第48話 うちの社長はただものではない
オレは数百人規模の人数を収容できる高級ホテルの宴会場に設置されたパーティー会場に一番乗りした。
会場にはバーカウンターが設置されており、バーテンダーがシェイカーの準備をしたり、ホテルの料理人や出張寿司職人が厨房施設を設置して下ごしらえを始めていたりしている。
どうやら、その場で作った温かい物を食べさせてもらえるようだ。
一日貸し切る金も破格だが、食事にも金がかかっているのが、ありありと分かるような贅沢なパーティー会場に仕上がっている。
けれど、主任と副主任なら十五名にも満たない少人数の懇親会のはずなのに、綺麗なコンパニオンのおねいさん達が給仕係として三倍以上の数が待機している。
きっと、クロード社長の趣味なのだろうが、後ろにいるエスカイアさんから危ないオーラの気配をヒシヒシと感じている。
「まだ、他のチームの主任達は来てないようだね。私達だけでも先に飲んどくかい?」
「いえ、新参者のオレが先に飲んでいたら、皆さん気を悪くされるでしょうから、乾杯まで待ちますよ。クロード社長はお気にせず、女の人を侍らせて先に飲んで下さい」
不意にクロード社長の顔が引き締まり、サングラスの奥の瞳から、オレを射抜く視線が送り込まれた。
やばい、ここで社長をおちょくるのは死亡フラグだったか。エルクラストなら勇者の力で何とでもなるが、ここは日本なのでオレは一般ピープルに過ぎないのを忘れていた。
こうなると、一般人のオレは〇クザの親分にしか見えない、ゴリマッチョなクロード社長に撲殺される可能性が高い。
「柊君も言うようになったねぇ。仮にも私は君の所属する会社の社長職を務めている者だよ?」
社長からの視線に背筋から冷たい汗がダラダラと滴となって流れ出し、ワイシャツの背中が濡れていく。しかも、怖すぎてチビリそうであった。
日本とエルクラストの政官財、あらゆる人脈を使ってゼロから『(株)総合勇者派遣サービス』を成長させ続けてきた怪物社長だと、お付き合いするようになった機構の偉い人から教えられていたが、身一つで巨額利益を上げる会社を立ち上げた才覚だけは本物の怪物だった。
その社長を怒らせると日本では命の保証がされないかもしれないことにオレは気が付いてしまった。
絶対に、これはヤバいやつだよね。『お前、調子乗ってんじゃねーぞ』的な意味の質問だよな……オレ、死んじゃうの?
身の危険を感じて、ゴマをする言葉を探した。しかし、テンパって中々上手い言葉が見つからない。
「え、あ、う」
言葉に詰まっていると、クロード社長が太い腕をオレの首に回して抱き寄せる。絶体絶命の危機だ。ヤバイ、死んでしまう。
「HAHAHA、大丈夫殺したりしないさ。ただ、私が呼んだコンパニオンのお姉さん方も仕事だから、キチンと相手をしてあげるようにね。エスカイアもあんまり焼きもちを表に出すと柊君に逃げられちゃうよ」
「クロード社長! わたくしは焼きもちなど妬いていません! 翔魔様は立派な派遣勇者になられる御方。クロード社長こそ、悪い遊びを教えないで頂きたいです」
後ろに控えていたエスカイアさんが、先程から放っていた危ないオーラを全開にして、クロード社長に詰め寄っていた。
「それは残念だ。なら、しっかりとエスカイアが柊君のお世話をしないとな。HAHAHA。さて、柊君。先に席に着いて、他のチームの主任達を待つことにしよう」
「あ、クロード社長! わたくしが翔魔様のお世話をしますからねっ!」
オレはクロード社長に引き摺られるように、パーティー会場の席へ案内されていった。
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