第34話 新人訓練キャンプのご依頼がきたが、オレも新人のはず

 懇親会を終えた後は一カ月の社畜生活の補填であるインターバル休暇を二週間与えられた。


 これは、残業時間に対する休暇期間も追加されており、十四日間の完全休養日となっている。


 ただし、機構からの緊急依頼に即日対応できるようにと、俺達のチームは都内滞在を言いつかっており、その分の補償は来月の給料に上乗せされて支給されるらしい。


 と言っても、今月みたいな長時間残業が多いわけではなく、国家解体の危機を救うなどの高難度な依頼が発生したのは、会社としてもかなり慌てたようで、復興に異才を発揮したバイト扱いの涼香さんは正式社員に採用されエスカイアさんと同じAランク評価を獲得した。


 しかも、ミチアス帝国からの働きかけもあったようで、俺のチームに所属する者は会社から【高度政治案件処理認定者資格】の認定を受けたことで、本給以外の資格手当が大幅に増えることになった。


 休暇に入る前に銀行で会社から振り込まれた給与五〇〇万の文字に思わずニンマリとしてしまう。


 学生バイト時代は死ぬほど働いても得られなかった金が一カ月の仕事で払い込まれていた。


 クロード社長の会社ってやっぱすごい会社なんだなぁ……。


 あの人の顔は完全に裏社会の人だと思っちゃうけどさ。


 一流企業に勤めても中々得られない月収五〇〇万という大金をポンと払える企業であることを認識して『(株)総合勇者派遣サービス』は超優良企業なのだと理解できた。


 そんな会社で主任を勤めることになった俺は凄い奴なのかもしれない。


 そんなことを思いながら、与えられたインターバル休暇をチームのメンバー達と一緒にトルーデさんの日本観光に付き合って、秋葉原のメイド喫茶に行き『トルーデ陛下おかえりなさいませ』と書かれたオムライスを食べてもらったり、秋葉原駅から少し離れたガード下にある有名なスープカレーのお店で、甘党のトルーデさんにスパイスの利いたスープカレーを召し上がってもらい悶絶してもらったり、スカイツリーに登って東京の景色や富士山などを見物してもらったりして過ごしていった。


 トルーデさんも大いに日本観光を楽しまれていたが、特にメイド喫茶が気に入ったようで、お気に入りになったメイドさんを自分の専属メイドにならぬかと誘うほどであった。


 そのメイドさんは小学生にしか見えないトルーデさんからの申し出に笑顔でお断りをしていた。


 インターバル休暇の途中、三日ほどは皆と別行動で実家に帰り、お袋と妹に無事な顔を見せてきたが、仕事の件は『ぼちぼちやっている』と誤魔化し、初任給でプレゼントをするもののリサーチを完遂していた。


 親父もミチアス帝国の件の余波で泊まり込み続いているようで、初任給のプレゼントは親父の仕事の都合を見て全員が揃う日に渡すことにした。


 こうして、インターバル休暇を満喫した俺達は再び、仕事に戻ることとなる。


「お帰り、休暇は楽しめたかね?」


 会社のオフィスにはクロード社長がニコニコして座っていた。相変わらずの悪人面である。


 と、面と向かって言うと、どこからか怖いお兄さんが出てきて東京湾に沈められそうな気もするので、グッと我慢しておいた。


 口は災いの元。

 

 いらぬ発言は死を招くので、小利口に愛想笑いをすることにした。 


「ええ、とても楽しめましたよ。おかげで仕事がしたくてたまらないです」


「翔魔はそういった所だけは真面目じゃなぁ」


「わたくしも色々とスッキリしてより一層翔魔様のお仕事のお手伝いをできることに喜びを感じています」


「そうね。どっかに荒廃した国はないかしら……今ならどんな国家でも魔改造できそうよ」


 若干一名がサラリと危ないことを言っているようだが、基本は機構所属の害獣駆除専任チームなんで、国家復興などという仕事はあまり専門でやりたくない。


 いや、やりがいはあるんだけどね。あんまり、やったらダメだと思う。


「HAHAHA、頼もしいねい。実は今のところは機構からの依頼は無くてね。待機してくれと言いたいところだが、実は派遣勇者の新規採用者が一人決まってね。実地訓練に帯同してもらいたいんだよ。もちろん、機構がミスして依頼したSランク緊急クエストじゃないから大丈夫さ」


 新卒採用時期を終えたこの時期に入社してくるとなると、中途採用の人か。年上の人かな……。


「わ、分かりました。オレのチームでその新規採用者の実地訓練を引き受けますね。ちょうど、涼香さんのLV上げとかもしたかったですし」


 涼香さんやエスカイアさんも合成魔獣キメラ騒動の時は別行動をしていたため、LVアップの経験値が割り振られなかったようだ。


 エルクラストでは、害獣を駆除することで得られる魔素マナが経験値の元となり、一定数量超えるとLVが上って能力が向上することになっているそうだ。


 そのLVも勇者適性によって上限が決められており、特殊なスキルを使用することでしか、突破はできないようになっているらしい。


 なので、LV上限を示す勇者適性がこの世界では強さの絶対基準とされているそうだが、色々と経験することで取得できるスキル構成によってはまた違った強さを発揮する者もいるため、一概に適性高い=強いとはいえないらしい。


 ちなみに、オレの勇者適性SSSは上限が未知数らしい、誰一人取得したことのない適性であるため未確認なのである。


「そうか、助かるよ。新しい子はチーム『トレース』の赤沢主任の息子さんなんだ。なんでも、親父さんの仕事を色々と勘繰ってうちの実情を一人で調べたとかいう変態ちっくな子だ。まだ、高校卒業したばかりの未成年であるけど、会社としても日本政府としても機密漏洩保全のため彼を雇用することにしたのさ。色々と頭の回る子だからよろしく鍛えてやってね」


「は、はぁ」


 チーム『トレース』の赤沢主任とは入社式の際に少しだけお話しさせてもらったが、アラフィフに近い冴えない中年サラリーマン風のおじさんだったと思ったが、その方の息子さんが色々とやらかして中途入社してくるそうだ。


 気難しい子じゃないといいな。頭のいい人って結構口が立つんで苦手なんだよね。


「なんにせよ。お仕事しないといけませんわ」


 元事務員のエスカイアさんがいそいそと新規採用されるこの準備を始めていった。

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