第46話 領主って結構スゴイことになってしまった。
聖哉が食い入るように明細を見ている隣で硬直している者が一名いた。トルーデさんである。
今なら、スキルコピーできるかなと思い、腕を掴もうとしたが、寸前で気が付いたようで躱されてしまった。むぅ、残念である。中々にガードが堅い。
「翔魔……これで、妾は大金持ちじゃ……苦労しているであろうアレクセイに仕送りを送ってやれるのじゃ。それでも、余るからお休みは秋葉原のメイド喫茶を貸し切ってメイド豪遊ができるのぅ!! 待っておれ、メイドさん。今度こそ妾専属メイドになってもらうのじゃ」
色々と欲望がダダ漏れのトルーデさんであったが、メイド豪遊は少し控えて欲しい。
それにしても秋葉原メイドにハマり過ぎでしょ!!
その内、本当に専属メイドを雇いかねないので、トルーデさんの給料はアレクセイさんに預けて、お小遣い制にしてもらった方がいいかもしれない。
孤児院では講師としてキリっとした姿で講義して、子供達から尊敬を受けるトルーデさんの中身がこんなに残念な人だと知られるわけにはいかない。
子供達に悪い影響が出るかもしれないので、メイド遊びは程々にしてもらうつもりだ。
そんなトルーデさんの隣で新しくメンバーに加わったクラウディアさんが明細書の額を確かめていた。
「柊様……私は施設長としてすでにお給金を頂いている身ですが……その、このお給料はそれとは別にという形でしょうか……?」
「ああ、あっちはあっちで給料が出るよ。こっちの給料は主に領地運営のお礼の兼ね合いが高いね。中々、常駐することができないから、クラウディアさんには苦労をかけるけど、何かあったら遠慮なく連絡して。クロード社長にはチーム『セプテム』の現地オフィスは、この領地に置くと言ってあるからね。現地常駐スタッフとしての給料もきちんと受け取ってね」
領地をもらったことで、オレのチームの現地事務所もこの領地に設置することにした。
機構専属の緊急対応チームではあるが、エルクラストでのオフィスの場所は自由に設定できるので、常駐職員としてエルクラストにいるクラウディアさんの孤児院をオフィスにすることにした。
そういった面で彼女には緊急連絡以外の日常業務の負担が多くかかるため、給料の二重取りでも足りないくらいだとも思っている。
「なら、このお給料で施設を卒業する子達から、お手伝いをしてくれる子を探しますね。私は孤児院の施設長としてのお給金だけで食べていけますので、孤児院から卒業をする子達に働き口を紹介できるなんて……嬉しい」
クラウディアさんは、自分の給料を投じて、施設を卒業する子を雇うようだ。
お金の使い道は本人に一任しているので、孤児達に仕事を与えたいというのであれば、オレが止める筋合いはなかった。
それに、本人も喜んでいるのでよしとしておくことにしよう。
「ところで、翔魔さんは幾らくらいです?」
聖哉が初給料のショックから帰ってきたようで、オレの給料の額を知りたがっていた。
彼もSランク派遣勇者なので、ゆくゆくは自らのチームを率いて主任になる可能性も秘めている。なので、モチベーションを上げるためにも教えてあげようと思った。
今回、残業は多かったけど、休日出勤は少なかったから、先月より少ないよね。
特別褒賞金もオレは少な目だってエスカイアさんも言っていたし。
そんな、気楽な気分で今月の給料明細を開けて、中身を確認していった。
一、十、百、千、万、百万………………ん? あれ? 数え間違えたか?
一、十、百、千、万、十万、百万、一千万……あれ? おかしいな?
桁を数え間違えるだなんて疲れてるのか。
一、十、百、千、万、十万、百万、一千万……はぁあああぁ!? 四桁万円あるぅうーー!?
三度、桁を確認したが給料明細には四桁万円の手取り額が書き記されていた。
確かに特別報奨金は少な目だったが、それ以上に多かったのが、業務外収入という欄で七〇〇万近い収入が記載されていた。
思わず、エスカイアさんの方を見て助けを求める視線を送る。
「ああ、翔魔様はこの領地の領主となられましたので、税収の一割は直接給料口座に振り込まれることになってますよ。今年度税収予測を月割して、その金額です。まぁ、エルクラストに領地を持つというのは、個人企業を立ち上げるのと同じですからね。ドラガノ王国は貧しい国とはいえ、ブッへバルト子爵領は人口も多く、隣国との交易も盛んな領地ですからね。ドラガノ王国としては最上級のお礼か口止め料として翔魔様に下賜したのだと思ってますよ。そして、会社としても副業は積極推奨していますので、後三つくらいどこかの国から領地もらいますか?」
エスカイアさんが、恐ろしい発言をしている。
一個の領地を持つだけでも給料額がトンデモないことになっているのに、後三つも持ったら、働かなくても喰っていけるようになってしまう。
この給料明細を見たら、孤児院に個人的に出資している額をさらに引き上げても大丈夫な気がした。
四桁万円とか焦る。下手すると億円プレイヤーのサラリーマンになってしまうではないか……。
って、新人が億の給料もらうサラリーマンとかって何者だよ。絶対にお袋や妹が怪しむだろ。
給料明細を手に茫然としていたが、聖哉がオレの給料明細を覗き込んでいた。
「一、十、百、千、万、十万、百万……一千万!? しょ、翔魔さん! これって今月の給料ですよね? 年収じゃなくて……」
聖哉の言葉に我に返ったオレは給料明細に書かれた『五月度給料明細』という部分を見せる。
「あ、ああ。今月分だぞ。ははは、すごいだろ。この会社は入って二ヶ月で一千万稼ぐこともできるんだぜ。聖哉も頑張れよ」
オレの言葉を聞いた聖哉が尊敬のまなざしを向けてくる。
だが、この給料は色々な偶然が重なって得た給料であるため、これが永遠に続くわけではないのだ。
いや、領地収入は月割でもらえるらしいから、最低でも七〇〇万近い額はもらえるんだが。
それにしても、オレはとんでもない世界に足を踏み入れてしまったのかもしれない。
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