第41話 人質救出作戦って難しいことだらけ
クロード社長からの悪人討伐許可をもらったオレは、チームのメンバーとオルタを率いて、人さらいたちが拠点としている廃墟となった牧場跡の建物に、気配を消して近づいていく。
建物の入り口には見張りが二人ほど立って、辺りを警戒している。
「さて、どうすればいいですかね? オレ、こういった場合の対処の仕方を全く思いつかないんですけど……。中に人質っていうか、騙されて攫われてきた子達がいますよね?」
人質がいない悪人退治なら、オレの桁外れのチート能力でゴリ押しできるのだが、今は人質となりうる攫われた子達がいる。
そのため、細心の注意を払って慎重に進めなければならなかった。
「そうじゃな。こういった場合はまず敵の人数を把握した方がいいぞ。翔魔の魔術で
こういった荒事に慣れていそうな、元建国の英雄王であるトルーデさんが
そうすると、対象の魔術を発見することができた。
「ありましたよ? これ発動させればいいんですか?」
「待て、それでは敵味方の判断ができない。オルタ、囚われているのは子供だけだったか?」
「あ、はい。トルーデ様の言われる通り、みんな子供でしたよ」
「なら、
なるほど、まずは建物内にいる人の数を知り、その後で大人と子供に分ける。これで、人攫いグループの人数を掌握するつもりか。さすが、トルーデさんだ。
「でも、トルーデ様。それだけだと、万が一の場合で大人の捕虜がいた場合、敵味方の判別ができませんよ。もしかしたら、オルタ君が見てない所でそういった大人の生贄もいるかもしれないんで」
聖哉が大人の生贄の可能性を示唆したことで、考慮に入れるべきだと思った。
生贄が子供だけの可能性もあるが、もしかしたら成人している女性なども攫われているかもしれないからだ。
そういった人を敵判定して誤射する訳にはいかなかった。
「そうじゃな。では、あと
「わかりました。直ぐにやってみますね」
トルーデさんに言われた三種の探知を辺り、一帯に同時使用していく。
生命反応の総数は三五名、その内、未成人の子供が二〇名、成人者が一五名、そして、脅威度の高い赤色に判定された者が一四名であった。
「敵は一四名かな。成人者のうち一人は丸腰みたいだし。建物をグルっと囲むように五名が歩哨として外にいるようで、二十一名の人質を残りの九名で世話しているようだね」
探知範囲は周囲数キロに設定しておいたので、この建物以外には周りに俺達と犯人グループしかいないと思われる。
俺が探知した結果を表示したディスプレイを見つめて、トルーデさんが考え込んでいる。
外の五人を速やかに排除してやらねば、中にいる者達にこちらの接近を知られ、確実に子供達を人質に取られてしまうことになってしまうのだ。
「わたくしが風の精霊魔術で音を消した矢を使い、狙撃しましょうか? 姿も精霊魔術でしばらくなら消せますので、ある程度まで近づけますし。近づけば外すことはまずないですからね」
エスカイアさんが精霊魔術を使用して姿と音を消して狙撃を試みてはと提案してきた。
しかし、同時、もしくは若干の時間差で歩哨を無力化しないと、接近を察知されてしまう。
そのためエスカイアさん一人では、一気に五人を仕留めるのは難しいのだ。
すると、沈黙していたトルーデさんが作戦を決定したように閉じていた目を見開いた。
「翔魔、
トルーデさんが指定した魔術を一覧から探していく。
だから、トルーデさんが言った魔術も使用できた。
「あぁ、さっきの害獣討伐でやった奴ですね。それを範囲を拡げて建物ごとで行い、敵を無力化させるつもりなんですね?」
聖哉がトルーデさんの作戦の意図をすでに読み取っていた。
なるほど、それなら一気に無力化して子供を人質に取られることもないか。
「でも、魔術に抵抗されたらどうします?」
「基本的に、このエルクラストの人間で翔魔クラスの魔力を持った魔術に抵抗できる者はおらぬぞ。妾でも抵抗できる気がせぬ。断言してもいいが、翔魔の魔術に抵抗できるのはSランク以上の高レベル派遣勇者くらいじゃな」
「そ、そうですね。わたくしも翔魔様の魔術に抵抗できる気が全くしません」
エスカイアさんもトルーデさんと同じ感想のようで、オレの魔術には抵抗できる気が全くしないようだ。
エルクラスト生まれの二人がそう断言するなら、よっぽどのことが発生しない限り、抵抗されることはないらしい。
「分かった。トルーデさんの作戦で行こう。とりあえず、聖哉、エスカイアさん、涼香さん、トルーデさんもすぐに突入できるようにバックアップお願いします。オレも行くんで。オルタはここで待つように」
「はい。みんなを助けてね。翔魔様」
「任せておけ、オレは派遣勇者だからな。オルタ達を怖がらせた悪人を懲らしめてみんなを助けてきてやるさ」
オレは安全性の更なる確保のため、能力向上魔術を使い限界まで魔力を引き上げると、不安そうにこちらを見ているオルタの頭をワシャワシャと撫でた。
魔術の発動のカウントダウンを指を折って始める。
5・4・3・2・1・ゼロ!
カウントゼロと同時にバックアップの四人が一斉に建物に向けて走り出した。
オレもすかさず
三種の霧の発動を確認し、ディスプレイ上の脅威度が高い赤い輝点から、行動不能を示す白い輝点に一斉に変わっていく。
限界まで魔力を上昇させたことで、誰一人抵抗に成功した者はいなかった。
「よし! 成功だっ! とりあえず、武装している者を優先して捕縛! 子供達は怪我をしていないか確認してくれ」
魔術の成功を確認したオレは、先行したメンバー達に追いつくため、テレポートしていた。
建物の周辺の敵は聖哉が捕縛を担当し、建物内にはトルーデさん、エスカイアさん、涼香さんがいた。
室内にオレが入ると、人さらいたちはすでに武装は解除され、縛られて床に転がされていた。実に手際の良い仕事ぶりである。
懸念された子供達も擦り傷程度の怪我を負った子が数名いる程度であった。
「どうやら、引き渡し寸前だったみたい」
「そうか……ギリギリの所だったね。オルタが逃げ出してくれなかったら、この子供達は引き渡されていたんだな」
「予想通りに抵抗できた者は皆無だったじゃの。さて、捕まえたこやつらは見せしめに首を刎ねて、この国の王都の広場に晒すとするかのぉ」
トルーデさんが捕縛した人攫い達を殺そうと、オレの腰から剣を引き抜こうとしていた。
「ま、待って! それはドラガノ王国に任せるから、殺したらダメだって!」
こっちの世界生まれの人は、日本と違う価値観で生活しているので、命の価値がかなり軽い。
その中でもミチアス帝国を築いたトルーデさんは、建国するために何百年もそういった命のやり取りをしてきた猛者であった。
慌てて剣を引き抜こうとしたトルーデさんの手を推し留める。
せっかく、血を見ずに問題を収められたのに子供達の前で血なまぐさいことは止めて欲しかった。
こういった所は日本人としてのオレとの考え方の違いだろう。
害獣駆除を中心に行う『(株)総合勇者派遣サービス』の主任が、日本人で占められている理由の一部かもしれない。
エルクラスト生まれの人が主任に付くと、命の扱いに関する価値観の違いから、派遣勇者が介入した国家同士の争いになりかねず、会社としても大きな損失を受けると社長も思ってるんだろうなぁ。
その点、日本人は勇者として素質は高いのに、命のやり取りを回避することを重視する性格の人物が多くいることで、問題の重大化を避けているのかもしれない。
「そうですね。トルーデ様、翔魔様が官憲に突き出すだけで良いと仰っているので、ここは穏便に行きましょう」
「そうか……翔魔は日本人じゃったな。まぁ、よかろう」
「外の奴等も捕まえてきましたよ。武装解除しようとしたら、こいつら、日本円を持っていましたよ。百万近い額を持っている奴が一人いました。もしかしたら、取引相手って日本人とかじゃないですよね?」
外の奴等を武装解除していた聖哉が気になることを報告した。
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