第37話 破壊力が高い攻撃って使い勝手悪い

 魔境管理区D-45094。


 今回はここが、オレ達に設定されたクエスト討伐対象がいる魔境地区となっている。


 鬱蒼と生い茂る森林地帯であるが、この中に発生している害獣は強くてもCランクまでだと機構からのお墨付きをもらっていた。


 以前のように、間違ってSランクの緊急依頼を受けていないことは確認しておいた。


「こういった場所にその害獣とかいうのが、発生してそいつらの持つ魔結晶があの高レベルな機器を動かすエネルギーになっているんですね。はぁ、この世界は日本にとって無限大の可能性を持った世界ですね。そりゃあ、調べようとすると公安の怖いお兄さん来るはずだ……」


 聖哉は魔境の森を歩きながら、自分がどうして公安警察の怖い人達に連行されたのかを悟っていたらしい。


 ある程度の推察はしていたのだろうが、現実のエルクラストに来て日本国がとんでもない秘密を抱えていることを改めて確認したようだ。


「そういうことだから。あんまり、喋っちゃダメだってさ。私もバイトでここに入る前にクロード社長から念を押されたからね。このエルクラストではスマホなんかの情報端末は全く使用不可になっていて、写真一枚も撮れないから、伝聞でしか伝わらないけど」


 涼香さんが言ったとおり、エルクラストでは、社員証や身分証から発せられるディスプレイ画面で用事が事足りる。


 なので、気にしていなかったが、現実世界の情報機器が全く使用できない世界になっていて、ネットも繋がらなければ、写真も動画も撮れない世界なのである。


 つまり、自分で見た物しか記憶に残せないのであった。


「そうじゃな。多分、ここが日本とは違う理で出来た世界であるため、日本の物はまったく使えないのであろうな。妾もメイドさんの動画が見れなくて寂しいのじゃ」


 貴方、メイド好きすぎでしょ。ハマり過ぎ。


 トルーデさんは日本でメイド喫茶にハマり、支度金で買ったスマホに次々と動画や写真を溜め込んでいたのだ。


 そのうち、ミチアス帝国にメイド喫茶が開店しないか不安でしょうがない。


 そんな風に緊張感無く、ベラベラと喋りながら歩いていたら、前方から熊さんが集団で出てきてしまった。急いで、魔物鑑定を発動していく。


――――


 ビッククローベアー


 魔物LV10


 害獣系統:動物系


 HP:350

 

 MP:123


 攻撃:127


 防御:82


 素早さ:65


 魔力:98


 魔防:82


 スキル:斬撃耐性 痛撃


 弱点:氷属性


 無効化:なし


――――


 案の定、大した敵ではない。


 けど、LV1のままの涼香さんや聖哉には厳しい敵となるため、オレが一気に片付けて、経験値を分けてあげた方が、安全に事が進む。


 この程度の害獣なら魔術を使って退治するのもいいが、せっかくなので合成魔獣キメラ戦で手に入れたスキルである『稲妻』と『破壊光線』を使って見ることにした。五~六頭の群れがオレ達に向けて一斉に走り込んでくる。


 ディスプレイから選択し、視界内に表示した使用スキル欄から稲妻を選ぶ。


 すると、全身が光を放つとともに、ターゲットサイトが出ている魔物に向けて轟音とともに稲妻が迸る。


 稲妻の命中したビッククローベアーは直径一〇メートル以上抉られた地面ごと跡形もなく消え去っており、大きく抉られた地面に魔結晶だけが残されていた。


 地面の爆発に巻き込まれた別のビッククローベアーも一緒に吹き飛ばされていた。


 あぁ、威力が半端なく強かった。でも、スキルのクールタイムが魔術と違って長いなぁ。


 このスキルは魔術の繫ぎの攻撃かな、魔力も消費しないし。魔術連発でMPヤバい時に使う用だな。


「しょ、翔魔さん……敵が消し飛びましたけど……何してんすか。派遣勇者ってそれぐらいの能力が普通なんですかね? 僕も稲妻とか撃てるんですか?」


 聖哉が持っていた槍を取り落としそうな勢いで慌てた。


 今まで冷静さを失わずにいた聖哉がオレの放った稲妻を見て冷静さを失ったのを見ると、案外可愛気のある後輩だと思えるようになるから、不思議だ。


「聖哉君、柊君は別世界の人よ。さっきの柊君が普通の派遣勇者だって思っちゃダメ。普通の派遣勇者は身体から稲妻を出さないし、魔術を使うのが一般的だってエスカイアさんが言ってた」


 涼香さんもオレが身体から稲妻を出したことにビックリしているようだ。


 確かにスキル模倣によって害獣からもスキルをコピーしているが、身体から稲妻を出す派遣勇者がいたっていいと思うんだが……。ダメかな。


 でも、とりあえず『破壊光線』も試してみたい。


 誘惑に負けたオレは破壊光線のスキルを選択してターゲットサイトをビッククローベアーの一頭を狙う。


 自然に手が狙いを付けた害獣の方に向き、周りの魔素マナを凝縮していく。


 すると眩い光球が出来上がってその先から光条が目標に向けて放たれた。


 そして、光条が目標に命中すると簡単に貫いてそのまま魔境地区の大地を切り裂くような形で突き進み、やがて爆風がこちらへと押し寄せてきた。


「うわっぷ。ご、ごめん。ちょっとだけ強いスキル過ぎたみたいだ」


 消し飛んだビッククローベアーはもちろんのこと、周りにいた敵も一緒になって爆風に巻き込まれて地面を転げ回っているうちに死んでしまった。


 ドロップされた魔結晶がこちらに向かって集まってくる。


「翔魔……お主の力は強すぎじゃ。魔境地区が吹き飛ぶぞ。翔魔は回復と防護魔術で援護決定じゃ。聖哉、お主がメインで戦え、翔魔の防護魔術とエスカイア、涼香の援護があればここは余裕で狩れるはずじゃ」


 爆風で髪の毛が乱れたことを気にしているトルーデから、戦闘禁止命令が出た。


 ちょっとだけ試してみたかったのだが、合成魔獣キメラからゲットしたスキルは両方ともかなりヤバイ代物でS級討伐の時くらいしか使い道がなさそうであった。


「分かりました。僕も何だかそっちの方が安全な気がしてきました。翔魔さんの力はここの敵にはオーバースペックすぎますね。僕も何だか今ので少しレベル上がったんで、やれそうな気がします」

 

 聖哉もオレがまた何かしでかすかと思っているようで、自分が次の害獣と戦うと言い張ってきた。


 そんなに本気じゃなかったんだけどな……。色々と戦いのレベル調整難しいわ。


「翔魔様、みんな。さっきの爆風でこの地区の害獣が一気に我々に近づいてきましたわ。翔魔様は防護と能力アップの魔術を皆さんに掛けてください。前衛はわたくしと聖哉君、涼香さんが援護、トルーデ様も援護お願いします。翔魔様は回復援護『だけ』してください」


 エスカイアさんにも戦わないように釘を刺されてしまった。


 いや、オレも悪気があってああいった事態に陥ったわけではなくて……。


 ついね。ものは試しと使ってみたら意外と威力が高すぎてさ。


 今後は気を付けます。


 戦闘禁止命令を受けたオレは、聖哉とエスカイアさん、涼香さんにありったけの能力向上魔術を重ね掛けして、防護魔術も付与しておいた。


 そして、常時、HPが回復する方陣の設置も完成しているので、誰一人苦戦することなく、ここの害獣を狩れると思われる。


 なので、オレは害獣のステータスチェックとスキル収集に勤しむことにした。

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