第38話 オレの仕事は書類仕事だけだった件
チームのみんなから戦闘禁止を言い渡されたオレは後方待機。
自分が放った破壊光線の爆風で、魔境管理区D-45094に生息している害獣達が集まり、聖哉を中心にしたチーム『セプテム』のメンバー達によって、次々に倒されていく。
その間、オレは近寄ってきた害獣達に近づいてめぼしいスキルをコピーすることに勤しんでいた。
とりあえず、戦利品として手に入れたスキルは【痛撃】、【噛み砕き】、【軟体化】、【硬化】、【火炎】、【MP吸収】で後は攻撃耐性シリーズで揃ったので、スキル創造して【全攻撃耐性】を手に入れることに成功した。
ますます、人外っぽくなってきたけど。
でもこれで、Sランク討伐でもほとんど苦戦らしい苦戦はしなくても済みそうであった。
そんな、オレを尻目に聖哉は支給された槍を器用に使い、害獣の立ち回りを一瞬で覚えながら、効果的に害獣を追い込み、涼香さんやエスカイアさんの援護を受けやすい位置を取りつつ、害獣にとどめを刺していく。
秀才君の戦い方だね。実に効率的というか、無駄が少ない。常に周りを見て最善の手を考えて攻撃を組み上げているようだ。
「聖哉はボチボチ使える勇者じゃな。火力だけ強い翔魔とは、また違った戦いをする男じゃ。雑魚戦は翔魔が戦わなくても聖哉に任せればいいじゃろう。翔魔は大物専門にしておけ、それ以外は回復支援。その方が周りへの被害も少ないのじゃ」
「そうですね。オレは聖哉みたいに器用に立ち回れないし、威力が無駄にデカイので、後ろで偉そうにふんぞり返ってますよ」
「そういじけるな。翔魔が凄すぎるのは皆が知っておる。じゃが、今のチーム『セプテム』は翔魔頼りになり過ぎておるのじゃ。それにエスカイアも涼香もお前に護られるだけじゃなく、共にサポートし合える関係を築きたいということを汲んでやるのじゃな。女子を護るのだけが男の仕事ではないのじゃ」
トルーデさんはエスカイアさんと涼香さんがオレをサポートしたくて頑張っていると言っている。
オレみたいな適当に生きてきた男のサポートがしたいと、更に努力をしている二人を見ていたら、自分ももっと人間的に成長をしていかないといけないなければと思った。
オレも戦うだけじゃなくて、信頼を勝ち取って色々と業務を任せてもらえる男になっていかないと、二人の横に並び立つのが恥ずかしく感じてしまう。
「トルーデさん……オレももっと頑張りますよ」
「その意気じゃな。といっても今回は回復支援役を全うせねばならんぞ。何と言っても聖哉と涼香のLV上げだからのぅ。翔魔はここで妾と観戦するのじゃ」
トルーデさんが切り株の上をパンパンと叩いてそこに座るように促した。
やる気は漲っているのだが、禁止命令が出されてしまっているので、戦うことはできなかった。
主任はオレのはずなんだがな……。まぁ、あれだけのことをしたらオレでもとめるわな。
仕方なく、トルーデさんに勧められた切り株に腰を下ろして観戦モードに入る。
あいかわらず聖哉は害獣の攻撃を、槍を使って上手くいなし、自らが致命傷を負わないような頭脳的を立ち回りを見せている。
とても、今日派遣勇者としてデビューした男とは思えない戦いぶりだ。やはり、地頭の良い人はこういった点で要領の良さを見せつけてくれる。
聖哉が討伐対象の
体長二〇メートルクラスの大きな鰐で、硬い皮膚とぶっとい尻尾、そして人を丸呑みできるほどの大きな口を武器にするちょっと強め(多分)な害獣であるらしい。
オレはエスカイアさんの代わりに会社に害獣詳細ステータス報告書作成のため魔物鑑定を発動する。
害獣詳細ステータス報告書は、社員の中で魔物鑑定スキルを持つ者に会社から義務付けられて報告書で魔物鑑定をした際に表示されたステータス類を報告書に記入し、害獣データとして共有することが義務付けられているのだ。
でも、実際はスキル発動した際に社員証を介して機構のデータバンクに情報は集積されるので、この紙の報告書はあまり重要視されていないが、書けば一枚当たり害獣ランクに応じて一万~十万の手当が付くのだ。
そんな話を聞いたら俄然やる気が出てお小遣い稼ぎに先程からちまちまと合間を見て紙の書類を書いた。
――――
魔物LV28
害獣系統:動物系
HP:898
MP:235
攻撃:302
防御:245
素早さ:134
魔力:139
魔防:111
スキル:打撃耐性 噛み砕き 痛撃
弱点:氷属性
無効化:なし
――――
残念、全部被っているスキルか……。
「翔魔様! ありがとうございます。聖哉君、涼香さん一気に畳みかけるわよ」
「「はい」」
三人は弱体化し、動けなくなった
涼香さんは銃を構えて柔らかい目の部分を集中的に狙い、エスカイアさんは風属性の精霊魔術を操り皮膚を切り裂いていき、聖哉がその切り裂かれた皮膚に向けて槍を縦横無尽に突き込んで
そして、
「案外、楽に落ちましたね」
「馬鹿者……あれだけ弱体化された上に聖哉達は能力向上されておるのじゃ。一方的な戦闘になるのが当たり前じゃろうが……」
解説役のトルーデさんも茫然とする完封勝利の瞬間であった。
ちと、やり過ぎたのかもしれない。でも、怪我人もなく、無事に依頼を完遂することができ、ディスプレイには
「『安全第一』、これを我がチームのモットーとしておきましょう。危険な依頼が多いと思うんでね。過剰なくらいがいいのかなと思ったりしてます」
オレ達のチームはエルクラスト害獣駆除機構の中で最高ランクの依頼であるSランクを中心に仕事が舞い込むので、常時過剰とも思える体制をとっておかないと死人が出ないとも限らないのだ。
日本人勇者はHPゼロになっても大聖堂にリスポーンされて記憶が一部欠落するだけだが、現地人であるエルクラスト生まれのエスカイアさんや、トルーデさんの死は文字通りそのままの死に直結するのである。
そんな事態に陥ったらオレには耐えられるか分からないので、常に安全過剰で業務を進めていくつもりだ。
「まぁ、それは翔魔のさじ加減に任せるのじゃ。妾はこれ以上強くならないからなチームの助言役をさせてもらうぞ」
「歴戦のトルーデさんが助言してもらえるなら、オレも色々と助かるので、今後も頼みますよ」
見た目ロリダークエルフなトルーデさんだが、一国を興した英雄であり、人の使い方が上手い人であった。
こういった部分は見習って自分の力にしていきたいとも思っているが、ただメイドさん趣味だけは見習わないようにしようと心に決めた。
完全に皆が油断していて、飛び出した物体への対応が誰一人できていなかった。
しまったぜ。完全に油断した。
「何者じゃ! 翔魔から離れろ! そいつの近くにいるとひき肉にされるのじゃ!」
オレに覆いかぶさった者に対してトルーデさんが警告を発する。
嫌でもひき肉になんてしませんよ。オレが血だらけのスプラッタになるのは勘弁してください。
しかし、覆いかぶさった物体はトルーデさんの警告を真に受けた。
「こ、殺さないでくださいっ!! お願いします。ひき肉だけは止めてくださいぃ!」
オレに覆いかぶさっている物体がギュッとしがみつき、柔らかいものが顔に押し当てられて息が吸えなくなっていった。
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