第25話 南の国でキメラ探し
日本側の依頼を受けて、エルクラスト大陸の南に位置するミチアス帝国の帝都アケロイに転移してきたが、どうもこの国はエルクラストで最貧国であり、治安は首都といえども余りよろしくないとエスカイアさんが言っていた。
実際、この国に転移したが、貴族街と思われる丘の上の住宅街や王の居城は立派な作りの家々だが、転移ゲートにある周辺の家は、うす汚れていてガラスが破れ、戸も外れかけたようなボロい建物が軒を連ねていた。
これは、典型的な格差社会というやつであろうか。
きっと、丘の上の王様や貴族達が下々から色々と吸い上げて苦しめているんだろうな。
みんな、目が死んでるよ。これがいわゆる死んだ魚の眼をしているというやつか。くわばら、くわばら。
「この国は明らかに貧富の差が激しいわね。富める者と富まざる者の差がありすぎるわ。こんな、様子じゃ、現帝室を打倒してやろうと考える人も出てくるわね」
涼香さんは、スラムのように荒廃した街で、路上に横たわる痩せたダークエルフの子供たちを見て憤慨している。
大学では政策学部を専攻していたという涼香さんは、日本にいた時から、こういった領民に対して搾取するだけの為政者を見ては無能と断罪して斬り捨てているのだ。
なので、この国の偉いさんに会わせると、滾々と数時間にわたり説教をし続ける可能性があった。
だが、そんなことを行えば、日本側とこの国との関係が悪くなるのは子供でも分かることなので、さっさと依頼だけを片付けて帰るつもりだ。
「まぁ、オレ達は他国の内政干渉できないからね。そこのところは頼みますよ」
「分かってるって。この国の王様を『このクソ豚野郎、無能すぎなんだよ』って分からせるくらいに冷たい視線を送ればいいんでしょ?」
あっ、はい。全然、分かっておられませんでした。
これは、マズい。絶対に王城には寄ってはダメだな。
「そういえば、エスカイアさん。東雲さんから貰ったリストの人物は貴族街にいるんでしょ?」
「ええ。ですが、普通に貴方
辺りを見渡していたエスカイアさんが、ボロボロの看板を掲げた酒場らしき所を指差していた。
たしかに、普通に聞いて喋ってくれるわけないか。情報収集も大事だよね。ダークエルフのおねいさんも魅力的だしな。
南に位置するミチアス帝国は常夏の大陸で常時暖かいため、住民は半裸に近い露出の高い服を着用しており、それでいて男女みなすべてがモデル並みの美形だらけなので、目のやり場に困るのだ。
「柊君? 私も暑いから制服を脱ごうかしら?」
女子高生みたいな会社の制服を着た涼香さんが胸元のスカーフを緩める。
業務中であり、明るいうちからのお誘いには、断固した姿勢で拒否を貫くことにした。
「ダメですよ。業務中です」
「えー、ダークエルフの子は良くて私はダメなのぉー。ほら、ほら」
涼香さんはオレの手を取るとギュッと胸を押し当ててくる。完全に痴女なのであるが、この国の住人はこちらに感心を示そうせずに相変わらず無反応だった。
エルクラスト在住時はエスカイアさんも涼香さんに強気にでてくる。
親指を曲げ、尖らせると涼香さんのこめかみにグイグイと捻じ込んでいく。
「す・ず・か・さぁ~んっ! こっちにいる時は翔魔様へのボディータッチはわたくしの許可を取ってくださいまし」
「あひぃいい。ごめんなさい。出来心なの。もうしませんからぁ」
すっかりと、息の合った感じの二人だが、そのコンビネーションは夜にも生かされるので、オレとしてはほどほどでいいと思われた。
「二人とも遊んでないで、さっさと仕事を終わらせるよ」
オレはじゃれあう二人を置いて、情報収集のために寂れた酒場に入っていった。
酒場に入ると昼間から酒浸りになっている者、よく分からない葉っぱを煙草みたいにして吸う人、虚空を眺めている人など様々な人がいるが、全ての人から感じられるのは無力感だけであった。
「いらっしゃい。この国に派遣勇者がくるなんて珍しいね。貴族様の屋敷に魔物でも忍び込んだのかい?」
酒場のマスターらしい壮年のイケメンダークエルフがコップを磨きながら、こちらを見ていた。
「あ、いえ。今回は観光ですよ。わたくし達久しぶりに休暇が取れて、行ったことのない国を巡ろうという話になりましてね。このミチアス帝国に来てみたんですよ」
エスカイアさんが人当たりの良さそうな笑顔を浮かべて、カウンター席に座っていく。
「そうそう、私、つい最近に派遣勇者になりましてね。初めてのお休みなんで、このエスカイアさんに色々な国を紹介してもらっているんですよ」
涼香さんもエスカイアさんと同じように笑顔を浮かべてカウンター席に座っていく。
女性二人からニコニコと話しかけられた壮年のダークエルフは少しだけ照れたような顔をしたが、商売人らしく二人の相手をしてくれていた。
「へー、それでアレはどっちの彼氏だい?」
「「私(わたくし)」」
答えは同時だった。マスターの壮年ダークエルフも苦笑している。チラリとオレの顔を確認していた。
「あーすみませんね。うちのが騒ぎまして……本当にすみません」
「いいってことよ。お兄さん見かけによらずやるね。二人とも彼女にするだなんてさ。やっぱ、派遣勇者様は稼ぎが違うのかねぇ」
「そ、そんなことないっすよ」
「美人二人もいると夜も大変だろ?」
「えーっと」
言えねえぇ。この二人が夜は最強の肉食獣で貪られまくっているだなんて言えねぇ。いや、まぁ、嫌いじゃないんですが……ね。
「あはは。こいつはいいや」
壮年ダークエルフは察してくれたようで、ニヤニヤと笑い顔でオレの方を見ていた。
いやだからね。オレが求めていくんじゃなくてさ。彼女達がね。そう、彼女達がなんですよ。
そうしていると、地面が大きく揺れて、街の外の方から室内まで響くような爆発音が届いてきた。
「な、なに!?」
急な爆発音に酒場に居た人が外へ確認しに走る。すると、信じられないような言葉が飛び出してきた。
「ま、魔物だっ! 城壁まで魔物が迫っているぞ! 何だ、アレ! でけえぞ」
外の様子を見た男性が腰を抜かしていたが、嫌な予感がしたので、オレ達は慌てて外に出て魔物の姿を確認することにした。
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