第28話 復興作業も業務内容ですか?

 皇城内は合成魔獣キメラから逃げようとした住民たちで溢れかえっており、混乱している様子だったが、オレの制服を着て歩くトルーデさんの姿を見つけた領民たちは安堵した顔をした。


 どうやら、住民を守るべき貴族や皇帝は、合成魔獣キメラ出現以前安全な場所に逃亡していて、ごく少数の真面目な貴族が避難誘導を手伝っていたようだ。


「皇帝は逃げ出したらしいのぅ。任命責任は妾にあるから、後釜を決めるまで妾が政務を代行することにしよう」


「その言葉、待ってましたぜ」


 背後から声が聞こえたので振り向くと、いつもの調理服ではなく会社の制服姿の天木料理長が二刀を手にして立っていた。


「あ、あれ? 天木料理長……なんでここに?」


「なんでって、エスカイアがアレだけ騒いだら、緊急支援チームとしては出ざるを得ないだろうがっ! あいつの第一声が『ミチアス帝国が滅亡しちゃいます』だったんだぞ! 転移してきたら、街は騒然としているし、海でお前が化け物級の合成魔獣キメラと戦っているとか意味わかんねーぞ」


 天木料理長はオレの顔を見て呆れた顔をしていたが、合成魔獣キメラがあんな場所に潜んでいたなんて思わないし、なんとかがんばって対処したのだから、少しは褒めてほしい。


 出現するのが分かっていたら、オレも相応の対応をして事に当たっていたが、東雲女史に渡された事前情報では合成魔獣キメラはまだ稼働状態に入っていないはずだと伝えられていた。


 でも、実際こちらに来てみたら、すでに合成魔獣キメラは完成して稼働し、街を襲ってきた。


 東雲女史も結構いい加減な仕事をするなぁ……。


 とりあえず、向こうから文句言われたら、クロード社長を通して今回のことを言ってもらおう。


 オレがしゃしゃり出ると色々とややこしくなるから、こういう時こそ、飲み歩いて仕事をサボっているクロード社長を使うべき時というもんだ。


「お、お手数をおかけしました。天木料理長に尻拭いをさせる形になってすみません」


「いいってことよ。だが、Sクラスの合成魔獣キメラなんて、オレでも単体で倒せるか怪しい奴だぞ。お前は自分の仕事をしっかりとこなした。普通だったら街が壊滅してるぞ。よく機転を利かせて海で戦ったな」


 ポンポンと肩を叩いて褒めてくれた。


「ありがとうございます!」


 トルーデさんといい、天木料理長といい、意外といい人達二人に褒められたことで、自己肯定感が上がっていく。


 害獣駆除も大事だけど、被害が出ないことも大事だもんな。もっと、仕事の経験を積んでスマートにやれるようにしないとな。


 天木料理長と話していたら、隣で黙って話を聞いていたトルーデさんが口を開いた。


「天木殿と申されたな。妾がミチアス帝国初代皇帝トルーデ・ベッテガだ。現在、皇帝が不在のため、妾が政務を代行しようと思っておるのじゃ」


「これはトルーデ様、ご機嫌麗しゅう。ご挨拶が遅れましたことご容赦ください」


 あのいかつい顔の天木料理長が、真面目な顔をしてトルーデさんに膝を突いて頭を垂れ、挨拶をした。


 厨房から出て業務に入ると、傍若無人に思える天木料理長も真面目な社会人の先輩に見えるのは不思議な光景だ。


 まぁ、このことで天木料理長を茶化すと、絶対に後で仕返しされるのでやめておこう。


「現在、過激派貴族の捕縛中とのことじゃが、捕縛を終えたら、そやつらは妾に引き渡してくれるのであろうな? そやつらは国家転覆を謀った重罪人であるからのぅ」


 頭を垂れる天木料理長の前で、トルーデさんが仁王立ちをしている姿を見ると、一代で国を築き上げた英雄のオーラを醸し出していて、能力的にはこちらが上だと分かっていても、逆らうことが許されないような気配になった。


「はい。そのようにせよとクロード社長より伝言を預かっております。私のチームは過激派貴族を捕縛したら、帰還いたしますが、この柊のチームは後処理まで扱き使っていいと指示を受けておりますので、ご自由にお使いください」


 天木料理長の言い出した言葉を聞いて、オレはギョッとしてしまった。


 え? そんな話聞いてないなよ。この合成魔獣キメラ討伐終わったら、業務終了じゃないの? ええ? マジで?


 前言撤回、天木料理長、おにちく決定です。


「あ、天木料理長……」


「というのが、社長の指示だ。正確には東雲女史からのご指名らしい」


 つまり、この件ではオレ達に後始末を行えという無茶振り指令が日本国側から通達されてしまったってことか。


「あ、あの。泊まり込みですかね?」


「だろうな。飯は食堂にくれば喰わせてやるから、頑張れよ」


「そうか、翔魔を貸してくれるのか……では、精々扱き使わせてもらおうかの。被害が少ないとはいえ、港も街も水浸し、今回の件に加担した貴族たちはごっそりといなくなるであろうから、住民から新たな官吏も採用せねばならん」


 トルーデの提示した業務量の多さに目の前が真っ暗になってしまっていた。


 確実に数ヵ月は泊まり込みになりそうな大惨事案件である。


 絶対に干からびて死んでしまう案件だと思われた。


 こうして、オレはトルーデさんのしもべとして日本国と『(株)総合勇者派遣サービス』から身売りされ、ミチアス帝国の出向職員となることが決定した瞬間だった。


 おかしい、オレ達は機構の専任チームだったはず。……この処遇解せぬ……。

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