第36話 レベリング作業とかってゲームっぽい


 エルクラストの大聖堂に転移した際に聖哉は失禁こそなかったが気絶はやはりした。


 その後は頭の良い聖哉の理解力をもって、エスカイアさんがこの会社の業務内容をザっと簡単に説明し、社員証発効と各種適性試験を終えていた。


 ちなみに、主任になるとクロード社長と同じように社員証発効権限が与えらえるようになり、チームメンバーの追加も八名までは自由裁量で採用できるらしい。


 まぁ、日本側の人間は社長決裁がいるそうだが、今回はすでに社長決裁が下りているので、問題なく社員登録できた。


「……真面目に異世界なんですね。ここって。未だに実感わかないなー。それに、この装置とか社員証とかなんて日本よりも進んだ技術が多数使用されているし」


 各種適性試験を終えた聖哉のステータスが見られるようになったので、確認させてもらうことにした。


――――


 赤沢 聖哉(あかざわ せいや) 年齢18歳 人間 男性 国籍:日本


 社員ランク:F


 勇者素質:S


 LV1 


 HP:20


 MP:20


 攻撃:20


 防御:20


 素早さ:20


 魔力:20


 魔防:20


 スキル:経験値増量 精密攻撃 弱点属性増大 槍 ローブ 水属性 攻撃魔術 回復魔術 

 

――――

 

 ステータスの確認を終えると、とりあえず、コピらせてもらいたいものがあるので、聖哉の肩を抱く。


 けして、やましい気持ちが有るわけじゃないが不思議と緊張をしてしまう。



――――


 >経験値増量をコピーしますか? Y/N


 >精密攻撃をコピーしますか? Y/N 


 >弱点属性増大をコピーしますか? Y/N


――――


 取得できる経験値が増えるスキルと、狙った部位に攻撃が当てやすくなるスキルと、敵の弱点属性ダメージが上昇するスキルがコピーできた。


 色々と戦闘に便利そうなスキルを所持している聖哉は、オレとともに戦闘系派遣勇者として害獣戦闘にすることになりそうだった。


「まぁ、異世界だしね。オレも初めての時は戸惑ったことが多いし、まだ戸惑うこともある」


「はぁ、そういうものですかね。害獣とかって本当に居るのか実感がわかないですよ」


「それも含めて、今日はいきなりの実地訓練だけど、頑張ろうな。更衣室でそれぞれの装備に着替えて現地に行こう。今日は獣人国家の中でも治安が悪いドラガノ王国の近くらしいからね。油断しちゃダメだよ」


 聖哉の顔に緊張感が走る。


 ちょっとだけ、脅かし半分だが、今日の害獣討伐予定地のドラガノ王国は獣人国家連合の中でも特に治安の悪い国で、ミチアス帝国に次ぐ貧乏国家らしい。


 そのドラガノ王国の近くの魔境に今回の害獣討伐地点が設定されていた。まぁ、Cランクの大口鰐ビッグマウスアリゲーターの討伐なんで、多分余裕なはず。LV上げも許可をえているので、周辺の害獣も狩っていくつもりだ。


 オレ達はそれぞれ、更衣室で自分の装備に着替えると目的地に転移していった。



 目的地のドラガノ王国の王都ギブソンに到着したが、ここもミチアス帝国に初めていった時のように住民達に活気があまり見られなかった。


 多くの住民は獣人で犬や猫、狼、牛、中には人魚とかもいるそうで、雑多な取り合わせの住民が住んでいた。


「やっぱり異世界なんですね。獣人が闊歩しているだなんて日本じゃありえないですし……親父はこんな所で働いているんですか……」


「まぁ、この仕事は家族にも中々伝えられないからね。普通、こんな場所で仕事してますって言ったら、聖哉も親父さんの頭がイカレタと思うだろ?」


「確かに翔魔さんの言う通りですね。この現実を見てないなら、親父が壊れたと思います」


 身内が異世界で魔物退治していると言い出したら、気でも狂ったのかと思われるのは、オレも実家で体験しているので、赤沢主任の心中を察するとホロリと泣きそうになってしまった。


 子供や嫁のために異世界で害獣を駆除したり、要人警護したりして頑張って稼いでいるのに、それを子供から不審がられるとは可哀想すぎる。


 そんな赤沢主任の気持ちを分かってもらうためにも、聖哉には社員としてキッチリと仕事を教えないといけないと思った。


「翔魔様、時間も余りありませんし、早速、害獣討伐に参りましょう。その前に主任権限でチーム編成をしてもらえると助かります。これをしておかないと経験値が皆に入らないので」


 エスカイアさんがチームを組むようにと促してきていた。


「え? そうなの? てっきり自動だと思ったけど……違うんだ」


「ええ、クエストごとにチーム編成を替えるチームもありますからね。最大で八名までチームに編成できます。このチーム編成中はクエスト内で倒した害獣の経験値は均等割で全員に割り振られますので、レベリングには有効なのですよ。涼香さんみたいな後方支援の方も楽々レベルアップできます。メニューから『チーム』と呟くと編成画面がディスプレイに出ますんで、任意に選んでください。とりあえず今回はトルーデ様以外をチームに入れて貰えると助かります」


「妾はレベル上限に達しておるからの、チームに入れるだけ損だというわけじゃ。聖哉の援護くらいはしてやるが、翔魔なら援護の必要もあるまい」


 なるほど、均等割りになるから、トルーデさんをチームから外して経験値が目減りするのを防ぐのか。


 効率はそっちの方が良くなるというわけだな。元々、害獣との戦闘はオレの担当みたいなものだから戦わせる気はないけど。


「分かった。それでチーム編成をするよ」


「おっと、翔魔さんから招待きた。僕はこれを承認すればいいのですか?」


「そうですね。承認するとチーム員としてメンバーの位置がマップに表示されるのとHP、MPの状態が表示されるようになります」


 視界の端にチーム員として招待した聖哉とエスカイアさんと涼香さんのHP、MPの表示バーが現れた。


 そして、透過式ミニマップにはメンバーの光点表示されている。


 なるほど、これでお互いの情報を共有して害獣と戦闘をすることができるようになるのか。ますます、ゲームっぽい仕様だ。


 けど、強い害獣と戦う際はこうして連携が取れると戦い易くなると思うのでありがたい。


「さてと、準備も整ったし、害獣退治といきますか」


 涼香さんは支給品のセクシーな軽装鎧と銃を担いで、目的地に先に歩き出していく。


 前回の合成魔獣キメラ時は会社の制服だったが、今回は発注していた鎧が完成していたので、割と露出度が高い軽装鎧姿になっている。


 そう、肌色の割合が高い鎧なんですよ。涼香さん貴方は痴女なんですか。


 その後を同じく露出度の高い民族衣装を着て杖を持ったトルーデさんが追っていく。


「翔魔様、置いて行きますよ。聖哉君もぼーっとしない」


「あ、はい。すみません。色々と考え込んでしまいした」


「ああ、今から行くよ」


 エルフのコスプレ(?)じゃない、正装を着たエスカイアさんから声かけられたことで、我に返ったオレは先に行った聖哉の後を追って目的地に向かい歩き出した。

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