第61話 スカウト交渉は戦いの場でするのが相応しいのか
戦闘を続けていた聖哉達だが、瀕死だった一体はすでに聖哉によって討ち取られており、残る一体にメンバー達の攻撃は集中していた。
その一体もすでにかなりの手傷を負っているようで、エスカイアさん、トルーデさん、涼香さんのサポートを受けた聖哉による打撃攻撃によりかなり弱っている。
戦闘の勝利を確信したオレは、呆気に取られて見ているグエイグの隣に行き、肩を叩いた。
「グエイグさん、オレの武器も作って欲しいんだけど、聖哉や他のメンバー達の武器も作ってくれるとありがたい。会社の支給品の剣は、品質はいいんだけど、どうも物足りなくてさ」
声をかけられたグエイグはハッとした表情でこちらを向くと、ゴクリと唾を呑み込んだ。
「翔魔殿は武具など要らぬのではないですかな……。素手でSランクの害獣を退治できる御仁に、一体どのような武具を作ればよいのやら……。それ以外のメンバーの方はワシの腕でももっと高品質な物が作れるからイメージが湧くが。翔魔殿はさっぱり武具を持っている姿がイメージできぬ」
酷い言われようだが、撲殺するかたちでSランク害獣を倒したオレは、自分の戦闘のセンスのなさを思い出して、苦笑いをする。
「ははは、グエイグさんも言いますね。オレの腕前でも使える剣を作って欲しいですよ。例えば、怪力を使って刃筋を立てなくても折れない剣とか作れないですかね。切れ味は二の次で」
オレからの申し出に『う~ん』と考え込むグエイグであった。
「折れない剣か……。今回、ワシが作ろうと思って素材を集めていた剣ではあるが、翔魔殿の力に耐えられるかは未知数だぞ」
「その剣、試させて下さいよ。オレが試し斬りして折れないなら、エルクラストで剣を扱う人なら絶対に折れない剣になりますから」
グエイグが試作しようとしている剣を試させて欲しいと申し出た。
一応、派遣勇者をしているのに、武器一つも持っていないのは、外聞が悪いし、それに素手で戦うというのもなんだか野蛮な人みたいで、派遣勇者のイメージダウンになりそうな気もしている。
会社の看板を背負っている以上、エルクラストの住民達から白眼視されるような行いは回避せねばならないと思う。
やっぱ、勇者って言ったらカッコいい剣を手に華麗に戦うべきだよね。
「ふむぅ、だがな……。正直、ワシは自信がないぞ。あのクソ固い
「そこはグエイグさんの知識と知恵をフルに活用してもらえば。素材とか道具とかはオレが揃えますし、うちのメンバーになれば、給料も出ますよ」
折れない剣の製作に絡めて、討伐前に話していたチームへのスカウト話に持ち込んでいく。
有能な武具製作者グエイグを逗留させ工房を開いてもらい、孤児や領民から鍛冶に興味のある者に手伝わして、グエイグの持つ鍛冶技術を受け継げる人材を育てることができる。
そうすれば、ヒイラギ領もドワーフ地底王国と隣接している土地柄も生かせる新たな産業が立ち上がると思えた。
オレはグエイグの永住を決意させるために、もう一押しをしておくことにした。
「うちに工房を開いて、オレの剣やメンバーの武具を作ってくれるなら、オレ達が退治したSランク害獣の素材は自由に使ってもらっていいですし、地球側の銘酒と言われるあらゆる酒を手に入れることもしますよ。どうです? うちで働きませんか?」
考え込んでいたグエイグだったが、『地球側のあらゆる銘酒が飲める』という言葉を聞くと、より一層唸り声を高くした。
オレとグエイグがスカウト交渉をしている間も、聖哉は
最初よりもスムーズに動けているのは、Sランク害獣を討伐したことでかなりのLVアップをしているおかげかもしれない。
聖哉もこれでかなりLVが上がったようだし、ある程度の敵まではあいつに任せられるかな。
チームの長として部下の成長はとても嬉しい。
それにチームの中で唯一、オレよりも年下でもあるから、なおのこと彼の成長は嬉しかった。
あとは、グエイグの作る武具を装備させてやれば、経験さえ積めば他のチームの主任達にも引けを取らない派遣勇者になれると思われる。
なので、グエイグを確実にスカウトしてうちの専属鍛冶士として雇わねばならなかった。
「グエイグさん、うちで一緒に働きませんか? いい物を作るお手伝いはさせてもらいますよ」
未だに悩んでいたグエイグの前に握手を求める手を差し伸べていく。
唸り声を上げて考え込んでいたグエイグがカッと目を見開くと、オレの差し出した手を握り返した。
「わかった。その代わり、業務時間が過ぎたら、浴びるほど酒を飲むし、Sランク素材を贅沢に使い切ってしまうからな。ワシを雇うならそれだけは覚悟しておけよ」
「わかりました。飲み切れないほどの酒と、素材をご用意しますから、最高の物を作ってくださいよ」
グエイグとスカウト成功の握手をしていると、聖哉が弱ってフラフラとしていた
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