第2話 おちこぼれ少女
結局、僕は担任のシンちゃんから言われた『おちこぼれ少女と付き合う』という試練を受けることに決めた。これは退学を避けるため、親に失望されないため。色々と理由はあるけどその子のためにも何かしら力になってあげられるように頑張らないといけないと思った。
でもここだけの話、極度に可愛くない子だったら辛いなぁ。なんか、改めて僕って最低だな。
僕は今まで生きてきて彼女もいた事はないし、勉強も普通で顔も普通。高校デビュー的なこともなく、何もかもが普通の人生でしかなかった。
だけど少しずつ友達ができたり、趣味が増えたり、指導されたり。仮だけど彼女ができそうだったり。少しずつ小さなことばかりだけど変わっていっている気もする。
今回の退学も良いものではないけど、こうやって先生が試練を出してくれて。また成長のきっかけになるかもしれないから真面目に向き合わないと。
そういえば今日、彼女になるって子のところ行けって言われたんだっけ。たしか科学教室で科学部の部活してるって言ってたような。シンちゃんの話は具体性がないのでわかりにくい。
夕日に照らされる廊下を一人歩く。周りは放課後残ってイチャイチャダラダラするカップルと慌ただしい様子の職員の姿が目立つ。
B号館3階の廊下まで来ると扉の閉まった静かな科学教室があった。でもそこは部活動をしているような活気や音は感じられない。今日はいないとしても確認だけと思い、僕は引き戸をゆっくりと開けた。
室内には黒のジャンパーを羽織った女の子が机に伏せて眠っている。華奢な細身で髪は黒のサラサラヘア。清潔感のある雰囲気だった。
なんか、ぐっすり眠ってるのに起こすのも悪いなぁ……。
僕は起きるまで待つことにした。
――時間は少しずつ経ち、あたりも薄暗くなった頃。
僕はゆさゆさと肩を揺する感触で目を覚ました。ボヤケていた視界は少しずつ元の世界へと戻り、目の前には……。うーん。美少女……。
「美少女っ!!??」
突然のことに驚き飛び起きて素っ頓狂な声が思わず出る。
だって目の前には黒髪サラサラボブ。顔は可愛くて背は低め、最強に可愛い、今まで見たことがないくらいにS級な美少女が目と鼻の先にいたから。
僕の素っ頓狂な奇声に驚いたのかその子も顔を赤らめ手をパタパタしている。
「ご、ごめん! 驚いた?」
「い、いや……。そのぉ……」
その子の声は途切れそうになる程小さくて可愛いらしい。人見知りな様子だけどS級美少女だとそれがプラスに可愛いと思える。
すると彼女は可愛い黒色のリュックから大きめのノートを出して何かを書き始める。
「あ、あのぉ……。絵? とか」
そう聞くと彼女は首を振ってノートをこっちに向けた。
「『恥ずかしいので今日はフリップにして話します。ご要件は』?」
「あぁ、ごめん。そうだよね。急に知らない人が部室来て寝てたらビビるよね」
彼女はいえいえと手を振って答えてくれた。多分、そんなことないよって言ってくれているのだろう。
「じゃあ質問! 今日僕がここに来ること君は知ってた?」
「『知らなかった』」
「そ、そっかぁ……」
もしかして彼女はここに僕が来た理由すら知らない? それもそうかぁ、誰かに決められて付き合う何ってことなんてラブコメに出てくる許嫁の設定くらいしかないもんなぁ。だけど、彼女が僕が付き合いたい理由を知らないとなると尚更、罪悪感がえげつない……。それに初対面で急に付き合おうと告白するのも成功率が0に等しい。だってだだでさえ彼女は『おちこぼれ少女』なのだから。
「今日僕がここに来たのはね……科学部に入りたいんだ!!!」
「『……いいよ!』」
「いいの!!??」
返事はとてもあっさりOKだった。とてつもなく順調過ぎて怖いくらい。
「あ、名前聞いてなかった。名前は?」
『平野梨央』
「ひらのりおう?」
「ひらのりお!!」
小さいものの可愛い精一杯の声が聞こえた。もちろんむちゃくちゃ可愛い。
「それじゃあよろしく!」
こうして科学部の部員としてちょっぴり新たな日常が始まった。
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