第63話 重要mission:エルクラスト観光案内をこなせ!


「君達が私を護衛してくれる(株)総合勇者派遣サービスの派遣勇者とかいう人達かい?」


 日本側のオンボロ本社でクロード社長と共にお出迎えした羽部総理が肝入りで選んだという作家先生は、地味目の顔立ちに小太りな体型の中年男性であった。


 どう見ても、作家といったオーラは見られない。


『翔魔、作家というのはあんなに地味なのか?』


 後ろからトルーデさんが服の裾を引っ張り、オレに目の前の人が本当に護衛対象の作家であるのか小声で確認してきた。


『そ、そんなことをオレに聞かれても……そうだ、涼香さんはどう思う?』


 急に話を振られた涼香さんが明らかに動揺していた。


『わ、私に分かるわけないでしょう。そう思うわよね聖哉君?』


『な、なんで僕に振るんですか。僕も知らないですよ』


 聖哉も涼香さんから目の前の作家についての感想を振られたことで狼狽えている。


 クロード社長とエスカイアさんが、地味な作家先生とビジネストークを繰り広げている間にオレ達四人は後ろでヒソヒソ話をしていた。


「んんっ! 柊主任、こちらが今回の護衛対象の颯流星はやてりゅうせい先生だ。失礼の無いようにしてくれたまえよ」


「柊君だね。クロード社長から話は聞かせてもらっているよ。今回はエルクラストのことを色々と見学させてもらって、それを元にファンタジー風のライトノベルを一本仕上げるようにと言われているのでね。できるだけ、創作意欲の湧く場所を見せてくれるとありがたい」


 颯流星先生は律儀に頭を下げると、オレに握手を求めてきた。


「んんっ! 護衛を担当するチーム『セプテム』主任柊翔魔です。この度は颯流星先生の護衛をできること、大変光栄に思っております。先生の創作意欲をエルクラストの世界を色々とご案内させてもらいますね」


 握手を交わすと、早速エルクラストへ向けて転移するために転移部屋へ移動することにした。


 転移部屋の魔法陣を見た颯流星先生は、手にした手帳に色々と書き込んでいる様子であったが、転移することを告げると手帳をポケットにしまった。


「では、これより転移を開始します」


 クロード社長以下、護衛対象の颯流星先生とオレ達のチームメンバーが一気に光の粒子に包まれていった。


「……それにしても、転移とはあんなにシンドイものなのかね……」


 エルクラストの初転移を終えた颯流星先生は見事に失神をして大聖堂に開設されている害獣処理機構の医務室に担ぎこまれた。


 初転移はやはりこういった重大な事態が起きかねないので、大量の日本人が転移してくることは望まれないことだと分かってもらえた思いたい。


「颯流星先生……お体は大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫そうだ。この転移場面はしっかりと注意喚起しておかないとな……気楽に観光気分で転移したらえらい目に合うと」


 自分で経験した転移の様子を手帳に書き込んでいく。


 体力のない子供や高齢者があの転移を行うようになったら、事故が起きる可能性があるので、そこら辺はしっかりと書き込んでおいて欲しいことだ。


「そうですね。オレも初めての時は気を失ったんで、あの転移は慣れるまでは用心した方がいいですね」


「そうか……。確かに強烈だった。それにしてもここがもうエルクラストという異世界だとは信じられないな。日本の病院のようにも思えるが」


 転移の時の様子を手帳に書き終えた颯流星先生は、機構の医務室の中をキョロキョロと好奇心に任せて見回していた。


「とりあえず、わたくしたちの本来の姿をお見せすれば、ここが異世界だと理解してもらえるかと思います」


 周囲を見回していた颯流星先生に、エスカイアさんとトルーデさんが例の黒縁眼鏡を外した。


 眼鏡を外すと尖り耳をもった色白エルフと褐色肌のダークエルフが目の前に現れる。


 二人の姿を見た先生の視線が釘付けになった。


 やっぱ、そうなるよね。見ちゃうよね。オレも何度も確認するしましたから。


「……えーと、着ている服装からすると金髪の色白エルフはエスカイア君で、褐色肌で銀髪幼女はトルーデ君だろうか?」


「正解ですわ。わたくしはエルフと呼ばれる種族で日本にいる間はあの眼鏡で耳と髪色と目の色を変えています」


「妾もおなじ眼鏡で変えておる」


 颯流星先生は茫然自失といったようにピクリとも動かず二人に視線を向け固まった。


「他にも変わった種族の方がいますが、まずはその前にこの大聖堂を管轄するエルクラスト害獣処理機構のトップの方にご挨拶をさせてもらっておこうじゃないないか。ブラス老翁は礼儀にうるさい人だからね。日本側が勝手に動くことに不快感を示しておられるから、きちんとご挨拶してお話を通しておかないといけなくてね」


 たしかにエルクラストの観光旅行をしてもらう前に、ブラス老翁さんにご挨拶しておかないと、いろいろとマズいだろうなぁ。


「クロード殿が言われたように、こちらの世界の重鎮の方にきちんとご挨拶をしておかないといけませんなぁ」


「すでに、アポは取ってありますので、このままブラス老翁のいる機構の所長室へ行きましょうか。柊君、先生をご案内して差し上げなさい。私は少し日本側との会合が入っていてね。ここでご無礼させてもらうよ。段取りについてはエスカイアに全部伝えてあるから後は頼むよ」


 どさくさ紛れに、クロード社長が手を上げて、そそくさと医務室から出ていこうとした。


 なんだか、きな臭い感じがするが、ここは出来る男であるクロード社長を信用するしか選択肢は残されていなかった。


「あ、あ、はい。では、颯流星先生、こちらへどうぞ」


「おお、案内を頼むよ」


 オレはブラス老翁の待つ大聖堂にあるエルクラスト害獣処理機構の所長室に向けて颯流星先生とメンバーを引き連れて歩き出した。

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