第27話 キメラ討伐

 トルーデさんを取り込んでいる合成魔獣キメラは気絶から覚めると、オレに対して大きな咆哮を上げて威嚇を行ってきた。


 ゴリラの上半身が海底の岩を掴み、こちらへ投げてきた。


 オレは軽く身を躱して避けると、鰐顔の前にテレポートして剣を全力で振り抜く。


 剣先を口で受けようとした鰐の顎の付け根を真横に切り裂いていった。


 切り離された顔の上部がドサリと海面に落ちた。


 うげえ、断面が気色悪い。それに血もでないんだな。


 二枚おろしにされた鰐の頭部は海面でまだビクビクと震えている。


 激高した合成魔獣キメラがユニコーンの角に光を集めていた。


 先ほどの稲妻を撃たれるのは、面倒なので一気に剣を振り抜き真空波でユニコーンの角を切り落としていく。


 これで攻撃手段は肉弾だけになったな。


 角を落としたことで油断していたオレはゴリラの手に捕まってしまった。


 ギリギリと握りつぶそうと合成魔獣キメラが力を入れてくるが、全く痛みはなく、逆に捕まったことでゴリラの握り潰そうと手を吹き飛ばす。


 いい加減、面倒になってきたので、剣を構え直すと最大化している筋力を使って、トルーデさんの魔力によって繋ぎ止められている合成魔獣キメラの部位を切り離した。


 海面に落ちていった合成魔獣キメラの胴体からトルーデさんを慎重に切り離していく。


 すでに、切り離された合成魔獣キメラだったものたちは辺りに黒い瘴気を放ち腐り始めていた。


 これで、最後だ。


 トルーデさんを取り込んでいた合成魔獣キメラの胴体から切り離すのに成功する。


 片手にトルーデさんを抱いたオレは、合成魔獣キメラの死骸を、テレキネシスを使い一か所に寄せ集め、高温の火炎であるギガンティックインフェルノを発動させて骨も残さずに焼却処分した。


「んっ……んんっ! こら、貴様はどこを触っておるのじゃ! 妾がミチアス帝国初代皇帝トルーデ・ベッテガであることを知っていてのこの狼藉か?」


 助け出すのと焼却に必死でトルーデを抱えていた右手が、彼女のそこはかとなく膨らんだ胸に触れてしまっていた。


 それを見たトルーデさんがセクハラを受けたと勘違いしている気もする。


「ひぇ!? ち、違います。事故です。事故。ワザとじゃないです。そ、そうだ。とりあえずこれ着て下さい。オレの目のやり場に困りますから」


 オレは着ていた制服の上着をトルーデさんに渡した。受け取った制服の上着を着たトルーデさんは小さな身体なのが、丸わかりになった。


 要は、制服がダボダボでサイズが合わないのである。


「中々に良い心がけじゃな。気が利く男は嫌いじゃないぞ。これに免じて先程の狼藉の件は黙っておいてやろう。それに合成魔獣キメラから救ってもらったことは感謝せねばなるまい。核となった妾が絶命しておればこの辺りは焦土と化して我が国は致命的なダメージを負っていたはずだからのぅ」


 見た目は一〇歳児の銀髪ツインテールダークエルフにしか見えないのだが、時々見せる仕草や目線はエスカイアさん達よりも、更に大人っぽさを感じさせ、妖艶とも言っていいほどの色気がにじみ出していた。


 けれど、容姿はどう見てもロリダークエルフなので違和感が仕事をしまくってくれているのだ。


 トルーデさんが九〇〇歳越えなのは確かなんだろうけど、ガツガツした肉食系ではなくて、包容力が感じられるタイプの女性だと感じていた。


 人生九〇〇年も生きていると何に対しても鷹揚に構えられるのかな。


「なんとか今の自分ができる範囲で、できることを一生懸命にやりました」


 抱き抱えていたトルーデさんは、オレの顔を抱きしめてくれて、頭をポンポンと撫でてくれた。


「よくやったのじゃ。街の被害が軽微に済んだのもお主のおかげなのじゃ。仕事のできる勇者は嫌いではないのじゃぞ。さて、ここからは妾が少しばかりお仕置きをせねばならん者がおる。テレポートで皇城へ飛んでくれるかのぅ」


 トルーデさんは、街の人たちが逃げ込んだ丘の上の皇城を指差す。


「妾が魔獣の森で眠る前、あれだけ口を酸っぱくして領民を苛めるでないと忠告してやったのに、忠告を受け入れずに自らの取り巻き達だけに栄華を分け与えておったからのぉ。正直、妾が直接引導を渡してやろうかと思っておったところなのじゃ。そんなおりに過激思想に走った馬鹿貴族共が合成魔獣キメラの核に妾を使いおった。貴族という特権意識は阿呆しか生み出さぬのかもしれぬな。今回の件で妾はほとほと愛想が尽きたぞ」


「は、はぁ……」


 俺は指示されるまま、皇城へ向かってテレポートした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る