第52話 初任給でのプレゼントミッションは難度が高い?

 スーツをオーダーしたあとは、銀ブラをみんなと楽しんだのだが、涼香さんも二ヶ月分の給料でかなり懐が温かくなっていたようで、エスカイアさんに紹介してもらった高級な化粧品や服を結構な勢いで買い込んでいた。


 その様子をトルーデさんが呆れていたが、オレはトルーデさんがオーダーメイドで高級メイド服を作ってくれる店をこっそりチェックしていたのを見逃したりはしなかった。


 絶対にお給料でお気に入りのメイドさんのメイド服を仕立てるつもりだ。


 やはりトルーデさんのお給料はアレクセイさんに振り込んで、お小遣い制にしてもらった方が無難だと思えた。


 そんな感じでお買い物は進み、オレもエスカイアさんと涼香さんの知恵を借りて、お袋と妹へのプレゼントを買うことができた。


 お袋には三万円位のストールでエスカイアさんと涼香さんがデザインを選んでくれていて、きっとお袋も喜んでくれると思う。


 妹へのプレゼントはプラチナ製の洒落たデザインをしたクロスペンダントを選んでくれた。


 ちょっと値が張って四万を超えたが、余りに高級な物を送ると不審がられるので、ギリギリのラインを攻めてある。


 妹には今まで散々にコケにされてきたが、ちゃんとした社会人になった知らしめるプレゼントになっていた。


 親父には日本酒を買うことに決めてあり、一本数万するものを購入しておいた。


 買い物を終えて帰宅したオレは、翌日に一人で実家に帰ることにした。エスカイアさんや涼香さん、そしてトルーデさんも実家に来たがっていたが、実家は客人を泊められるほど広くないため丁重にお断りしておいた。また、別の機会に食事会でも開いて色々とお伝えするつもりだと言うことは三人に説明しておいた。



 プレゼントを持って意気揚々と実家に帰ると、先にSNSで実家に帰ることを連絡しておいた妹の玲那が出迎えてくれた。


 相変わらず、無駄な脂肪を一切削ぎ落したアスリートの体型をしているが、世間一般から見ればカワイイ部類に入る妹であり、オレのことを馬鹿にすることさえしなければ、自慢の妹ではある。


「兄さん、お帰り。結構真面目に働いてるみたいじゃん。なんだか、ちょっと見ない間に凄く雰囲気が変わったみたいだよ。前のぼんやりした兄さんとは別人みたいだね。ははは」


 玲那が珍しくオレのことを褒めてくれた。


 オレも(株)総合勇者派遣サービスに入って、バイトとは違う、正規の社員として色々と経験したことで少しは成長していたのかもしれない。


「まぁね。オレも社会人として二ヶ月も頑張っていたんだから、少しは成長するさ」


「わぁ。兄さんからそんな言葉が出るだなんて。おかーさん。兄さんが成長しちゃったよー」


 玲那は非常に失礼な言葉を吐いて、お袋がいると思われるリビングに駆け出していった。


 プレゼントを買ってあげたけど、プレゼントするのをやめてやろうか。


「失礼な。オレだっていつまでも子供じゃないさ」


 オレは玄関で靴を脱ぐとリビングに入っていった。


「翔魔、キチンとお仕事は出来ているようね。お父さんの職場とお取引のあるしっかりした会社だって言うじゃない。あんたが異世界だとかエルフだとか意味の分からないことを言っていたから、母さんは心配してたけど、キチンとした立派な会社だというのは分かったわ。この間、あんたの会社の社長さんが母さんとお父さんを立派な本社にご招待してくれて、色々と会社のことを説明して下さったし、高級なレストランで会食までセッティングしてくれたわよ。あの会社は絶対にいい会社だから、辛くても我慢して働きなさいね」


 むぅ、どうやらオレがエルクラストで働いている間に、親父とクロード社長で口裏を合わせてお袋を懐柔する作戦が決行されていたようだ。


 どっちもそのことをオレに言わなかったけど、お袋に疑念を抱かせたのは、オレの無思慮な言動のせいなので、素直に大人二人のフォローに感謝した。


 さすが、親父とクロード社長だ。


 お袋に本社として紹介したオフィスビルは、オンボロビルじゃなくて、(株)総合勇者派遣サービスの持つグループ企業の持ちビルのどれかだと思う。


 優良企業のイメージをお袋に植え付けたクロード社長は、きっと替え玉を使ったに違いない。


「ああ、あれはオレが色々と勘違いしていたみたいでね。海外勤務もあるって言いたかったんだよ。母さんに心配かけたくなくてね。そうか、うちの会社きてたんだね。すごい立派でしょ。オレもあの会社に入れてすごい良かったと思ってるんだ。できれば、定年まで勤め上げたいと思ってるよ」


「そうしなさい。きっと、今のご時世だとあそこ以上の会社は中々ないわ」


 お袋は完全に会社を気に入ったようで、業務内容に関しては深く追求してくる気配はなかった。


 夕方までは仕事の話を適当に誤魔化しながらお袋と玲那に伝えたり、玲那がまた学生記録を更新して、実業団でもトップクラスの企業からの内定をもらったことなどを聞いたりして近況を語り合っていた。


 飯時になると早く帰るとSNSでメッセージをくれていた親父が帰ってきた所で一家揃っての夕餉の食卓となった。


「翔魔、会社の方ではしっかりと働いているようだな。あのクロード社長が手放しで褒めていたよ。あの人は意外と気難しい人なんだけどね。それが、翔魔のことは珍しく褒めているんだよ。父親として息子を褒めて貰えると嬉しかったぞ」


 親父はオレがプレゼントした日本酒を開けて、晩酌を始めた。


 オレのプレゼントが相当嬉しかったらしく、一升瓶であげた日本酒をすでに五割ほどまでに減らしていた。


「そうなの?」


「凄いじゃない。あの立派な社長さんに褒められるってことは、覚えがめでたいってことよ。出世できそうで何よりだわ」


「兄さんが必要とされる会社って実在したんだね……。世の中には不思議が溢れているわ」


 相変わらず玲那の言葉には棘があるが、仕方なくプレゼントしたプラチナのクロスペンダントは非常に気に入ったようで、直ぐに身に着けてくれた。


 お袋もエスカイアさん達が選んだストールをとっても気に入ったようで、初任給プレゼントミッションはオレの給料を勘繰られることなく、穏便に遂行することが完了した。


「酷い言い草だけど。学生時代のオレを見ていたら自分でもそう思われて仕方ないと思えるよ。会社で色んな先輩に出会ったから、オレも成長を出来ていると思うしね」


「へぇ、社会人になるとそんなに変われるんだ」


 玲那は不思議な生物でも見るような目でオレを見ているが、これでも一応、歳が上の兄であることだけは理解して貰えるとありがたかった。

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