第35話 新人君の手厳しいご指摘にへこんでいる暇はない
別件の用事があると言って、そそくさと去ったクロード社長だが、慌てている様子を見ると日本政府から呼び出されたっぽい感じがする。
残ったオレ達で公安警察が連れてくるはずの採用者が来るのを待った。
「ちっす……ここが、『(株)総合勇者派遣サービス』なんすね。想像していたのと、ちょっと違うなあ。もっと、こう秘密基地っぽい所をイメージしていたんですけど。調べたら、品川駅周辺にデカイビル二つも持っている企業の本社がこんなオンボロとは思わなかった。道理で探しても見つからない訳だ」
新規採用者として採用された
聖哉は黒髪短髪のスッキリとした髪型に引き締まった身体つきをしたいわゆる細マッチョのイケメンタイプの子だった。
童顔まではいかないが、母性をくすぐる顔立ちをしており、男のオレが見ても可愛がってやりたい弟みたいな愛嬌も持ち合わせている。
け、けして狙っている発言じゃないけどさ。
「どうも、わたくし『(株)総合勇者派遣サービス』のチーム『セプテム』副主任のエスカイア・クロツウェルと申します。本日付けで我が社に入職となりましたことをお伝えさせてもらいます。なお、住居も社員寮をご用意しましたので、そちらで過ごされますよう社長より伝言を承っています」
「ちっす。あー、僕も遂に監禁か……ちょっと、この会社のことを調べただけなのに、公安の警官が飛んでくるなんてね。それにしてもお姉さんは日本人じゃないでしょ? エルクラストの方?」
「聖哉君、勘のいい子は長生きできませんよ。君の言う通りわたくしはエルクラスト生まれのエルフです。日本でそれを口外すると、コッソリと収監されますからね」
聖哉の前でエスカイアさんが例の眼鏡を外して、エルフとしての姿を暴露していく。一緒にいたトルーデさんも同じように眼鏡を外していた。
というか、オレ、お袋と妹に喋っちゃった気がするんだが……。
その辺は親父がキッチリともみ消してくれたのだろうか。今のところは収監されずに済んでいる。
「この坊主は口で失敗しそうな奴じゃのう。それに、頭の中では色々と考え過ぎてて、思念が煩わしいことこの上ない奴じゃ」
「おや、そっちのおチビちゃんはダークエルフだったんだ。フーン、素敵な肌の色合いだね。貴方も僕よりかなりのお姉さんでしょ。エルフもダークエルフも長命だし見た目じゃ分からないからね。それに僕の思考も読んでるみたいだし、異世界人って凄いね」
はっ!? さりげなく爆弾発言を放り込んだ聖哉であったが、トルーデさんも呆気に取られて怒るタイミングを見失っていた。
「聖哉とやら、妾をからかうでない。お主の言う通り、妾の方がかなり年上だ。敬えとは言わぬが、発言には気を付けるのじゃ」
「これは失礼しました。僕も初めてエルフっていう人種に会っていささか、テンパっているんだけどなぁ」
一向にテンパっているように見えない聖哉であったが、顔に見せないだけで、実は内心はドキドキなのであろうか?
父親の仕事を訝しんで一人で厳重に秘匿されたはずの『(株)総合勇者派遣サービス』の業務内容を調べた行動力と推察力と知性はオレには無いものであった。
父親の赤沢主任は勇者素質こそSランクだが、実直な人柄で正確に丁寧な仕事ができる職人肌の派遣勇者だとクロード社長からは聞いていた。
そんな人がオレにみたいに家族に業務内容をベラベラと喋るようなことは無いと思う。
だから、初対面で会った聖哉の洞察力や頭の回転の速さによって業務内容が推察されたものと思いたい。
「んんっ! とりあえず、今日から君はうちのチームで預かることになった。オレがチーム『セプテム』の主任である柊翔魔だ。よろしく頼む」
「貴方が主任? 他の女性達の方が有能な方に思えるんですが、縁故採用で主任? それとも日本人しか主任になれないの?」
整った顔立ちの聖哉に悪気はないのであろうが、思ったことをすぐに口に出して本人の目の前で質問するのは、ルール違反だと思うぞ。
オレもたまにやっちゃうけど、他人からやられると甚だしく不快を感じる。気を付けないとな。
こんなにイラっとするのか……。
確かにオレは縁故もあるし、日本人最高適性SSSランクというチートな能力のおかげをもちまして主任を勤めさせてもらっていますが、面と向かって言われると案外へこむのだよ。
「聖哉君、君の質問の仕方は相手を傷つけるから、疑問に思ったことは一旦頭の中で整理してオブラートに包んでから質問しなさい。君は頭良さそうだから出来るよね?」
鋭利な刃物のような質問をした聖哉に涼香さんがやんわりと注意を与える。
オレが聖哉の質問で致命傷を負いかねないと判断したのであろう。
確かに就活時代のオレであったら、今の聖哉の質問で打ちのめされていじけていただろうが、オレも社会人になったので、その程度のことで落ち込んではいられないのだ。でも、傷つくわー。
「あ、すみません。頭に浮かんだ疑問を直接ぶつけるなと親父にも注意されているんですけどね。つい、出ちゃう。柊主任、生意気なことを言ってすみませんでした。会社が認めた能力を持っているので、主任の立場におられるのですよね?」
涼香の指摘で俺が傷ついたことを知った聖哉は、素直に謝罪をしてきてくれた。
そして、自然な感じで持ち上げてくれたので、致命傷を負ったオレの自尊心が急速に回復する。
むむ、オレは聖哉の手の平で踊らされているのか? まぁ、いいや。ちょっと変わった子だけど、悪い子じゃあないみたいだ。
それに入社してすぐに後輩ができると色々と面倒を見てやりたくもなる。
「いいって、聖哉の言う通りだしな。オレのチームはエスカイアさん、涼香さん、トルーデさんの三人が切り盛りしていると思ってくれ。オレは戦うこと専門なのさ」
「へぇー、柊主任が戦闘専門……? 戦闘? ん? この会社って異世界との交易を行っているだけじゃないんですか?」
頭に疑問符が浮かんでいそうな聖哉が会社の業務内容について質問してきた。
クロード社長も採用までは決めたようだが、詳しい話は彼に全くしていないらしい。
まったく、またジム通いか飲み屋でねーちゃん達におっさんギャグをかましているのかもしれない。
「まぁ、それについては場所を変えて話すことにするよ。さぁ、行こうか異世界『エルクラスト』へ」
「え? 行く? いや、ここから? 僕の想像していたのと大分違うんですけど……。大きな門みたいなところで繋がっているんじゃ?」
「まぁまぁ、いいから、いいから」
オレは怯えた表情を見せた聖哉の肩をガシっと掴むと、一緒に大聖堂に転移する魔法陣が設置された部屋へ入っていく。
薄暗い部屋の床に浮かんだ魔法陣を見た聖哉がガクガクと震え始めていた。意外と怖がり屋さんなんだな。
まぁ、いきなりこんな怪しい部屋に連れ込まれたら、普通は警戒するよね。オレは追い込まれてたから気にしなかったけど、普通の心理状態なら絶対に怪しむ。
聖哉の様子を見て、自分が初めて来た時のことを思い出していたが、我ながらこんな怪しい様子の会社を不審がらなかったのは、アホの子であったと思わざるを得ない。
でも、実は超優良企業なのであるのだが。
「あ、あの。こ、これってなんです? ここから異世界に行くんですか?」
「そうですね。この魔法陣からエルクラストにある大聖堂に転移しますよ。最初は慣れないと思いますが、気を付けてくださいね」
「そうかの? 妾は心地よかったぞ」
「それはトルーデさんが変わっているだけで、オレも気絶したしね」
「え? え? 本当にそういう冗談やめてくださいよ。僕は結構デリケートな人間なんで、そういった激しいのはご遠慮したいんですが――――」
聖哉の願いを無情にも打ち砕くように、魔法陣から眩しい光が溢れ出していき、転移の開始が始まっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます