第13話 人外とかになってます?

 その後もクエスト対象害獣を求めて魔境の中を探索し、ラッシュビー、ポイズンアント、ジャイアントバット、スリープシープ、コンフュージョンラビット、ストーンスネーク等を退治しつつ、スキルをコピーして『麻痺耐性』、『毒耐性』、『暗闇耐性』、『眠り耐性』、『混乱耐性』、『石化耐性』を得ていた。


 そういえば、まだ試していないスキルがあったな。この際、全部試してみよう。


 スキル欄を呼び出して『スキル創造』をタップする。


 統合させたいスキルを選択しろと表示されたので色々と放り込んでみるが、統合できるのには法則性があるようで、中々『創造』できなかった。


 害獣を探して先行して歩く、エスカイアさんのお尻を見ていたら、ピンと脳裏に閃くものが走った。


 耐性スキルなら統合できるんじゃないだろうか。早速試してみよう。 『麻痺耐性』、『毒耐性』、『暗闇耐性』、『眠り耐性』、『混乱耐性』、『石化耐性』をぶち込んで……。


――――


 >統合するスキルを選んでください。


 『麻痺耐性』、『毒耐性』、『暗闇耐性』、『眠り耐性』、『混乱耐性』、『石化耐性』


 >統合後スキル


 『状態異常無効化』


 >統合しますか? Y/N


――――


 おっしゃ、やっぱり耐性繋がりで統合出来たぜ。YESを選択すると回復したMPがゴリゴリと減ったがLVも上がっていたので、気絶せずにすんだみたいだ。この統合スキルはスキル欄を綺麗に整えるのに有用だな。マジ有能。


「柊君? 何してるの?」


「いや、コピーしたスキルを統合できないかと色々と試していて、今成功したんですよ。みてください。この燦然と輝く『状態異常無効化』スキルを」

 

 ステータスが表示されたディスプレイを見たエスカイアが眼を点にした。


――――


 柊 翔魔(ひいらぎ しょうま) 年齢22歳 人間 男性 国籍:日本


 社員ランク:F


 勇者素質:SSS


 LV10


 HP:20020


 MP:60060


 攻撃:2020


 防御:2020


 素早さ:2020


 魔力:2020


 魔防:2020


 スキル:スキル創造 スキル模倣 神の眼 全系統魔術 全属性 全武器適性 全防具適性 打撃耐性 状態異常無効化 MP増加 交渉 教育 情報収集 索敵 読解

 

――――


「あ、あの……柊君……雑魚害獣をちょっと狩っただけよね……なんで、HPが二万越えてMPが六万越えてるのよ……。それに見知らぬスキルとか、見覚えのあるスキルがあるんだけど……」


 こめかみに指先を当てて考え込む仕草をしているエスカイアさんは一幅の絵画のように完璧なポージングを決めていた。


 うーん、さすがエルフ。考え込む仕草もエレガントだな……。さすがエスカイアさん。


「ああ、もう教えられることないわ……こうして、わたくしは一日でお払い箱にされてしまうのね……せっかく、理想の勇者が見つかったと思ったのに……」


「いやいや、だから私はまだぺーぺーでして、業務の右も左も分かってないですから……」


 地面に座り込んで『の』の字を書き始めたエスカイアさんをちょっとカワイイなと思ったが、言うと更に本人が落ち込むと思い黙っておいた。


 しばらく慰めていたが、一向にエスカイアさんの機嫌は回復してこない。その時、森の奥で木がメキメキと折れる音が響いてきた。


 ティスプレイが自動で開き、マップにクエスト害獣である『多頭火竜ヒドラ』がこちらに近づいて着ていることを赤字で警告していた。


「エスカイアさん、クエスト討伐対象の『多頭火竜ヒドラ』が来ます!! さぁ、立って!」 


「え!? 今、クエスト討伐対象が『多頭火竜ヒドラ』って聞こえたけど……なんのクエスト受けてるのよ!? え? 意味わかんないわ。討伐対象はEランク害獣の茨牙象ソーンマンモスでしょ!?」


「ん? いえ、クエスト討伐対象は『多頭火竜ヒドラ』ですよ」


「んん?? 害獣討伐依頼を受けているのでしょ?」


「ええ、言われた通り、一番上の『緊急害獣討伐依頼』を選択しましたが……」


 エスカイアの顔色がサッと蒼白に染まっていく。慌てて、ディスプレイを展開して通話しようとしているが、魔境の影響で通話が繋がらないようだ。


 まずい、何かオレがしでかしてしまったようだ。もしかして、『多頭火竜ヒドラ』ってメッチャ強い害獣なのかな……。


 ヴァァアアアアアアアアアアアアア!!!!


 腹に響き渡る咆哮とともに、幾つもの頭を持った巨大な竜が木々をなぎ倒して現れていた。


――――


 ヒドラ


 魔物LV50


 害獣系統:竜系


 HP:15800

 

 MP:5960


 攻撃:2300


 防御:1921


 素早さ:652


 魔力:683


 魔防:888


 スキル:HP自動回復 HP増加 火属性 連撃 再生


 弱点:氷属性


 無効化:火属性


――――


 強いな……ざっと見て……魔術押ししないと剣ではダメージが微々たるもののような気がする。


 『多頭火竜ヒドラ』の一つの頭が息を吸い込んでいるのが見えたので、通話しようと夢中になっているエスカイアさんを押し倒すようにして、その場からどかした。


「ひゃあ!? な、ななな何をするんです。わたくし、そんなに安い女じゃなくてよっ!」


 押し倒されたエスカイアさんが赤面してアタフタとしている。


 そういう気が無いわけじゃないが、今の状況を考えるとその時ではないので、すぐさま立ち上がって、登録された『アイスブリッドストーム』を『多頭火竜ヒドラ』の頭に目がけてエリア発動させる。


 拳大の氷の塊が数千個現れて暴風雪のように、エリア内にある竜の頭をド突き回して一部を凍らせていく。


 しめた。今のうちにスキルを分捕ろう。


「ちょ! ちょっと!? 柊君! その『多頭火竜ヒドラ』はSランク害獣指定されてるのよ。普通はソロで狩るような害獣じゃないの!? 戻ってきなさい! 戻ってきて!」


「大丈夫ですよ。即死はしないし、面白そうなスキル持っているんで、コピッてきますね。エスカイアさんの援護を期待してます」


「はぁ!? わたくしの魔術? ああ! 我が勇者様はなんという無謀な方なの……炎熱避けの精霊魔術を」


 エスカイアさんが放った膜に包まれると、『多頭火竜ヒドラ』の放つ、火炎が皮膚を撫でてもまったく痛みを感じさせなくなった。


 ナイス! 熱くなくなった。さて、頂くものを頂きますか。


 一部の頭を凍らせられた『多頭火竜ヒドラ』は残った頭で盛んに火を吐く。足元に潜り込むことに成功したオレは手を触れてスキルをコピーしていった。


――――


 >HP自動回復をコピーしますか? Y/N


 >HP増加をコピーしますか? Y/N 


 >連撃をコピーしますか? Y/N


 >再生をコピーしますか? Y/N 


――――


 コピーしたスキルを全部取得する。LVアップの回復で満タンだったMPは半減したが代わりにHPが六万まで増えていた。それとともに火傷や、裂傷が時間とともに癒されていく。


「あ、あぶないっ! 柊君! 前見て!」


 エスカイアさんの声で気が付いた時には、竜の頭がオレの手を食い千切っていった。そこまで痛みこそないが、手が無くなったことに動揺を覚える。


 やっべえ、油断した。オレの手が無くなったじゃんか。お袋に怒られるパターンかな。


 しかし、無くなった手が直ぐに断面から生えてきていた。


 うわ、気色悪い。どうなった。オレの身体。再生による回復効果?


「柊君! 動いて!」

 

 再び頭が襲いかかってきたので、『カッテングウインドブラスト』を撃ち込む。数千の真空の刃が頭を斬り飛ばしていった。クールタイムを気にして、別々の魔術を次々に『多頭火竜ヒドラ』に撃ち込んでいく。


 ここでMP使い切って畳みかける。


 魔術一覧から『クイックネス』を複数回かけ、素早さを最大限まで上昇させると、『連撃』スキルを発動させる。


「これで終わりだよ」


 腰の剣を引き抜くと最大化した素早さで『多頭火竜ヒドラ』の身体を駆け上がっていった。そして、眼に見えない速さの剣の連撃を次々に繰り出し、一秒の間に『多頭火竜ヒドラ』みじん切りにしてしまった。


 細切れの肉片となった『多頭火竜ヒドラ』が光を発して消え去っていった。


――――


 >『多頭火竜ヒドラ』討伐を確認。


 >緊急害獣駆除クエストクリア


――――


「ああぁああぁあ……ソロで……ソロで……『多頭火竜ヒドラ』を討伐してしまうだなんて……嘘よ……嘘……しかも、腕が生えるだなんて……」


 地面にへたり込んだエスカイアさんが、呆けた顔でオレを見ていた。


 そういえば、『多頭火竜ヒドラ』はSランク害獣って言っていたな。腕こそ喰われたが、そこまで強い相手とは思えなかったけど。こんなもんなのか……。


「大丈夫でした? エスカイアさん? ちょっと?」


「あああぁ……柊君……柊君が『多頭火竜ヒドラ』を倒しちゃったのよね……?」


「え? あっ、はい。ちょっと苦戦しましたけど。おかげでまたLVが上がりましたよ。二〇レベル台まで上がりました。そんなに強かったかなぁ」


「あぁああぁ……伝説の勇者のファーストバトルの目撃者にわたくしはなってしまったのね……ああぁ……どうしましょう……大変なことに……わたくしはこの方に……」


 エスカイアさんは腰が抜けてしまったようで、まったく立ち上がることができなくなっていた。仕方がないので、背負って転移してきた村まで戻ることにした。


 ああ、軽いな……なんか、背中でえぐえぐと泣かれるとオレが苛めてように村の人に思われないかな……。でも、泣き顔もとっても素敵なんだけど。


 こうして、初依頼を終えたオレは村から大神殿に戻ることにした。

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