第47話 主任会議って体のいいサボりなのか
「ああ、良かった。休暇に入る前に捕まえられた。そう、そう君達はこの二ヶ月で大いに会社の売り上げに貢献してくれたね。そうだ、もう六月入っているから、そろそろ主任会議を行いたいと思ってさ。今から開催するからついて来て。他の主任も連絡が行っているはずだからね」
五月分の超過した勤務分のインターバル休暇に入る前に、朝一番でみんなと会社に出社したら、すっかり艶テカな顔色をされたクロード社長に呼び止められて、主任会議とかいうよく分からない会議に出席しろと言われた。
「オレだけですか?」
「あー、副主任も参加だからエスカイアも来るように」
クロード社長は慌ててスマホを操作して各チームの主任と副主任を会議場へ招集しているようだった。
急な会議ではあったが、今日は特に用事もないので、残りのメンバーは孤児院で色々と子供達の指導をしてもらうことにした。
「涼香さん、聖哉、トルーデさんはオフィスでクラウディアさんのお手伝いしていてくださいね。頼みます」
「ん? そうか。翔魔とエスカイアは会議じゃな。わかったクラウディアには、伝えておくのじゃ」
トルーデさんは、涼香さんと聖哉を引き連れると転移魔法陣のある部屋へ移動していった。
残ったオレ達はクロード社長の連絡が終わるのを待って、迎えに来たハイヤーに乗り、都内の高級ホテルに到着した。
前回の外資系ホテルとは、また別のホテルだが『超』が付く高級ホテルなのは同じであった。
オレはハイヤーから降りると、面接で使った安物のスーツの皺を伸ばしていく。
給料も入ったし、この会社にいるとこういった高級な場所に連れて来られることも多そうだから、休みに奮発してオーダースーツを一着買おう。
親父やお袋に初任給のプレゼントもまだ買ってないしな。
エスカイアさんか、涼香さんにスーツとか、プレゼントとか見繕ってもらおっと。
さすがにオレもこのスーツじゃ恥ずかしいぞ。
就活一五〇回戦から今まで一緒に戦い抜いてきた相棒の九八〇〇円スーツは、その役目を果たし終えかけており、生地が薄くなってきている場所もあった。
なので、明日からの休みの内に『(株)総合勇者派遣サービス』の主任として恥ずかしくないスーツを購入することにした。
「翔魔様、行きますよ。スーツはお休みに一緒に買いに行きましょう。わたくしがいい店を知っていますから」
エスカイアさんもスーツの傷みが気になっているようで、オレと同じことを考えていたようだ。
そうなると、話は早いので、事務服から高級スーツまでをバッチリと着こなすエスカイアさんのお薦めの店に連れていってもらうことしよう。
「た、頼みます。オレ、そういった店。全然知らないんで」
「心得えました。明日にでもお連れしますね。でも、今日は我慢してください」
「あ、ああ。分かりました」
すでに先にホテルに入ったクロード社長が、オレ達を手招きして呼んで待っていた。
社長を待たせるわけにはいかないので、エスカイアさんの後ろに付いて、高級ホテルのエントランスホールへ足を踏み入れていく。
「遅いよ。他のチームの主任達はそろそろ、集まってくるようだ。今日はこのホテルの宴会場を一日貸し切ってあるから、有意義な主任会議になるといいねぇ。実は、社内は柊君のことで話題が持ちきりなのだよ。今日は色々と槍玉にあげられると思うから頑張ってね」
サングラスが鈍い光を放つと、傷が付いて引き攣れた唇が妖しく引き上げられていく。まことに不安を感じさせる絵面でしかない。
オレが小学校低学年なら、確実に泣き喚いて漏らしてしまうほどの怖さを見せている。
「クロード社長、その言葉シャレになっていませんよ。オレ、何か悪いことしたんですかね?」
「ん? 悪いことではないさ。やったことがデカすぎるだけであってね」
「え?」
「そうですね。割と大きなことを二件やらかしましたね。わたくしは翔魔様の実力を他のチームの主任達に示せれたと思いますが」
エスカイアさんが淡々とクロード社長の問いに答えていたが、トルーデさんの件、クラウディアさんの件は割と大事だったらしい。
エスカイアさんが慌ててなかったし、クロード社長も何も言わなかったから、そこまで大事だと思わなかった。
「まぁ、会議が始まれば、みんなから絡まれるから覚悟したまえ。ちなみに、今日は主任会議と銘打っているけど、役職者の懇親会だからね。ちなみに、このホテルの宴会場を一日貸し切るのが、六〇〇万くらいかかってるけど気にしないで、経費をいっぱい使わないと税金で取られちゃうから、しっかり飲み食いしてってね」
ん? 懇親会? 主任会議という名の懇親会? 待ってくれ、今の時間はまだ朝の一〇時前なんだけど。なんで、こんな昼前から勤務中に高級ホテルの宴会場で懇親会なんて何しているのさ。
思わず、クロード社長に質問しようと声をかける前に、手で制された。
「ああ、これは業務だからね。そこをはき違えないように。みんな、業務時間外に飲みに誘うと嫌な顔していたから、どうせなら業務時間内にチームを率いる主任と副主任達を集めて懇親会を行うことにしているのだよ。これなら、みんな業務だから断れないからね。こうやって、高級ホテルの宴会場を貸し切って昼間から飲む酒は美味いぞ」
クロード社長はすでに酒を飲みたくて仕方ないらしく、身体がエレベーターの方へ歩き出していた。仕方なく、オレ達も後に付いていく。
「けど、こんな時に緊急クエスト来たらどうするんですか?」
「だから、他のメンバーを残してきているんだろう。主任、副主任なしでも他のチームはそれなりに戦えるはずだよ」
クロード社長の言葉を、うちのチームの副主任のエスカイアさんに確認するような視線を送った。
彼女は頷いているので、他のチームは戦力的にはうちのチームよりも勝っているようだ。
オレの所も聖哉が育てばSランク以外であればあしらえる実力を持っているので、暇を見つけてまた修行申請を出さないといけなかった。
「そうですか……。うちも精進しますよ。それにしてもクロード社長はやることがスゴイですね。誘ってきてくれないから業務命令で昼間から飲むだなんて」
「HAHAHA、褒めても何もでんよ」
全然、褒めたつもりはないが、クロード社長は上機嫌で到着したエレベーターに乗ると、オレ達を手招きした。
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