第40話 派遣勇者って弱者の味方だよね?


「ほぅ……それは、大変だね。実に由々しき事態だ。早急に柊君のチームを派遣して、その人攫い達を捕縛して生贄の子供達を解放しないと―――。っとでも言うと思ったのかね?」


 クロード社長は普段からサングラスを掛けて、顔に傷を負ったイカツイ顔をしている人であったが、今日の顔は何時にも増して威圧感が高かった。


 実際、ディスプレイを畳みたいくらい、怖い。久しぶりにちびりそうである。


「は、はぁ……そ、そのマズいのでしょうか?」


 どうやら、クロード社長は怒っているようで、ギロリと視線を俺の後ろにいたエスカイアさんに向けた。


「エスカイア……君がついていながら、何でこんな話を私の許に報告させたのだ。こんな案件は我が社が受けられないことくらい知っているだろう」


 クロード社長は苛立ったような声で、エスカイアさん叱責する。


 なにやら、うちの会社は依頼以外の仕事には手を出してはいけないという規約があるような感じの怒り方だった。


「で、ですが! これは緊急事態であり、人道的な見地をからもこの犬族のオルタ君の情報の真偽を確かめるべきです! クロード社長の仰られる通り、我が社はエルクラストの国家には、依頼以外のことは『不干渉』を謳っており該当国からの依頼が無い限りは力を行使することができないのは重々承知しております」


 やはり、この『(株)総合勇者派遣サービス』はエルクラストの国家の内政には不干渉を貫く会社だった。


 ミチアス帝国の件は、主権者代理になったトルーデさんから依頼を受けた形で国家運営を委託されていたのだろう。

 

 つまり、今回の案件は勝手に他国の犯罪者をオレ達が捕縛して犯罪を防ぐ行為は越権行為だということらしい。


 けどさ、目の前でこちらを見て助けて欲しいっていう人を『業務外なんでごめんなさい、助けられないです』っていうのが、派遣勇者なのかと思うと、この会社に失望を覚えた。


 せっかく、すごく人のために役に立てる仕事に就けたと思っていた矢先のクロード社長のビジネスライクな対応だった。


 エスカイアさんを叱責したクロード社長は、じっとオレの方を見て、『わかってるよね』といったような視線を送ってくる。

 

「翔魔様……僕はあの子達を翔魔様に助けて欲しいです。国に任せたらあの子達は生贄としてどこかに売られてしまいますっ! 翔魔様!」


 必死な形相のオルタが、オレに縋って頼み込んでくる。


 しかし、ディスプレイに映るクロード社長の表情は硬いままだった。


 オレはクロード社長の判断に納得できずにもう一度直談判しようとした。


 こんな暴挙が許されて言い訳がない。


「……クロード社長!! チーム『セプテム』の主任として、そして『(株)総合勇者派遣サービス』の派遣勇者として、今回のオルタ君の依頼をオレは正式な依頼として主任権限で受理しようと思いますっ!!」


「翔魔様!! そ、そのような大げさなことを言われなくても……」


「よくぞ申した! 翔魔はいい男になると思うのじゃ」


「柊君が素敵過ぎる!! あぁ、スマホで動画に撮りたかった。クスン」


「翔魔さんって意外と男気があるんですね。普通は会社の命令を無視したら、ヤバイなとか考えなかったんですか? でも、今回は僕も賛成しますけどね」

 

 メンバー達はオレの決定を支持してくれていた。


 勢いで言った部分もあるが、オレは派遣勇者としてエルクラストに住む人達の笑顔を守りたいと決意しているのだ。


 そのための力はこの世界から与えられている。


 だからこそ、今回の会社の決定をそのまま粛々と受け止める訳にはいかなかった。


「……ほうぅ、柊君は私の指示に従えないというのかね? 君は『(株)総合勇者派遣サービス』に雇われている社員である自覚はあるんだろうね?」


 ディスプレイに映し出されたクロード社長のサングラスが鈍い光を反射している。


 しばらくの間、無言の圧力をクロード社長からオレに対して行われた。


 オレがやった行為は、会社からの指示に従わない命令不服従で、解雇の対象にされてもおかしくない行為なのは、頭の悪いオレでも理解している。


 せっかく入れた会社だけど、目の前の1人を助けられない者が、勇者なんて言われても滑稽なだけだ。


 オレは、クロード社長の威圧的な視線に負けず、まっすぐに見つめ返した。


「…………ククク、アハハハっ!! いいねぇ! 柊君! 主任っぽい感じだっ!! 私は嬉しいぞ!! 君が派遣勇者として弱者の側に立つことを恐れないことに感動した!! さすがはチーム『セプテム』の主任だね。騙して悪かったが、これも柊君の派遣勇者として資質を見定めるためだ。悪かったね。さぁ、うちの会社のモットーである『弱きを助け、強きをくじく』を行使したまえ! 存分にやっていいぞ。むしろ、人攫いなどという非人道的犯罪組織は一人残らず捕縛して極刑にされてしまえばいい! 悪人に人権は存在しないのだよっ! 悪即斬でいこう!」


 急に笑い出したクロード社長に、エスカイアさんとトルーデさん以外が呆気に取られる。


 今までのクロード社長の言動は、オレの派遣勇者としての資質を見る試験みたいなものであったようだ。


 ということは、内政不干渉とかいうのは、すべてブラフだったのだろうか? 


 それにしても、『悪人に人権はない』とか『悪即斬』とか、不穏すぎる単語が並び過ぎていて、クロード社長の指示でカチコミに行くような気がしてならない。


「あ、あの。クロード社長? 内政不干渉云々の話は嘘なんですか?」


 顔に手を当てて大笑いしているクロード社長は笑うのを止めると、オレの質問に答えてくれた。


「あー、それは本当だよ。一応、機構との取り決めでエルクラスト全土の国家には我が社は干渉する権限を持ち合わせていないが、大抵どの国でも私が握りつぶせるから、好きにやっちゃいなー。日本人の子は奴隷を解放するのが好きらしいからね。天木君もそうやって嫁を拾ったし」


 べ、別に奴隷解放して女の子にモテようとか思ってねえよ。オルタ君は男の子だしなっ!

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