第50話 続・主任クラスの人達がヤバい人だらけ
「さてさて、まだチームはあるな。次はチーム『クァットゥオル』の主任天木志郎君と副主任アッシェだ。そういえばアッシェは初めて会うな」
料理長の天木さんと、銀髪赤眼で黒艶肌をした肉感的なお姉さんがこちらに近寄ってきた。
「あら~、あなたがエスカイアの旦那様候補なの? かわいい顔してるわね。うちの人よりもイイ男かも、ねぇ、お姉さんと遊んでみない?」
アッシェさんと思われるダークエルフのお姉さんが耳元に口を寄せて囁いてきた。
その魅惑的な姿に少しドギマギとしてしまった。すると、背後で一気に熱量が数倍に増した気がする。
「アッシェ先輩! 翔魔様に手を出したら、わたくしが本気でお相手させてもらいますよ」
「あら~、怖いわね。冗談よ。あたしはダーリン一筋だから安心しなさいよ。ちょっとは余裕を持たないと嫌われちゃうわよ」
いや、オレとしてはエスカイアさんが焼きもちを妬くのも、別段、嫌いではないのではある。
女性がオレの事を好きになってくれるだなんて今まで体験したことがないので、嫉妬してくれるほど自分を必要としてくれているんだと再認識した。
だって、エスカイアさんって才色兼備のカッコいい女性なんだよ。そんな人に惚れられるのは男冥利に尽きるって思うんだ。
「嫁が失礼をしたな。まぁ、こうやって俺もこのアッシェに誑かされて、エルクラストに移住して、今じゃ四〇人の子持ちシェフだ。ちなみに実子は一人だがな。翔魔の建てた孤児院ほどではないが、俺も孤児院みたいなのを経営している身でな。うちの場合は料理人として腕を仕込んでいるのさ。腕一本で喰っていける料理人なら仕事には困らないからな。孤児達を集めて仕込んでいるってわけさ。うちのメンバーその孤児院出身者がほとんどだな」
「あの食堂の厨房スタッフの人達ですか?」
天木料理長は自分が育てた孤児達をチームメンバーとして雇い、食堂スタッフとしても雇用していたそうだ。
道理で金欠な上にアッシェさんから金をせびられるはずだ。孤児院経営は派遣勇者としても結構な負担となるものである。
幸い、オレの場合は領地がセットでついて来てプラスになっているが、天木料理長は主に料理長として雇われており、派遣勇者として社員ランクこそ高い物の緊急応召チームのため、副業や手当がほとんど付いていないと思われた。
「ああ、あいつらは優秀な奴等でな。料理もそこそこできるから、赤沢主任から暖簾分けしてもらう時にチームメンバーに引き上げた奴等さ」
天木料理長は赤沢主任の下で派遣勇者をしていたようだ。
天木料理長も筋を通さないと、キレるタイプなので赤沢主任とは結構気が合ったのかもしれない。それにしても主任クラスはヤバい人だらけだ。
「へぇ、赤沢主任の下で天木料理長も害獣退治してたんですね」
「ああ、俺はアッシェと一緒に斬り込み役だったぜ。倒した害獣の肉とかで魔境で取れる食材を使ってメンバーに料理を振る舞っていたら、クロード社長の耳に入ってな。社員食堂の料理長に抜擢された訳さ」
天木料理長は元ホテルの料理長をしていたという肩書きを持っていたが、派遣勇者としてもしっかりと戦っていた。そして、多くの孤児を養ってもいる人格者でもあった。
見た目は完全にヤク〇にしか見えないんだけど、真面目な人だと言うのは、この二ヶ月で感じ取れるようになった。
「この前のミチアス帝国の時は助けてもらってありがとうございます。初めての仕事でテンパって、天木料理長の後詰めがなかったら大混乱に陥っていたでしょうから」
「ああ、いいってことよ。俺のチームは、他のチームの支援とバックアップがメインだからな。給料分の仕事をしたまでだ。だから、気にするな」
「そう言ってもらえるとありがたいです」
天木料理長はオレの肩をポンポンと叩いてくれた。
エスカイアさんとアッシェさんはなぜか、アッシェさんがエスカイアさんの頭をナデナデしていたのだが、何でそうなったのかまでは見えていなかった。
けれど、エスカイアさんは完全にアッシェさんに遊ばれているようにしか見えないのが微笑ましく感じる。
エスカイアさんがアッシェさんに反撃しようとした所で、天木料理長が嫁を担いで席に戻っていった。
「天木君とアッシェ君はサポートチームだから、現場に出る回数は少ないけど、縁の下の力持ちといった形で我が社に貢献してくれているね。さて、続いてはチーム『クィーンクゥェ』の
クロード社長の説明を受けていると、規則正しい足音を響かせてオレの前にきた鍛え抜かれた体躯をしている中年の男性が敬礼を送ってきた。
一歩後ろにはショートカットのアスリート体型の二〇代後半の女性も同じく敬礼をした。
「柊主任、初めまして。私はチーム『クィーンクゥェ』主任、東郷守久ですっ! 以後お見知りおきを。後ろのは副主任をしている要美尋副主任だ。彼女ともどもよろしく頼みますっ!」
敬礼を終えると、東郷主任は握手を求めてきた。
慌てて握手を返すと、手の平の皮は分厚くゴワゴワとしており、戦いを専門とする人が訓練で手に入れた手の感触であることが理解できた。
「あ、はい。こちらもお世話になると思いますが、以後よろしくお願いしますっ!」
思わず、俺も姿勢を正して背筋を伸ばしてしまう。
「東郷君のチームも害獣駆除専門の派遣勇者達でね。後は、地上にいる際の警備も担当してもらっているんだ。東郷君は、元々自衛隊の特殊作戦群が主体で行った異界調査に同行しててね。そこで、私と出会って会社に移籍してもらったのさ。チームのメンバーは彼が選んだ精鋭の自衛官達なんだよ。移籍してもらう時に防衛省の上の人達と随分激論を交わしてね。二つ、三つ、マズい情報をマスコミにリークしないと首を縦に振ってくれなかったのはいい思い出だね」
「そんなこともありましたな。アレで制服組の方達は真っ青になりましたからね。今もクロード社長には逆らうなが自衛隊の基本方針らしいですよ。部下のスカウトも大分しやすくなりましたし」
二人して笑っているが、日本国最高の武力集団を統括する防衛省の偉い人達をやり込めたクロード社長は改めて、本当にヤバイ人だと思われる。
自衛隊とかSPとかいるし、後は公安警察出身者かな。
「東郷主任、今後よろしくお願いしますね」
「柊主任も暇があったらうちのオフィスにくれば、要副主任が体術訓練とか、柔剣道教えてくれるぞ。彼女はああ見えても柔剣道、合気道の達人だからな。派遣勇者として適性が高くても基本となる戦闘能力は必要となるからな。いつでも来てくれたまえ」
東郷主任の後ろで要副主任がにこやかに笑っているが、これは絶対に罠のような気がする。道場に行くと笑顔で締め技とか極めてくる気がしてならなかった。
「あ、はい。ご厚意ありがたく頂戴します」
二人は敬礼して席に帰っていった。
「自衛隊員も薄給だからね。能力の高かった彼らをスカウトできて良かったよ。おかげで、日本にいる時も街でヤ〇ザに因縁つけられたけど、三秒で制圧してくれたからね。ホント助かるよね」
色々と裏の顔を持つクロード社長は、命を狙われる存在なのかもしれない。
まぁ、主に日本の偉い人とかエルクラストの偉い人達に嫌われているんだろうけどさ。
「さて、最後のチーム『セクス』主任、水谷龍二主任と藍原悟副主任だ。彼らは元公安警察の職員でね。エルクラスト側の情報収集役も兼ねてチームを運営してもらっているのだよ」
平均的な日本人顔をした二人の中年が挨拶をしてきた。
「柊主任、私が水谷だ。私達のチームは主に害獣や国家情勢情報収集の担当でね。この前のミチアス帝国の件はすまないことをした。私達が追っていた反日組織の動きが予想以上に早くてね。君の手を煩わせてしまったようだ。すまないね」
水谷主任は表情を一切変えずに握手を求めてきた。知的な雰囲気を漂わせているが、どこか冷たい印象を受ける人である。
「すみません。僕も水谷主任も色々と裏で動いてましてね。ドラガノ王国の件では少し恩返しできたと思いますが」
藍原副主任はスラリとした長身の身体を小さく折りたたむように、頭を下げていた。その容姿はどこにでもいそうな日本人青年といっても差し支えなかった。彼らは主に裏方で働いているようで、反日、反害獣機構の組織の情報を集めているそうだ。
害獣退治は専門外で、見つけた際は機構に依頼を流す役割も負っているらしい。
「あ、あの件は水谷主任達が裏で動いてくれたのですか……。道理でドラガノ国王の気前が良かった訳だ。おかげで助かりました」
改めて二人に礼を言った。
「こちらの失点を救ってくれた礼だから気にしないでくれ。これからもよろしく頼むよ」
水谷主任は軽く手を上げると、藍原副主任と席に戻っていった。
「あの二人は公安警察で社員寮の警備をしてくれていた二人だったんだけどね。能力の高さを気に入ってうちの会社に入ってもらったのさ。勇者適性はそれなりだけど、彼らの集める情報は日本、エルクラスト限らず良い物が多いからね。社としては何度も助けられている訳さ」
二人はクロード社長の耳代わりの仕事をしているようだ。
お庭番というか、密偵みたいなことを専門にしているのだろう。
これで全チームの主任と副主任との挨拶を終えたが、どう見ても一般人出身がオレと静流さんくらいしかいない気がするのは、気のせいだろうか。
(株)総合勇者派遣サービスは大学とかにも募集をかけている一般企業だが、勤めている人達は皆、一門の人物が勤めているようだった。
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