第14話 社員ランクアップってオレはまだ試用期間じゃね?

 転移で大神殿に帰り着くと、クロード社長はじめ、エルクラスト害獣駆除機関の職員さん達が総出でお出迎えしてくれていた。


「おお、エスカイア……もう、君が世話をされるようになったのか? HAHAHA」


 クロード社長、エスカイアさんの傷を抉らないでください……。あ、ほら、泣き出した。おかげで詰襟がビショビショなんすよ。


「クロード社長……わたくし、本日限りで柊君の教育係を辞退させてもらいまずぅ……えっぐ、えっぐ……わたくしなんか……わたくしなんかぁ……うわーーん」


「柊君。これまた、見事にエスカイア君のプライドを打ち砕いてくれたね。彼女はエルクラストでも結構優秀な人材なんだよ。エルクラスト生まれのサポート職員から、我が社の正規職員になったのは二十年で十名程度しかいないのだがね……」


「は、はぁ。おっしゃるとおり、エスカイアさんは非常に優秀な方ですよ。おかげで『多頭火竜ヒドラ』も討伐できましたし。あ、そうだ。これはお土産です。巨大魔晶石」


 オレはポケットから取り出した握り拳大の赤く透けた宝石のような石をクロード社長に手渡す。職員たちもその魔晶石の大きさに眼を見開いて驚いていた。


「これはデカイ。さすがにSランク害獣の魔結晶だな……」


 帰り道、泣いているエスカイアさんに聞いた話だが、この魔結晶はエルクラストの重要エネルギー源で転移装置や身分証の機能維持、主要都市の結界障壁維持に使用されるとのことだ。


 だから、その魔結晶を身に宿した害獣は煙たがられるものの、重要物資である魔結晶を生成するという役割を担っているため、根絶することができず魔境といわれる管理区を設けて保護もしていると聞かされている。


 切っても切れないほどの共生関係という訳か……。


「クロード社長、今回は我々の不手際で御社の『派遣勇者』を危険な目に遇わせたのは謝罪させてもらう。すまなかった」


 出迎えてくれた職員の中で一番年嵩な背の低い老人が、魔晶石を持ったクロード社長に頭を下げていた。どうやら、オレが緊急害獣駆除クエストを受注してしまったのは、機構側の不手際があったらしい。


 別にそんなに大して強くなかったけどなぁ。まぁ、手をかじられたけど……。おかげで生えるようになったし、傷も時間で回復するようになったし、LVも上がったし、収支を考えるとプラスしかないんだが……。


 真剣に頭を下げている顎髭の長い老人に申し訳なさがいっぱいになる。


「でしたら、我が社の新チーム結成に機構側から予算を付けてもらえぬでしょうか? 日本側からは芳しい返答を貰えなかったので、ブラス老翁の決済で機構が新チームのスポンサーになってもらえるとありがたい」


「新チームですと? 『(株)総合勇者派遣サービス』は七つ目のチームを作るということですかな?」


「ええ、この『多頭火竜ヒドラ』を、ほぼソロ討伐した柊翔魔君をSランク社員に昇格させて、『チーム主任』として七つ目のチーム『セプテム』を立ち上げていきたいのですが」


 ブラス老翁と言われた老人がビクリとして顔をあげる。


「我々機構がスポンサーのチームですと!? 機構専任チームですか? それだとほぼ例外なくSランク級の依頼しか回せませんがよろしいので?」


 クロード社長とブラス老翁と言われた二人の間で、なぜかきな臭そうな話が進んでいく。


 待って、オレはただの見習い社員なんですけど……ちょっと、待ちなさい。


「わが社も人材が逼迫しておりましたな。どうしても高難度なSランク依頼を処理できる人材が足りぬのですよ。そこへ柊君という素晴らしい逸材が現れたので、彼をSランク処理専任のチームリーダーにしようと思いましてね。彼の能力は今日見て頂いた通り、Sランク害獣をほぼ単独で狩れる能力なので、サポート要員を付ければ、立派にSランク害獣狩りになれますよ」


「ふむ……確かに最近はSランク害獣の発生数も増えてきて、依頼件数はウナギ登りになってますからなぁ……スポンサー料はいかほど……」


「当座はこれくらいで……討伐時の報酬上乗せはこちらで、人員は八名を予定していますが、これは主任となる柊君に人選を任せます。まぁ、彼一人でもなんとかなるんで、生活全般のサポートや偵察、連絡役といった者達になるとおもいますが……という訳で、年間契約でこれぐらいとなります」


 クロード社長とブラス老翁がコソコソと資料を見合って、何かを話し合っているのを見たエスカイアさんが耳元で囁く。


「あれは社長が柊君を身売りしているんです。機構と専任契約を結んで出向社員になるかもしれませんね。でも、社長が言っていた通りに柊君の『Sランク』社員はほぼ決定ですし、新チームもブラス老翁の反応を見てるとほぼ決定な気がしますよ。これでわたくしとは、本当にオサラバになってしまいますね」


 おんぶされているエスカイアさんが首筋に回していた腕でギュッとしがみついてきた。

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