第42話 なんだか、事態が大事になっている気がするんだが

 聖哉が捕らえた人攫い達の中に日本円を一〇〇万近い大金を持っている男がいるという報告を受けた。


 子供達の安全を確保した上で、捕らえた犯人グループを覚醒させるとトルーデさんの思念感知を使って尋問をした。


「ほほぅ、この人攫い組織はエルクラスト全土に根を張る組織のようじゃの。こやつらは末端の構成員らしいが、各国のスラムや農村で子供を騙して連れてきて上部組織に引き渡して利益を得ているようじゃ。しかも、この国の人攫い組織の元締めは領地持ちの貴族様らしいぞ。ブッへバルト子爵というらしいな。この近くに領地を持つ貴族でそいつがドラガノ王国内であつめた子供達を上部組織に送っているそうだ」


 思考の中身を読み取られた人攫い達が顔色を蒼白にさせながら、トルーデさんの話す内容を聞いて震えた。


 マジであの思念感知をコピーしてやりたい。けど、幼女姿のトルーデさんを無理矢理に捕まえるのも、男として恥ずべき行為。


 なので、有能なスキルだが、コピーするのは至難の技に思われた。


 有能な尋問官であるトルーデさんの聞き出した情報では一〇〇万円の出所が分からないが、日本円はエルクラストでも一応各国の首都で両替が行えるくらいの流通はしているらしい。


 この二〇年で各国の現地通貨に変わるエルクラストの基軸通貨としての地位を獲得しているそうだ。


 人攫い組織にエルクラストの上流階級層が一枚噛んでいるなら、各国に跨る広範囲組織という性格上、基軸通貨になった日本円で取引決済が行われているのかもしれない。


「日本円は、そのブッへベルト子爵から貰った物かい?」


 オレの質問に人攫い達が顔を背けてトルーデさんに思考を読み取られまいと、必死に工作した。けれど、彼らの工作は覗き魔トルーデには通用しなかった。


「子供二〇名を攫う仕事の前金だそうだ。後は引き渡す時に残りの半金をもらえる予定になっているそうじゃぞ。どうする? そのブッへベルト子爵もぶちのめすのか?」


「トルーデ様、貴族を相手にするなら、一気に物証を押さえて殲滅してあと腐れなく国に引き渡さないと揉めます。やるなら、このまま取引の現場を押さえて一気にブッへバルト子爵を捕まえませんといけませんね」


 エスカイアさんもやる気が漲っているようで、なんだか暴走している気がしてならないが、クロード社長からは『とことんやっちゃえ』的なご許可を得ていると思いたい。


 証拠さえキチンと押さえておけば、国も絶大な力を持つ派遣勇者に対しては高圧的な態度に出られないと思われる。


 なにより、トルーデさんとエスカイアさんが乗り気なので、停める気はサラサラなかった。


 『弱きを助け、強きをくじく』を会社のモットーを推進するべくドラガノ王国の人攫い組織を壊滅させることにした。


「あのぼんやりしていた柊君が随分立派になったわ……これも、責任あるお仕事に就いたことによる成長なのね……」


 大学時代のダメダメだったオレを知っている涼香さんが、ハンカチを目に当てて、コッソリと拭っているのが見えた。


 そんなにダメな……子だったね。確かにダメだったかも。今は多少マシになったと思いたい。


「翔魔さん、かっこいいですね。相手はこの国の偉い貴族なんでしょ? そんな人を相手に一歩も引かず正義の味方を行うとは……僕は翔魔さんみたいな派遣勇者になりたいです」


 頭のいいはずの聖哉がなんだかキラキラとした眼でオレを見つめている。


 頭がいいけど、未成年であり、根は純真無垢な性格であるようだ。


「あ、ありがとう。そんなことを言われると照れるが……」


「翔魔様、僕もカッコイイって思いました。さすがは派遣勇者様です。僕も翔魔様みたいな派遣勇者になりたいなぁ」


 オルタまでも聖哉と同じキラキラした眼でオレを見つめてくるが、そんな眼で見つめられると、なんだかこそばゆい気持ちになってしまう。


 こうして、ドラガノ王国の人攫いの元締めであるブッへバルト子爵の組織と取引を行い、その現場を抑え一気に一網打尽に捕縛する計画を立てていった。


 捕縛した人攫いのリーダーからもうすぐ取引の時間だと聞き出してあったので、チームのメンバーを組織の人間に偽装して取引現場を現行犯で取り押さえるつもりだ。


 人質となる子供達には十分に強固な防護魔術を施し、流れ矢が飛んでも突き立たないほど強固に守っておいた。


 囚われていた孤児たちの中で、一人だけいた成人した猫族の女性が、子供達の面倒を見てくれると言ってくれ、建物の外でみんな固まって取引の時間を待つことにした。

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