第29話 肉食おねいさん達が仕事の鬼に変わったら・・・やばかった。

「この条項はミチアス帝国の不利になるので、除外してください。こんな数字の援助金じゃ、この国から希少金属を受け取れると思わないでくださいね。それに設備投資ももっとしてください。最新の採掘機と製錬所建設の補助金、採掘における環境汚染に対する補償金も全然足りませんね。貴方達は子供の使いなの? この国から搾取をして日本だけが繁栄すればいいとおもっているなら、出直してきなさい。すでに他社からの打診は受けているわよ。貴方達だけが取引相手だと思わないようにね」


 朝から日本にある『(株)総合勇者派遣サービス』本社のオンボロオフィスで涼香さんが張り切って商談に臨んでいた。


 オレ達は会社と国の陰謀(というより妥協案)により、現在はミチアス帝国への出向社員という形になっており、ミチアス帝国の復興のために色々と雑多な折衝に付き合わされている。


 けれど、オレとしては経済や国家運営などさっぱり分からない上に、商談などもしたことがないため、実務を取り仕切っているのは、肉食系女子二人であるエスカイアさんと涼香さんであった。


 そして、オレの行う大事な業務は商談相手にお茶をお出しするという、お茶出し係の大命を拝している。


 別にオレが無能(実務経験は無いが)だからという訳ではなく、二人に任せると出向先の代表であるミチアス帝国の上皇トルーデさんからのご指示が出ているからだ。


 トルーデさんが前皇帝と過激派貴族を一掃して、新たに全権を掌握したトルーデさんが上皇のまま皇帝兼職し、国内の有為な人材を登用して国政を立て直している最中だった。


 国家の存続が危ぶまれたが、市井にいた前皇帝の私生児が賢明な人物であり、後ろ盾となったトルーデさんの強権の下で皇太子となり、国家継承の目処が立った。


 新皇太子が市井での苦労人であったことと、税金や日本国からの補助金を搾取していた貴族層が処刑されたことで、搾取され青息吐息だった住民達も喜び、顔に明るさが戻ってきた。


 とはいえエルクラスト最貧国であることは変わりなく、上皇トルーデさんが肉食おねいさん二人を使って、希少金属の開発利権を売り出すことを日本政府に認めさせた。


 日本側も公安調査庁が主導した今回の依頼で、情報の不正確さがあったことを一部認め、日本国との専売契約だった希少金属の開発利権の一部を解放に同意したそうだ。


 その際、一般企業に参入させる許諾を得るために、我が社のクロード社長とエスカイアさんが関係省庁を暗躍したとか、しないとか言われている。


 そうして得た開発利権売買して復興費用に充てるため、商社との商談を行っているのだ。


 後継者に指名したアレクセイ皇太子との打ち合わせで作られた復興案では、涼香さんの異才が発揮された。


 住民本位の政策が積極採用され、暮らしやすさとそれに対する税負担の透明性がキッチリと明示された新税制は、恐ろしく低い税制でありながらも弱者が這い上がれるセーフティネットが多数ある再チャレンジ型の社会保障に特化していた。


 これは復興案を主導した涼香さんが大学の在学中に考えていた国家税制らしく、現代日本にも見習って欲しいほど、オレでも分かるくらい公平で簡潔で、助けて貰いやすい税と社会保障の政策になっている。


「柊君。お帰りになるようよ。お送りして」


「あっ、はい」


 商談を終えた商社の営業担当者を階段へ案内していく。


 オレはチームの主任ではあるが、魔物との戦闘以外ではあまりお役に立てないのである。


 ちなみにこっち(日本)に帰ってきてしまえば、エルクラストでの勇者の力は発現されず、ただの一般ピープルになってしまうため、猶更に役立たず感が半端なかった。


 なので、今できる仕事はお見送りとお茶出しだけなのである。


「ふぅ、あの商社はこっちの足元見ているわね。希少金属の相場を知ってて、あの金額とかはないわー。私が、構築したミチアス帝国の新税制を軌道に乗せるには是が非でもこの開発利権を高値で売り付けないとダメね」


 ミチアス帝国専任チームとなり、一ヶ月くらいになるのだが、仕事に目覚めた涼香さんと、クロード社長とともに官公庁街を暗躍する謎の事務員に変化したエスカイアさんは、夜のお仕事をセーブしてくれるようになった。


 おかげで、オレの体調はすこぶる良好に回復した。


 やっぱり、お仕事はほどほどに忙しい方がいいよね。


「そーいえば、涼香さん。次の商社の方が見えられますよ」


「そうね。次のところは有望株だから多めの提示額を引き出させないとね。そういえば、柊君はトルーデさんに呼び出されてなかったっけ? いいの? ここで遊んでいても」


 涼香さんは仕事にハマり込むタイプのようで、目の前の仕事に意欲を燃やすのに集中する人であった。


 ようやく、肉食系女子である涼香さんの扱い方のヒントを見つけた気がした。


「あっと、そうでした。ちょっと大聖堂まで行ってきます」


 涼香さんに後を任せて、転移装置を使うと、エルクラストの大聖堂に飛んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る