担任から言い渡された試練は、落ちこぼれ少女の彼氏になることでした

星海ほたる

第1話  決断

「おい、板坂いたさかちょっとこい」


 担任のシンちゃんこと、山村真一やまむらしんいちが自分を呼ぶ声。ごく普通でどこにでもいるような工業高校の生徒である僕、板坂岬いたさかみさきのクラスの担任がこのシンちゃん。柔道をしていて身体のデカいシンちゃんは優しくて生徒とも仲が良く信頼も厚い教師だ。子供っぽいとこがあって年齢も近いので話しやすい。

 シンちゃんとは普段から仲が良く、先生と呼んだりシンちゃんと呼んだり様々。シンちゃんは僕のことを普段はみさきと呼ぶのだが、今日はなぜだか名字で呼ばれる。シンちゃんの紹介はさておき……。


「どーしたんですか?」

「どうしたんじゃなくて、お前。テストの日休んで東京行ってただろ」

「それがどうしたって言うんですか」

「お前、だぞ」

「あぁ、怠学行為たいがくこういですね。なまけがくと書いて」


 なーんだ、そんなことかぁーと思っている僕の言葉にシンちゃんは首を振った。上下ではなく左右に。


「え……。退学!!??」


 思いもよらない突然の報告に戸惑う。冗談ではないかと先生の顔を見つめるが表情は変わらず、じーと顔を見てくるだけ。


「ほんと?」

「先生が生徒に嘘つくと思うか?」

「うん」

「そうだとしても残念。これはほんとに退学。お前、前にも深夜に補導されて指導なっただろ。少し厳しい判断ではあるかもしれないが退学だ」


 先生は他の生徒にバレないように配慮しながら言った。この行動から本当の話なのだろうと確信。更に不安がつのる。


「だが。一つだけ」

「一つだけ??」

「あぁ、この学校に残る方法がある」

「マジで!?」


 先生はそう言いながらも少し心配そうに言うのに躊躇ちゅうちょする素振りを見せた。

 だけど、もうこれしか方法はない。親にバレたらむちゃくちゃ叱られて、幻滅され、家庭での居場所がなくなることだってありうる。てかバレないわけがない。


「やります」

「わかった。ならお前に試練を与える!」


 先生は表情を柔らかくし、少しおもしろそう気な様子で言った。笑ってる場合かと心のなかでツッコむ。


 そしてシンちゃんが言い放ったのは、僕にとって到底理解のし難い。最低で最高?な試練。


「おちこぼれ少女の彼氏になれ」

「は!?」


 あまりの予想外な試練に驚いて素っ頓狂な声が教室に響いた。


 おちこぼれ? 少女!? !!?? 意味がわからん。


「でもそんな子知り合いにはいないし、突然彼氏って……」

「そうだな。岬の友達ではない。だがうちの生徒だ。不登校で成績も微妙な子なんだが、学校を楽しんでなさそうで、クラスからも浮いている。だからそれをお前が彼氏になって変えてやるんだ。彼女の寂しさを埋めてやる。それがお前の試練」


「俺は売春ばいしゅんでもレンタル彼氏でもないですよ」


 彼女なんて生まれてから今に至るまでいたことがないし、それも不登校の子だなんて。僕が知ってる子は、心に深く辛い傷があったり、空気が読めなかったり、そんな子ばかりだから彼氏だなんて荷が重い。それに好きでもないのに付き合って、いつかはお別れ。それはその子にとって失礼だし、自意識過剰なのかもしれないが、万が一その彼女が僕のことを好きになってしまったら……。


「お前はやっぱり、退学でいいです」


 気づいたときにはもう口が勝手に動いていた。


「お前ならそう言うと思った。だけど、よく考えろ。お前の人生もかかってる」


 そうだ。僕はいつからそんな甘ったるい考えの人間になったんだ。なんでそんな子のことで僕が退学なんかに……。


「決まったか」

「はい」








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