第26話 ロリババ・・・・・・もといロリおねいさんって素敵

 屋外に出たところで城壁から顔を覗かせている害獣の姿が目に飛び込んできた。


 蝙蝠の羽を巨大化させたような羽、サイの身体のように分厚い皮膚と針山のような棘を持った四つ足の体躯からは、ゴリラのような筋肉質の上半身が生え、頭にはユニコーンのような角を生やした馬面と、大きく裂けた口と鋭い牙を持った鰐顔が二つならんで生えている。

 

「あ、あれは合成魔獣キメラですわね。というか、あれほど巨大なのは今まで製造されてないかもしれませんよ。小型サイズの合成魔獣キメラでも直径一〇〇メートルは消し飛びますから、あのサイズだと下手すればこの街の半分が吹き飛んでもおかしくないです」


「ちょ、ちょっと。半分ってすごくマズいじゃないの。ここで合成魔獣キメラが暴発したら東雲さんに首絞められるわよ。無能な王だけど現帝室を維持してって言われてるし―――」


 城壁上で暴れていた合成魔獣キメラの二つの顔の内、鰐の方が大きく口を開いたかと思うと、眩い光を放って光条のようなものを港に向かって放った。


 放たれた光条は海を一瞬で蒸発させ、次いで大きな爆発を引き起こして、大波がおきていた。


 ヤバい威力すぎ! すぐにあいつをここから話さないと街の人が巻き込まれる!


 合成魔獣キメラと海から押し寄せた波によって住民達もパニックに陥り、次々に屋外に出て高台にある皇城へ駆け出していた。


「エスカイアさん、涼香さん。オレがあいつをここから引き離すから、住民の誘導頼みます。それと、これはオレからのお守り」


 万が一被弾しても二人を守れるように、最高レベルの防護魔術で障壁を付与しておいた。これで、流れ弾で二人が死ぬこともないはずだ。


「これって……パーフェクトウォール……翔魔様は最高レベルの魔術も簡単に使えてしまうのですね……普通は数名の高位魔術師が儀式を経て付与する防護魔術なんですけど……あ、ありがとうございます。これなら、死なないはずですわ」


「この膜みたいのがそんなに凄いの?」


「ええ、多分。翔魔様の力を考えれば、さっきの光条も弾き返せるかと思います。けど、今は住民の避難誘導が先ですわ」


「あ、ああ。そうね。柊君っ! あいつをさっさとここから離して」


「任された。二人も気を付けてね」


 オレは避難の誘導を二人に任せると、飛行魔術を展開して空から暴れ回る合成魔獣キメラに向けて近づいていった。



 空を飛んで近づいてくるオレを見つけた合成魔獣キメラが、ユニコーンの角を光らせると、にわかに雲が発生して稲妻がオレ向って飛んでくる。


 すぐにパーフェクトウォールを街ごと包むように展開して稲妻を無効化してやった。


 ここで戦うのはマズいな。深刻な被害が出る前に街から離さないと。


 眼下で暴れる合成魔獣キメラを睨むと、魔物鑑定を行っていく。



――――


 Sキメラ


 魔物LV65


 害獣系統:人造系


 HP:20800

 

 MP:10890


 攻撃:4020


 防御:3560


 素早さ:2930


 魔力:3560


 魔防:3340


 スキル:稲妻 破壊光線 自爆 麻痺無効 毒無効 攻撃阻害 


 弱点:なし


 無効化:なし


――――


 鑑定を終えたが、多頭火竜ヒドラよりも更に強い魔物であることが判明していた。


 特に攻撃力がそれなりに高いが、倒せない相手ではない。


 でも、絶命時に爆発するって言ってたし、まずは周囲に何もない海上に連れていかないと。


 『マジック』と呟きディスプレイが展開されると、フィジカルストレングスを最大限まで掛けて、身体が虹色のオーラに包まれた。


 最大級の身体強化すると、一気にテレポートで合成魔獣キメラの懐に入り、飛空魔術で勢いを付けた飛び蹴りをゴリラの身体に打ち込んだ。


 飛び蹴りを受けた合成魔獣キメラは鞠のように高く打ち上げられ海上に放り出され、でかい水しぶきをあげた。


 これで、最悪爆発しても大波で済みそう。波だけならパーフェクトウォールだけで防げるはず。あとは倒すだけだ!


 トドメを刺す前に、もう一度テレポートして合成魔獣キメラに近づくと、身体に触れてスキルをコピーしていく。


 一応、いざって時に役に立つかもしれないから、何でもコピーしとかないと。


――――


 >稲妻をコピーしますか? Y/N


 >破壊光線をコピーしますか? Y/N 


 >自爆をコピーしますか? Y/N


 >攻撃阻害をコピーしますか? Y/N


――――


 触れると被っていないスキルがコピーするか表示されていく。


 自爆っているかな……というか、自爆して再生とかってできるのか。


 試したいけど、試しちゃいけないものだと思うな。うん。きっとそうだ。


 表示されているものを全てコピーし終えた時、合成魔獣キメラの二つ頭の付けの根に人のようなものがチラリと見えた。


 あんなところに人がいるだなんて……。もしかして巻き込んじゃった人かな。


 合成魔獣キメラは海上に浮かんだまま、気絶しているようだったので、人影に近づいてみた。


「おっと、裸とは思わなかったぜ。でもまぁ、小さい子だから別にどうってこともないけどさ」


 人影の主は下半身を合成魔獣キメラに喰い込ませたダークエルフの少女だった。


 いや、少女というよりは幼女といっていいほど幼さを感じさせる子だ。


 銀髪のツインテールを垂らし、気の強そうな吊り目の紅眼、妖しい魅力を発揮する褐色の肌をした幼女はブスっとした表情でオレを見ていた。


「お主は妾の裸を見て欲情しておるのかのぉ。こう見えても妾も昔はもっとボン、キュ、ボンのナイスバディだったのじゃ。今はこのような化け物にされてしもうたがな」


 ダークエルフの幼女は手で胸を隠していた。そういった風に恥ずかしがられると、こっちも無駄に意識してしまい恥ずかしくなるのだが。


 ともかく、彼女も合成魔獣キメラの一部とされてしまっているようであった。


「き、君は何者さ?」


「お主こそ。人に名前を尋ねる時は先に名乗れと親におしえられなかったのか? 普通は先に名乗るのじゃがのぉ~」


 幼女に指摘されて、自分が相手を侮っていたことを知る。


 確かに彼女の言うことは正論であった。


 名前を聞く時は自分から先に名乗れと、お袋に口を酸っぱくするほど言われていた。


「あ、はい。オレは柊翔魔。『(株)総合勇者派遣サービス』派遣勇者第七係主任をしてます。で、君は何者?」


 派遣勇者と聞いた幼女が首を傾げていた。オレ達の存在を知らないのであろうか?


「ふむ、妾が魔境の森で昼寝をしている間に世の中が変わってしまったようなのじゃ。派遣勇者など聞いたことが無いが、名乗ったからには妾の名を教えねばならないのじゃ。妾はミチアス帝国初代皇帝トルーデ・ベッテガ。齢九三五歳を数えるのじゃが……これは内緒にしておいてくれなのじゃ。魔境の森で昼寝をしておったのじゃが、気付いたら合成魔獣キメラの核にされてしまっていたようなのじゃ」


 幼女が発した年齢に思考が停止した。


 一〇歳くらいの幼女かと思っていたが、齢九〇〇歳を超えるロリババア……。


 もとい、ロリおねいさんだった。しかも、この国の初代皇帝だと自称している。


「あ、はい。トルーデ陛下とお呼びした方がいいでしょうか……」


「皇帝位は甥に譲ったのじゃ。ただのトルーデたんでいいのじゃ。それにしてもお主は強いの。このエルクラストにかように強い勇者がおるとは思わなんだのじゃ。妾の魔力を使って合成したこの合成魔獣キメラはSランクの害獣なのだがのぉ」


 トルーデさんは恥ずかしそうに胸を隠したままであったが、オレをこの世界の勇者だと勘違いしている様子だった。


「トルーデさん。オレはこの世界の勇者ではありませんよ。日本から来た勇者です。二〇年ほど前にオレの国とこの世界が繋がってしまったようで、それからオレ達日本人も派遣勇者をするようになったみたいです」


「ほぅ、少し昼寝している間に世の中は激変しておるのぅ。ところで、翔魔。妾を助けようとはせぬのか?」


 トルーデさんがモジモジと身をくねらせていた。下半身は合成魔獣キメラとくっついてしまっており、助けろと言われても、どう助ければいいのか皆目見当がつかないのである。


 助ける方法を考えようと、合成魔獣キメラとの結合部をジッと見ていたらトルーデさんの鉄拳が飛んできた。でも、まぁポカポカと叩かれても全く痛くないからいいんだけどさ。


「馬鹿、エッチな眼で妾を見るでない! 妾は魔力を供給しているだけだから、他の部位を普通に倒せばいいだけなのじゃ。そうすれば、妾はコアから排出される。反対に妾を間違って殺したらこの辺り一帯は焦土化すから気を付けるのじゃ。お主ならきっと合成魔獣キメラを倒せるはずなの……じゃ……」


 トルーデさんがビクンと震えたかと思うと、眼が虚ろになった。


 すると、気絶していた他の部位が動き始めていた。


「トルーデさんを避けてこいつらをぶちのめせばいいんだな……」


 オレは支給されている剣を鞘から引き抜くと、正眼に構えて合成魔獣キメラと相対することになった。

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