第103話 慈善事業は偽善事業かもしれない

 クラウディアさんへのプロポーズは子供達の前であったが、それを見ていたエスカイアさんも、涼香さんもみんなの前で正式にプロポーズして欲しいと言われた。


 腹を決めたオレは三人ともに正式にプロポーズをさせてもらい、正式に婚約者になったことを了承してもらった。


 婚約の立ち合い人はトルーデさんがしてくれた。


 正式に三人の嫁を持つことになったのだが、すでに彼女達の中で自らの立ち位置の話し合いが済んでいるようで、日本での妻は涼香さん、エルクラストでの正妻はエスカイアさん、クラウディアさんは第二夫人ということで三者納得しているそうだ。


 サポートの範囲も綿密に分けられている様で、涼香さんが仕事における事務作業全般のサポート、エスカイアさんは調理担当兼、秘書業務、クラウディアさんは身の回りの世話全般と分担わけのバッチリと決まっているらしい。


「翔魔、お主は三人の嫁を喰わせねばならんからな。今まで以上に仕事に励まねばならんぞ」


「あ、はい。頑張ります」


 トルーデさんからの言葉に一層身が引き締まる思いがする。


 去年までは彼女すらいなかったが、今では三人の婚約者を持つ身になった。


 これも長く辛い就活戦線に苦しめられたご褒美だと思うべきか。


「まぁ、翔魔はあと最低で二人は嫁に迎えないといけないからのぅ。もっと、精進していい男を目指さねばならんぞ」


 意味深な視線を送ってくるトルーデさんであったが、オレは視線をずらすことにした。


 これ以上、婚約者が増えたら絶対に妹に殺されると自信があるのでご勘弁願いたい。


 魅力的な女性であることは認めますし、人物的にメイド趣味以外は尊敬できる方なんだけどね。


「さぁ、みんな。オレのプロポーズも終ったし浜辺でBBQしようぜ」


「翔魔様、僕、あのでっかい鋏持った奴を食べてみたい」


 オルタを筆頭にした子供達は色気より食い気の方が勝ったらしく、オレの手を引いてビーチに設置していたBBQの方へ歩き出した。


「アレってエビなのかな。色が鮮やかでオレも味が気になっていた。じゃ、飯にしようか」


「わたくしが調理いたしますわ。クラウディアさんも手伝ってね」


「はい。心得ています」


 みんなを連れ立って浜辺に戻ることにした。



 BBQはエスカイアさんが天木料理長直伝の海鮮浜焼きの妙技を見せてくれたおかげで、子供達も大はしゃぎで食事を楽しんでくれている。


 網の上では日本で見かけたことのあるような食材も焼かれているが、真っ青な殻のエビはロブスターらしく、日本にも極秘裏に輸出されている高級ロブスターだそうだ。


 ちなみに日本ではブルーロブスターという名前で一尾ウン万円するとエスカイアさんから聞いている。


 変わったことに日本では甲殻類は茹でたり焼いたりすると赤く変化するのだが、エルクラストの甲殻類は元の色のまま茹で上ったり、焼き上がったりした。


 エスカイアさんが焼いてくれたブルーオマールロブスターの身をクラウディアさんが丁寧に身をほぐしてオレに食べさせてくれる。


 日本でこんな姿を妹の玲那に見られたら即飛び蹴りがこめかみ目指して飛んでくる事態だが、ここはエルクラストなので安心して食べさせてもらう。


「柊様、ちょっと熱くなっているので気を付けてくださいね」


「あ、うん。でも、美味いね。クラウディアさんやエスカイアさんも食べてってね。今回はみんなの慰安旅行も兼ねているんだから」


 オレばかり食べさせてもらっていたので、料理と給仕をしている二人にも食事をするように伝えた。


 涼香さんはすでに持ち込んだ酒を後から合流したグエイグと空けて出来上がり始めているし、聖哉とイシュリーナも二人でワイワイとして食事をしている。


 それにトルーデさんはメイド風水着を着せたヴィヨネットさんに給仕されてご満悦の様子だ。


 給仕しているヴィヨネットさんも満更嫌そうな顔をしていないので、二人の間に離れ難い絆が結ばれていないか危惧を覚えるが、趣味の範囲で収まっていることを信じたいと思うことにした。


「では、お言葉に甘えて、わたくし達もご相伴に預かりますわ」


 エスカイアさんが子供達の分を焼き終えると、自分の分とクラウディアさんの分を持ってオレの隣に腰を下ろす。


 いつもとは違い、露出度の高い水着を着ている美女が二人が両隣に座っていると認識すると緊張をしてしまう。


 美女二人に緊張したオレは食事を終えて、海辺で遊び始めた子供達の姿に視線を向けて、二人をなるべく意識しないで済むようにした。


「それにしても、オルタ達は楽しんでいるなぁ。みんな海が初めてだって言ってたから、連れてきた甲斐があったな」


「そうですね。私達が海を見られるだなんて思いもよりませんでした。内陸のドラガノ王国で生まれ、孤児として親がいない者が美味しいご飯と白い砂浜のビーチで遊んでいられるだなんて、夢としか思えないです。明日の朝起きたら、前と同じように王都の孤児院で孤児達を救えない自分に戻っているんじゃないかって不安なんです」


 エスカイアさんから受け取った食事をフォークで突きながら、子供達の方を見ていたクラウディアさんがふぅとため息をついた。


「クラウディアさんにしたら、すごく失礼な話かもしれないけど、オレは両親ともに居て、普通にご飯食べて、好きなことをして育ってきたことが、本当に凄い幸せだったってことにオルタ達やクラウディアさんを見て気付けたんだ」


 親父やお袋が頑張ってくれたから、オレはのんべんだらりと暮らせていた。


 両親には感謝しかない。


「こんなにいい待遇で育てられてたと思ったら、自分がすごく恥ずかしく感じてさ。せめてもの罪滅ぼしにオルタ達やクラウディアさんが目指す者になれるように支援できたらなと思っているんだ。偽善だとか言われるかもしれないけどさ。やらない善行より、行動する偽善でもいいんだとオレは思ってる。迷惑だとか同情はいらないと拒絶されない限りだけど」


「少なくとも私やオルタ達は利口ぶって手を差し伸べてくれなかった人より、柊様のやってくれていることの方が数百倍も助かったと思っています」


「そう言ってもらえると助かるよ」


 自分が恵まれた環境で生活していたことをエルクラストでオルタ達と出会うまでは感じられなかったし、虐げられている人がいるってことはネットでは知っていたけど、他人事でしかなかった。


 けど、クラウディアさんやオルタ達とエルクラストで顔を合わせるようになって、エルクラストでも地球でもそういった虐げられている人達がたくさんいるということに感じられるようになった。


 日本ではあまり力はないオレだけど、このエルクラストでなら、きっとそういう人達の手助けをできることがたくさんあると思う。


「翔魔様を始めとした日本人の派遣勇者の方は本当にピュアな方が多いようで、エルクラスト各地で慈善事業を行ってくれる事は、会社としてもわたくし個人としてもとても素晴らしいことだと思っていますわ」


 エスカイアさんもニッコリと笑ってオレのやっていることを肯定してくれた。

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