っ」
「大丈夫だ、清……私を見ていればいい」
朱殷が猛るものを姫君にあてがう。姫君は夢中に朱殷へと腕を回した。しっとりと汗ばんだ朱殷の背に姫君の細い腕が絡まる。
「あっ……!」
挿入の衝撃に姫君が声をあげる。痛みと共に、感じたことのない熱に浮かされた。
朱殷は姫君の反応を見ながら、ゆっくりと動きだした。姫君が言い知れない感覚に襲われて朱殷の背に爪をたてる。
破瓜の痛みを、朱殷の口接けがまぎらわせる。姫君の身籠りの海は深く朱殷を受け入れ、最奥へといざなう。
「……清のなかは際限なく吸い込まれてゆく……柔らかいのに引き締まっている。……辛くはないか?」
「……朱殷……っ」
姫君は言葉が出ない代わりに、朱殷へ口接けを返した。触れるだけの拙くたどたどしい口接けは、姫君への愛おしさを掻き立てる。
朱殷の動きが激しさを増して、果てへと向かう。互いの境界がなくなり、とろけて一つになった。
姫君は意識を手離し、朱殷の腕のなかで夢を見た。朱殷の背に乗り、遥かな青空をどこまでも飛び駆ける。何の憂いもなく無邪気に笑いあいながら。姫君の腕には見たこともない銀色に輝く卵があった。姫君はそれが我が子だと夢のなかで分かっていた。
だが、そのまどろみは束の間だったらしい。姫君が目を醒ますと、まだ朱殷がいた。姫君に腕枕をして、慈愛の眼差しでじっと見つめている。
「……あ……」
「起きたか……体は痛くないか?」
「少し……けれど……とても幸せな夢を見たわ」
「……そうか。……清」
朱殷が体をずらし、何かを取り出す。
「……これを。清に持っていて欲しい」
「朱殷……これは」
姫君は重く感じる腕を上げて、戸惑いながら銀白の欠片を受け取った。
「私の鱗だ。きっと清の守りになる」
「いいの?……綺麗だわ……嬉しい……」
姫君の手のひらに、ぴたりとおさまる大きさの鱗は神秘的な光を放っている。姫君は顔をほころばせた。
「清がそうして笑んでいてくれればいい……もうじき夜は終わるが、また明日は来る」
「そう……そうね」
姫君は鱗を胸に抱いた。別れは切ないが、明日の夜になればまた逢える。何より、この鱗が一緒にいてくれる。
「これを朱殷だと思って話しかけるわ……片時も離さず……」
「……ああ。私は常に共にある」
二人は夜の最後に口接けた。その後、衣を整えて渡殿に出る。
朱殷が龍の姿に変化して飛び立ってゆくのを、姫君は遠く見えなくなってなお見送っていた。
***
天界に戻った朱殷は、下界を映す泉を見おろしていた。
清らかに澄んでいながら底の見えないこの泉は、念じれば世の中のどこでも映し出す。朱殷は左大臣家にいる姫君を飽かず見つめていた。
姫君が几帳の奥に籠もり、懐から朱殷の鱗を出して両手に包む。声は聞こえないが、小さくふっくらとした唇が微かに動き、朱殷の名を呼んだかと見えた。
朱殷は今すぐにでも姫君のもとへと降り立ちたくなる。しかし、昼間の下界は邪気と日射しが強すぎて天界のものには耐えられない。
「……清……」
名を呼ばっても、泉越しでは伝わらない。姫君に届かない。夜まで一人待たせなくてはならない。
「朱殷、そなたは今下界のものに執心しているそうな」
唇を噛みしめたとき、背後から声をかけられた。振り返ると年長の同胞が佇んでいる。白磁の肌に金色の髪、黒い瞳。
「下界のものは命短い……添い遂げることはできまい」
「ですが、彼女は……」
「そなたが悲しむだけだ。……だが、これもそなたに通う血のためか」
「……母は……立派に生き抜きました。父も老いてゆく母を最期まで愛しぬいた」
朱殷は龍と人の間に生まれたのだ。相手はそのことを言っている。朱殷の色彩をもたない銀白の姿も特殊な瞳の色も、ひとえに龍と人が交わったためだった。
「それでも別れは我らにとって一時のうちに訪れよう。そなたが嘆くさまを見たくないのだ」
「……清を諦めることなどできませぬ」
朱殷は姫君との出逢いを思い出していた。母を偲んで下界に降り、姫君の歌を聴いた。澄みきった声は次第に憂いを帯び、胸に響いた。異形である自分に手を伸ばし、触れてきて温かいと言った。
「どのような結末を迎えましても、想いを貫ければ悔いはいたしませぬ」
「朱殷……」
相手はまだ何か言いたげだったが、やがて息をついて背を向けた。朱殷は泉のもとに膝をつき覗き込む。姫君は鱗に口接け、寂しそうに溜め息をもらしていた。
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