第22話 父親公認のハーレムプレイってどうなのよ

 案内されて通された場所は、どう見ても王城といっていいほどの規模の建物に到着し、その中の謁見の間と呼ばれる場所へ案内されていた。


 謁見の間はエルフの城らしく木をふんだんに使った調度品が並べられ、観賞用の植物も多く設置されていて、独特な香りが室内に漂っていた。


 この匂いは香木を焚いているのかな……。


 さすがエルフだ。やっぱこういった神秘的な雰囲気が似合うよね。


 どうも肉食なエスカイアさんを見ていると薄幸繊細なイメージが乏しかったため、エルフ達の国の中枢である王城の謁見の間が、こういったイメージを醸し出しているとなんだか安心できた。


「ムライ主席がお見えになります」


 衛兵がエスカイアさんの父親であるムライ主席が来たことを告げたので、エスカイアさんに教えられた通り、膝を突いて頭を垂れた。


「そなたが、『(株)総合勇者派遣サービス』派遣勇者七係主任、柊翔魔ひいらぎ しょうま殿か……面をあげられよ」


 相手が顔をあげろと言ったので、顔を上げると、目の前にはドワーフかと思えるほどの筋肉を鍛え上げ、プラチナブロンドの長い髪と髭を生やした尖り耳の壮年エルフが椅子に座っていた。


 この世界に薄幸繊細なエルフというのはどうやら希少種のようだった。


 ガチムキエルフが来るとはオレも予想外だったぜ……。というか、オレこのお父さんにぶん殴られちゃうのか。


 目の前に座っている壮年エルフは、オレの顔を見てニッコリと白い歯を見せて笑っていた。


「いい面構えをされておられる。それでこそ、我が娘の配偶者にピッタリな男子であるな。式は盛大にするつもりだが、日本式も取り入れた方が良いかの?」


 え? 話が見えないですけど、オレがエスカイアさんと結婚するとか意味不明なんですけど? えっ? えっ? 


 オレが戸惑っていると、隣にいた涼香さんが慌てた様子でムライ主席に喰ってかかっていた。


「ちょ、ちょっと待ってください! 柊君は私の婚約者なんです! エスカイアさんとはただの会社の同僚ですからっ!」


「む? そうなのか? ついこの間に寄越した手紙には結婚したい人が出来たと書いてあったが……」


 お義父さん……いや、ガチムキエルフのおじさんよ。


 確かにエスカイアさんは綺麗で仕事も出来て、有能な人だが嫁にするだなんて一言も言ってないし、聞いてもいないのだが。


 隣には顔を真っ赤にして慌てているエスカイアさんがいた。


「お父様!? まだ、早いですわ。いずれそうなりたいなと、ちゃんと書き加えておいたではありませんか! それと、涼香さんはどさくさ紛れに変なことを言わないでくださいよ」


 おっと、お義父さん……もとい、ガチムキエルフのムライ主席の顔色が一気に変わっていく。どうみても、怒っているようにしか感じられない様子だった。


「そうですか……これは失礼を申しましたな。聞けば多頭火龍ヒドラをソロで討伐できる力の持ち主とのこと、そのような力をお持ちになった勇者様に対等な婚約者とは愚かな申し出でありました。我が娘は翔魔殿のお世話係として差し上げますので、どうぞご自由にお使いください」


 怒っているのかと思えたムライ主席は、オレに怒っていたのではなく、娘であるエスカイアさんに対して怒っていた。


 ご自由にお使いくださいって、自分の娘を売り渡しているのと同じでしょ……。


 オレは一介の新社会人で新入社員に過ぎない男ですよ。


 自由にしていいと親公認にお許しが出ちゃったら、あんなことやこんなことをしちゃうかもしれませんよ。というか、もうしちゃっているんですが……。


「ム、ムライ首席。それは幾らなんでもエスカイアさんに悪いですから……彼女とのことは前向きに検討させてもらいますし、男としての責任はとるつもりですから」

「柊君……いや、翔魔様と今後はお呼びせねばなりませんね。終生お仕えする殿方ができて、わたくしは幸せでございます」


 おもいかけず、エスカイアは父親への婚約報告を終えたことで、両手を頬に当てて照れたような顔をしていた。反対に仏頂面をしているのは、涼香さんだった。


「柊君、酷い……わたしとは遊びだったのね……」


 大仰に泣き崩れる涼香さんを見て、ムライ首相の頬がピクリと動く。修羅場到来の予感が……。


 絶対にマズいパターンだよね。他の女連れて娘を嫁に貰いに来た男っぽい感じになってるし。


 衛兵とか呼ばれて刑場に引き出されちゃう感じかな。首を落とされるのは勘弁して欲しい。正直、再生で頭が生えるかは実験したくないんだよね。


「そちらの方がさきほど婚約者だと言われておりましたが、日本人の方ですかな? エルクラストは一夫多妻制ですが、日本は違う一夫一妻制だと聞いております。エスカイアのことはこちらでの現地妻として貰えば私としても文句はありませぬぞ。勇者適性の高い優秀な子を産んでくれれば、この国も安泰ですからな。ワハハっ!」


 豪快な笑い声をあげたムライ首席に涼香さんもオレも呆気に取られてしまった。


 我に返った涼香さんがニンマリとした顔をしている。


 あの顔は何かを納得したような顔であった。


「じゃ、じゃあ私は日本での妻でいいです。エスカイアさんはエルクラストでの妻。それなら、私も我慢しますから。ウフフ、柊君の奥さんかぁ……」


 あらぬ世界へトリップしてしまった涼香さんであったが、まだプロポーズすらしてないと思ったのは、オレの記憶違いであろうか。


 それにしても、こちらの世界は勇者適性の高い者が重要視されるというのは本当のことらしい。


 天木料理長もそうだけど、勇者素質の高い人ほど、見合いが多くもち込まれるそうだ。


 その理由は勇者適性の高い人同士の子供は高い勇者適性を引き継ぐ可能性があるためであるとクロード社長が言っていた。


 Aランクが最高と言われているエルクラスト生まれの人達でも日本人勇者との子であれば、限界が突破できるのではと言われているが、日本人勇者との子供の数が少ないため、未だにそれは解明されていなかった。


 というか、ちょっと待って何このハーレム展開的な流れ。確かに二人に迫られて致してしまったが、オレはまだ学生を卒業したばかりの新社会人でまだ家庭を持てる財力も持ち合わせていない。


「ちょっと、二人とも気が早いのでは……それにムライ首席」


「他人行儀はやめ給え。お義父さんでいいのだよ。もう、エスカイアは嫁に出したも同然だからな。ワハハ、困ったことがあったら何でも相談に乗るぞ」


 ムライ首席はすでにオレのお義父さんを自認しているようだ。


 ガチムキな体躯で豪快な笑いをされるお義父さんを横目に、日本妻の涼香さんと、エルクラスト妻のエスカイアさんが、ニコニコしてオレの両腕に腕を絡めている状況を誰か詳しく説明してください。意味不明です。


 その後は、官邸にて国を挙げての晩餐会が開かれると聞かされ主賓として参加することがいつの間にか決定していた。

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