第102話 クラウディアさんを嫁にするため頑張ってみた。
走り去ったクラウディアさんの後を追って、王家の別荘がある建物の方へ来た。
ワズリンの気候はトルーデさんの母国であるミチアス帝国よりは北にあるのだが、外海に暖流が流れているため沿岸は温かい気候になっている。
そのため、ドワーフ地底王国の王族は日光浴をするためにこの地に街を築いたのがワズリンのできた成り立ちだとシュラーが言っていた。
その王族用の別荘の敷地は広大であるが、隣接する民間のビーチもドワーフ地底王国以外の各国から綺麗なビーチに観光しにくる富裕層を相手に結構な規模の観光地だ。
「別荘の方に行ったと思ったんだけどなぁ……。こっちじゃなかったか……クラウディアさんはどこに行ったのだろうか」
駆け去った方向に向かって追いかけてきたが、肝心のクラウディアさんの姿を発見できずにオレは焦りを募らせた。
別荘の建物内部にも入って探してみたが姿が見えずにいたので、ディスプレイを呼び出してクラウディアの姿をマップに映し出させる。
焦り過ぎてテンパっていたがチームのメンバーであるクラウディアさんの居場所であれば、社員証から辿れることを思い出した。
テンパり過ぎだろう……。落ち着けって……。
展開したディスプレイにはクラウディアさんの輝点が民間のビーチの方で点滅している。
オレはすぐに駆け出しながらトークと呟きクラウディアさんに連絡を入れた。
通話が繋がりディスプレイには、クラウディアさんが映ったかと思ったら、なんだか男の声が混じっていた。
「おい。ねーちゃん。俺達と一緒に飲みに行かねーか? 俺達、遊び相手が欲しかったんだよねー。どうだ? 金ならいくらでもあるぜ。なにせ俺の親父はオルギスステン王国の大貴族様だからさ。その、貴族様の俺が一緒に遊ぼうぜって話かけてるんだぜ。光栄だろ? どうせ、このビーチで貴族のナンパ待ちしてたんだろ? いい体してるから俺のペットとして飼ってもいいぜ」
小人族の小柄な青年がディスプレイ上に映っているが、貴族の特権階級によって腐りきった性根を持った唾棄すべき類の男であった。
「私はすでに決まった方がいるので、貴方様のお誘いはお受けできませんから、手を離してください」
毅然とした声で小人族の青年の申し出を拒絶しているクラウディアだったが、周りにいた取り巻きの男達によって腕をより強く握られて連れていかれそうだった。
クラウディアのその姿を見たら、(株)総合勇者派遣サービスの派遣勇者である自制心の箍が外れそうになる。
オレがこの世界の住民に本気出したら肉片も残らず消し去ってしまうことができてしまうが……。
このままだとクラウディアが……。
「嫌、やめて、やめてください! 人を呼びますよ!」
「別に呼んでもいいぜ。俺達に意見するような奴はこの辺りには誰もいないさ。なんたって俺をぶん殴ったら国際問題になるからなぁ。この国の役人だって手を出さないさ。さぁ、俺達と楽しもぜ!」
「触らないでっ! やめて!」
嫌がるクラウディアの声が焦燥感を増してきた事で事態は悪い方に流れていると判断した。
ダメだ! 我慢できねぇ!
クロード社長、エスカイアさん、涼香さん、トルーデさん、オレはまだ大人になりきれるほど大人になってなかったみたいだ。
せめてもの慈悲に半殺しにしておきます。
派遣勇者の力を本当ならこんなことに使っちゃいけないだろうけど……。
オレはオレの中にある物差しで『弱きを助け、強きをくじく』実行することにする。
こんなことを許しちゃいけない、ガキ臭いとか笑われたっていいさ。
ここでクラウディアを助けられなきゃ、オレが派遣勇者をやる意味がなくなる。
腹を決めたオレはクラウディアさんのいる場所に向けて転移した。
「手を離せっ!!」
転移してすぐにクラウディアさんの手を掴んでいた取り巻きの男達を顔を拳でぶん殴る。
ちゃんと、半殺しで済むように威力は半減させて殴っているので、地面を勢いよく転がりぼろ布のようになりながら転がっていくのが見えた。
「柊様!? このような場で私のような者のために力を使われるだなんて……」
「オレの女にちょっかいかけて輩には一発きついお仕置きをしないといけないと思ってさ。ところで、クラウディアさんはオレの嫁にしていいよね? まだ、返事聞いてなかった」
オレの言葉を聞いたクラウディアさんが、フルフルと震えながら泣いている。
やべえ、それほどまでに嫌いだったとか言われると、オレは立ち直れないかもしれない。
でも、口に出した以上、結果は受け止めるしかないぜ。
最初はしくしくと泣いていたが、そのうちしゃくりを上げて号泣に移行してしまった。
慌てたオレはオロオロとしてしまう。
「お前等、俺の前で何イチャついてるんだ。俺はオルギスステン王国の大貴族の嫡男だぞ。無礼だ――」
オロオロとしているオレの後ろには取り巻きが吹き飛ばされたことでも怯まないのは肝が据わっているのか、ただ単に鈍い男なのかは測りかねたが、面倒臭いので魔術で吹き飛ばした。
泣きじゃくるクラウディアさんの肩を抱くと、もう一度さっきと同じ言葉を口にする。
「クラウディアさんはオレの嫁になってくれるよね?」
「あぅううう……わだじなんがでいいんでずがぁ……」
号泣しているクラウディアさんはいつもと違って、微笑んでおらず、不安そうに顔を沈ませた。
そんなクラウディアさんの一分一秒でも早く笑顔に戻したくて思わず彼女の身体を抱きしめた。
「クラウディアさんがいいんだ。オレ、まだ抜けてて、仕事も一人前じゃないけどクラウディアさんのことが好きなんだ。調子のいいことを言っているのは理解しているし、オレのわがままだということも知っている。けど、好きになったから一緒に居たい。ダメかい?」
「柊様……。わだじは孤児ですよ。そんなのが貴族様で上司である柊様のお傍に上って良いわけが……」
オレは泣きじゃくるクラウディアさんをお姫様抱っこで抱きかかえるとキョトンとするクラウディアさんのほっぺにキスをした。
すると、砂浜の方から歌声が聞こえてくる。
この歌はよくクラウディアが孤児院の子供達と唄う歌でドラガノ王国の婚姻を祝う歌らしい。
声のする方を見るとオルタを始めとした孤児院の子供達とトルーデさんやメンバー達が勢揃いして歌っている。
子供達が持っていた自分達で作ったと思われる横断幕には『クラウディア先生、翔魔様、ご婚約おめでとうございます!!』と大書され、様々なデコレーションがされていた。
「クラウディア先生、翔魔様、おめでとうございますっ!!」
オルタの声に続いて孤児院の子供達が、笑顔でクラウディアとオレとの婚約を祝ってくれていた。
その姿を見たクラウディアが小さな声で囁く。
「柊様……もう、後戻りはできませんよ。私って結構尽くすタイプなんですよ」
「そんなこと知ってるさ。何時も助けてもらっているからね」
「今まではかなり我慢してきましたけど、こうして嫁としてもらえるなら、お背中流しますね」
「ええ!? そ、それはみんなと相談して決めよっか」
さっきまでの暗い顔を吹き飛ばしたようなクラウディアさんの飛び切りの笑顔がオレの心臓を射抜いた。
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