第104話 幕間02

 ※三人称


 とあるビルの一室にある貸し会議室にて黒髪の年若い青年が銀髪で立派な髭を生やした老紳士と会談をしている。


 ビルの窓から見える景色は東京のようで、窓の外には高層ビル群が軒を連ねていた。


「お互いに名乗り合う必要なないでしょうな。それとも仮名で呼べばいいですかな?」


「『おい、お前』とかはさすがに失礼でしょうから、俺のことは『リュウ』、貴方は『イワノフ』でいいかと」


「まぁ、承知した。お里が知れてしまう気がするが、知られてもこの国は何もできませんからなぁ。そうでしょうリュウ殿?」


「そうだな。イワノフが言う通りこの国は誰も責任を取らずに何も決められない国だ。見つかった所で金で転ぶ奴等が大半だからな。そんなことよりもイワノフ殿の支援によって日本国内の動きを本格化できそうだ。(株)総合勇者派遣サービスの奴等が警備を強化した上にこっちの組織の内情まで調査を始めてきているから、イワノフ殿の力で整いつつある新組織に人材を集めて、古いのは斬り捨てようと思っている」


 イワノフと呼ばれた老紳士は青い瞳を細め、リュウと名乗った黒髪の青年を見た。


 その眼光は鋭く、ぱっと見は好々爺にしか見えない老紳士がただ者ではないことを現わしていた。


 リュウもイワノフの鋭い眼光に曝されながらも動じる気配を見せずに淡々と話を続けていく。


「新組織にはわが祖国の者も加えてくれているようでなりよりですぞ。リュウ殿が我等にもたらしてくれたエルクラストの情報は祖国復活の切り札になると首脳陣も判断しており、その情報を二〇年に渡り秘匿してきた日本への敵愾心を燃え上がらせてきておりますぞ。武器や後方支援などは無制限に許可されておりますので、必要な物は随時ご用意します」


「ああ、それはありがたい。エルクラストの奴等は金に渋い奴等だったからな。イワノフ殿の支援は期待しているぞ」


「お任せあれ」


 イワノフが鋭い眼光をやめ、温和そうな老紳士の仮面を被り直すと、リュウに握手を求めて来た。


 二人はガッチリと固い握手を交わしていく。



 ビルの貸し会議室での秘密会談を終えたリュウが戻った先は、(株)総合勇者派遣サービスの社員寮の眼と鼻の先にある賃貸アパートの一室であった。


 部屋に入ったリュウが壁に取り付けられたドアを開けると、空間的に存在しないはずの階段が現れた。


 リュウはその階段に驚くような気配を見せずに淡々と下っていく。


 行きついた先は鉱山の廃坑の一角と思しき場所でそこには、魔獣の研究設備がズラリと並び、白衣をきた者達が忙しそうに機器と向かい合っていた。


 研究所みたいな場所を一瞥することなく通り過ぎたリュウは、更に奥にある部屋に入ると、室内に置かれていた豪奢な革椅子に腰を下ろす。


 しばらくすると、ドアがノックされ背中から羽を生やした有翼族と思われる女性が飲み物を持って入ってきた。


 そして、そっとリュウに飲み物を出す。


「会談お疲れ様でした。マイマスター。お留守の間に起きた事の報告をさせてもらいます」


「ああ、手短にたのむ」


 有翼族の女性は飲み物を持ってきたお盆の下から、ボードを取り出し、束ねてある書類を読み上げ始めた。


「ご不在の間に旧組織の幹部の方達が、試作品の超弩級広域殲滅魔獣の棘島亀ソーンアイランド・タートルを持ち出して、機構と(株)総合勇者派遣サービスを揺さぶるべく、ドワーフ地底王国に奇襲をかけましたがあえなく柊翔魔を含む派遣勇者三名によって討ち取られました。戦闘のデータはしっかりと取れていますので、次期型からの性能は上がると思われます」


「どうせ人材も移し終えて、斬り捨てる組織だから派手にやらかしてくれて助かったな」


「機構側に情報をリークして、今回の暴走を行った者達が誰であるのか暴露しております。もちろん、マイマスターの存在はあの方達は知られておりません。替え玉を含めた斬り捨ての人材群のみで捜査の糸が切れるように仕組んであります」


 有翼族の女性は冷酷そうな笑みを浮かべながら、リュウに報告を続けていく。


「まぁ、金も知恵も大して出さなかったが、害獣の生成法と改良技術を得られたのが奴等の功績というわけだ。害獣さえ自分で創り出せるようになれば、日本、いや地球とエルクラストが一体化した時に俺の尖兵として大いに活躍してくれるはずだ。なんせ、現代兵器でも中々に倒せない強力な奴等だからな。害獣研究は日本でも進めていくぞ。今回はその援助先を見つけてきた」


「さすがマイマスターですね。(株)総合勇者派遣サービスの目も旧組織に向けられるとおもいますので、新組織の日本での活動も大幅に自由度が高まります」


「母親が命を賭けて繋いだ大切なエルクラストを食い物にして肥え太ってきた豚国家は潰れて当然だからな」


「私も及ばずながらマイマスターのお力になれるよう努力いたします」


 有翼族の女性はリュウの方をウルウルとした瞳で見つめている。


 彼女はリュウに一種崇拝に近い感情を抱いており、その身を全て捧げて支えるべき対象として見ていた。


「そうしてもらえると助かる。有能な者の手助けは目標完遂のためには必要だからな」


「そう言ってもらえると助かります。新たな組織には日本人の他に外国からも助っ人が来ると聞いておりますが大丈夫でしょうか?」


「使えなければ、使えないなりの使い方をするだけだ。目標成就のための金づるでもあるんで精々歓待してやろう」


「承知しました。では、見極めは私が致します」


「任せる。さて、しばらくは新組織の拡充をしていこう。相手は腐っているとはいえ国家とエルクラスト最強の武力集団だからな」


 リュウが豪奢な革椅子に身を沈めて一息つくと、有翼族の女性は一礼して部屋を後にした。

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