第4話 野外実験学習
B号館3階はいつにもましてポカポカで、日の当たる気持ちの良い日だった。僕は先生に告げられたあの日の翌日から毎日欠かさず科学室で部活動をしている。
その目的は、科学部部長の落ちこぼれ少女を立ち直らせ、学校が楽しい! 友達欲しい!!彼氏ほしい!!という前向きで明るい考え方にするため。科学部の部長こと平野さんは前までは不登校生だったらしいけど先生の説得でなんとか部活には出てくれるようになったらしい。だからこのチャンスに僕は彼女を立ち直らせる!
僕が退学にならないためにも。
「今日は温かいなぁ。もうすぐ夏ですもんね」
「『そうだね。だから今日は野外学習をします』」
「いいですね!」
最近平野さんが僕への返事をフリップで返すのに慣れてきているような気がする。これは良いのやら悪いのやら……。
僕が椅子から立ち上がって体を伸ばすと、平野さんも立って外で実験の準備を始めた。
「今日の実験はなんですか?」
と聞くと、平野さんは木の板を板とねじ釘を使ってくっつけ始めた。ドリルを持って作業する平野さんはギャップがありすぎて新鮮に感じた。あんな華奢で可愛らしい女の子がドリルはなんか似合わない。タピオカミルクティーもたせた方が柄になる。
板を五角形に繋げ合わせ、入れ物のような形になると、次はアルミホイルを用意する平野さん。
「これってソーラークッカーですか?」
と聞くと平野さんは頷いて返事する。
完成したソーラークッカーの上にさつま芋を2つのせると、平野さんはフリップに
「『完成』」
と書いた。
芋が焼き上がるのを楽しそうに待つ平野さん。むちゃくちゃ可愛い。
でも、もう四時過ぎだし少しずつ日も落ちてくる。太陽の熱がちゃんと溜まるのだろうか。
僕は待つことが大の苦手なので室内に戻った。
今までならもう家に帰って、部屋でゲームして飯も食わずに寝て。面白みのない平凡な生活を僕はおくっていた。でも僕のだらしなさがこういった形で青春を用意してくれて。落ちこぼれで恥ずかしがり屋ではあるけど可愛い知り合いもできた。
僕はまだまだ全然青春を知らないけど、これから少しずつでいいから知っていきたいかもしれない。僕の知らない世界を。
「
そう僕に尋ねてくる人は初恋の人、
「いないこともないです」
「へぇ……。だれ!!誰にも言わないから教えてよぉーー」
「僕は……」
あれ、僕はあの時なんて言ったんだっけ。
「板坂くん。大丈夫?」
目を開けると、机に伏せた状態の僕のすぐ正面に平野さんの顔があった。僕は慌てて距離を離し、状況をなんとなく理解した。
でも今確かに、平野さんが『板坂くん大丈夫?」と聞いてくるような声が聞こえたんだけど。
「まさかね……」
すると見間違いなのかもしれないが、平野さんの表情が一瞬笑ったように見えた。
そして僕は平野さんが残してお皿においてくれていた焼き芋を静かに口へと運んだ。
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