第49話 主任クラスの人達がヤバイ人だらけ


 俺たちが席に着くと、すぐに他のチームの主任達も勢揃いして、『(株)総合勇者派遣サービス』の主任会議という名の真っ昼間の懇親会が始まることとなった。


 まず、クロード社長より新チームの主任となったオレに、各チームの主任達が紹介されていった。


「まず、チーム『ウーヌス』の西園寺静流主任と副主任大鳳凱おおとり・がいの二人だ。うちの最古参のチームだね」


 入社式でオレを斬りつけてきた静流さんが、クロード社長に勝るとも劣らない筋肉を誇示したTシャツ短パン姿の短髪壮年の後ろに隠れてビクビクしていた。


 大聖堂ではアレだけぶっ飛んだことをしでかした静流さんだが、なぜだか今日は怯えている様子だった。


「君が翔魔君か! 入社式では静流が悪さをしたようだね。本人も反省している様子だから、グーパンチとかで殴るのは勘弁してやってくれ」


 凱さんは爽やかな笑顔に白い歯を見せてオレに握手を求めてきた。


 別段、静流さんのやったことは気にしていないし、凱さんが言った女性をグーパンチで殴る趣味をオレは持ち合わせていなかった。


「そ、そんなこと思ってないですよ。オレもあの時、静流さんの胸触っちゃったし」


 背後にいた静流の眼にブワっと涙が溜まっていく。


 なんだろう、あっちにいる時と全然、雰囲気が違うのだが……。


「気にしてないならいいんだ。静流も気にしてないからな。まぁ、色々と噂を聞いているけど、期待の新人らしいからよろしく頼むな。うちのチームも専任じゃないが厄介事担当みたいなものなんで、一緒に仕事する時は頼むぜ」


 凱さんは、静流さんが気にしていないと言っているが、どう見ても震えて泣いているので、めっちゃ気にしているようにしか見えないんだが……。


 オレの気のせいだろうか?


「凱さん、わたくしも副主任となりましたので、よろしくご教導賜りますようお願い申し上げます」


「おお、エスカイアもついに自分のご主人様を見つけたようで何よりだ。お前の理想も高かったからなぁ。翔魔君は『エルフの至宝』と呼ばれているエスカイアを侍らせているなら、夜道に気を付けないとな」


 凱さんがとても不穏な発言をしているが、確かにエスカイアさんは美人が多いエルフの中でも特別に綺麗な容姿をしているとは思ったが、もしかしたら国ではアイドル級の人気を誇っているのだろうか? 


 本人はそういったことを教えてくれないのだ。


「凱さん、あまり余計なことを言われますと、脳天から矢が生えますけど」


「いやー。さすがに俺も脳天まで筋肉で覆えないから、ここらで黙ろう」


 目が笑っていないエスカイアさんの鬼気に押されて怖気づいたのか、凱さんは涙をボロボロと流す静流さんを担いで席に戻っていった。


「まぁ。アレでも静流の次に強い派遣勇者なんだけどね。私とは同じジム仲間さ」


 やはり、同じ趣味の同類だったか。クロード社長と凱さんが筋トレに励むジムはさぞかし、周りの人が恐怖感を感じているだろうな。


「それはさておき、次はチーム『ドゥオ』の西島秀明主任と谷原修平副主任だ。二人は元SP出身でね。要人護衛業務を中心に処理してもらっているんだ」


 西島主任も、谷原副主任も目付きが鋭く、精悍な顔つきをした男達であった。キッチリと黒いスーツと着こなしている。


「私等は裏方仕事担当なんでね。派手な害獣との戦いは柊君に任せるよ」


「俺も同意見ですね。目立つ仕事は俺達にはできない」


 二人とも身体を鍛えているようで、威圧感が半端ない。視線に曝されると思考が読み取られているのではないかとつい勘繰ってしまう。


「はぁ、一緒の仕事の時はよろしく頼みます。どうも、オレは力があり過ぎて破壊力が高いと怒られるんで、要人護衛の仕事はなさそうですが……」


 二人はオレの言葉に苦笑いを浮かべながら握手を交わして戻っていった。


「あの二人もそれなりに強いよ。こっちの世界なら、断然柊君より強いけどね。さて、お次はチーム『トレース』の赤沢茂主任とアーレイ副主任だ。彼等のチームは主に害獣を専門で処理するチームとなっている」


 聖哉の父親である赤沢主任は冴えない中年サラリーマンのような恰好をしていた。そして、アーレイ副主任は日本滞在用の例の黒縁眼鏡を外し、竜人の姿となってオレに挨拶をしてくれた。


「これは、柊主任。うちの聖哉がお世話になっています。あいつも、柊主任のことを尊敬しているようなので、お手数をかけますがよろしくお願いしますね」


「いえ、オレなんかより、聖哉君の方がよっぽど才能があると思います。すでに彼はうちのチームの大黒柱になりつつありますからね。彼が新チームを持てる時までしっかりとサポートしていきますよ」


 息子を褒められたことが嬉しいのか赤沢主任は涙ぐんでいた。その姿をみたアーレイ副主任も一緒に泣いている。


「赤沢親分……良かったですねぇ。坊ちゃんが、立派な派遣勇者を目指してくれているたぁ。このアーレイも嬉しく思いますぜ」


 べらんめえ口調のアーレイ副主任も一緒に男泣きしていた。


 このチームは任侠団体か何かだろうか? 実は赤沢主任が元ヤク〇とかいうのやめてくださいよ。


 急に拳銃を出して『舐めてんのかこの野郎! 弾いてやろうかっ!』とかキレるのとか無しにしてください。


「赤沢君は静流君のチームから暖簾分けしたチームでね。最古参の社員なんだ。まぁ、色々と依頼でかち合うこともあるかもしれないし、ご子息を預かってるから仲良くやってね。元は渡世の義理に生きてた人だからね。筋を通さないと怖いよ」


「クロード社長。もう、私は堅気の一般人ですよ。昔の話はやめてくださいよ。息子の上司の前で言うのは反則ですよ」


 ニコニコと喋っている赤沢主任だったが、額に青筋が走っており、どうやら触れられたくない話だったようだ。


 というか、オレの危惧が的中してしまった。これはマズい聖哉さんって呼ばないとオレの頭に風穴が開くかな。


「ああ、すまないねぇ。『鬼の赤沢』はもう捨てた名前だったね。すまない、すまない」


「おっと、私も取り乱してしまいましたね。柊主任。うちの聖哉をよろしく頼みますね」


 ギュッと固く握手をしてくれた赤沢主任だが、聖哉の件で何か起こると日本刀持ってカチコミをかけられそうなので、細心の注意を払わねばと思った。


 やはり、この会社は普通の会社ではないと改めて認識することができた。

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