第11話 初めての実地研修

「ホントに着替えと身の回りの品しか持ってこなかったとはね……柊君は決断力があるというか……なんというか……それに柊君の御父上があの方だったとは……」


「それにしても柊君が、あの外務省異世界情報統括官の柊室長の息子さんだとは知らなかったな……お父さんには色々とお世話になってるので、今度あらためて礼を述べに行くことにしよう。君の父上が言ったとおり、日本国との密約は我々の希望を汲んで貰ったものだ。こちらも勇者は喉から手が出るほど欲しいが、大挙して異世界人が来ることは望んでいないしな」


 今日からの家となるワンルームマンションの部屋へ荷物を置くと、そのままクロード社長達と一緒に会社からエルクラストの大聖堂に飛んでいた。


 その最中に昨日父から言われたことをクロード社長達に質問をしていた。


 やっぱり、親父の言ったことは本当だったか……。日本はエルクラストとの交流を世間に秘密にしているのをエルクラスト側も受け入れているらしい。


「そういう訳だから、業務やこっちの世界のことはなるべく内密にしてくれよ。あんまり、ベラベラしゃべると公安の怖いお兄さんにどっか連れて行かれちゃうからね。HAHAHA」


 クロード社長は冗談で言っているつもりかも知れないが、あの容姿でそのセリフを吐かれると、確実に実行されると思ってしまう。


「は、はい。心得ました。口外は死んでもいたしません。父にも念押しされていますのでご安心を」


「二人とも着きましたよ。クロード社長は機構のお偉いさんに頭下げておいて下さいね」


「はいはい。機構の管理区域の魔境に入る許可はもらっておくよ。しっかりと戦闘のコツをエスカイアから伝授してもらうようにね」


「はい、ご配慮ありがとうございます。頑張ります」


 クロード社長はそう言うと手を振って別の場所へ歩き出していった。


「柊君はわたくしとこれから実地訓練に入るのでよろしく。とりあえず、制服置いておくわね。今のところストックあった剣と服しか用意できなかったけど、入社式までには希望の武具は調達できるはずだから、希望があったら帰りまでに教えてね。じゃあ、私も着替えてくるから」


 エスカイアさんが部屋の左奥にある女性用ロッカールームに消えた。


 どうやら、ここは制服に着替えるための更衣室らしい。


 男女別に分かれているが、シャワー室も完備されており、フィットネスクラブのようなトレーニング機器が奥の部屋に設置されてもいる。


 オレは白い詰襟の学生服っぽい制服と剣を持つと右側の更衣室に入り、着替えを始めた。


 なんとか、詰め襟の学生服っぽい制服を着て、剣帯に剣を佩くとさっきの場所に戻る。


 淡い草色のワンピース風の衣服に、銀製っぽい胸当てと肩当て、そして革の小手とブーツを履き、腰に小剣、背中に弓と矢筒を背負ったファンタジー小説に出てくるエルフそっくりのエスカイアさんが佇んでいた。


 おおぉ、やっぱ似合うな。事務服もいいけど、こっちの制服も似合ってる。さすが、エスカイアさんだ。


「あ、遅かったわね。剣が付けにくかった?」


「い、いえ。それほどでもなかったです。ところで、その恰好メチャメチャかっこいいですね。さすがエスカイアさんだと思いましたよ」


「え!? ほ、褒めても何も出ないわよ」


「いや、マジでファンタジー小説のエルフそっくりだ」


 急に顔を真っ赤にして照れ始めたエスカイアさんが、なんだか可愛いので、もう少し褒めてみたい気もする。


「エスカイアさんが、その恰好でコミケとか行ったら、一発でスカウトされて芸能界デビューしちゃいますよ」


 そわそわと服を気にし始めたエスカイアさんが慌てている。


「べ、別に、その、あっちの世界のエルフを真似たわけじゃないのよ。ただちょっとわたくしの趣味に合ったから試しに作ってみただけなの。そう、別にコスプレに興味がある訳じゃないの」


 アワアワとした表情で弁明しているため、彼女の言い分を推測すると、『日本でラノベ見た時のエルフの恰好がめっちゃカッコよかったからコスプレしちゃった』と言いたいらしい。


 でも、似合っているからいい。元々、スラリと手足が長く、色白、金髪ポニテと二重の翡翠眼な正真正銘のエルフなんで本職と言っても良かった。


「似合ってますよ」


「柊君! 年上をからかわない! もう! 雑談はここまで。はい、今から実地訓練に入ります。本日は、主な業務である『害獣駆除』に対して実地訓練しますね」


 照れて真っ赤な顔のエスカイアさんだったが、すぐさまお仕事モードのキリっとしたキャリアウーマンな顔に変わっていた。


 どっちのエスカイアさんもええなぁ……。


「聞いてるの? オープンメニューから『クエスト』と呟いてみて」


 言われたとおりにすると、ディスプレイが展開されてクエストが表示された。


「オッケー。このクエストは機構が、各所から受けた依頼をランクに応じた勇者やサポート職員に、割り振られて配信されるようになってるの。依頼拒否の場合は通話と同じように×マークをタップすれば、他の職員に再配信されるけど、拒否が続けばランク査定に響くし、最悪解雇も在りうるので気を付けて下さい。じゃあ、表示されているクエストタップしてもらえる。訓練用に機構に配信してもらったのがあるはずだから」


 エスカイアさんに言われるがままに、クエスト欄の一番上に出ていた『緊急』と書かれたクエストをタップした。

 

 >緊急クエスト『多頭火竜ヒドラ討伐』が受注されました。


「受注できましたよ。それでどうすればいいんですか?」


「では、クエスト対象のいる最寄りのゲートまで『ジャンプ』します。こっちでは勇者の移動は基本転移ですね。歩くことや馬を使うのは護衛依頼だけです。表示されている受注クエストをタップすれば転移します。発生した魔法陣の範囲にいる人は一緒に転移しますので、巻き込み転移だけは気を付けて下さいね」


「はい。気を付けます。じゃあ、転移しますよ」


 エスカイアさんに注意されたので、彼女以外が周りにいないことを確認してから、受注クエストをタップする。


 会社からこっちに来る時と同じような魔法陣が床に浮かび上がると、眩しい光の粒子に包み込まれていった。

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