第9話 試験って緊張するわ 武具適性試験編


「じゃあ、次は武器適性試験を始めるわね。これは、得意武器と防具の系統を検査する試験で武器は、『剣』、『槍』、『弓』、『短剣』、『斧』、『銃』、『杖』、『槌』の八系統、防具は『軽装鎧』、『重装鎧』、『ローブ』、『盾』、『大盾』の五系統から、それぞれもっとも得意な武器と防具の一系統がスキルとして付与されるの。得意武器防具はその武具の基本性能が上がるから、みんな得意な物を装備品するわ。適正無くても装備できるけど、有るものに比べれば見劣りするわね」


 こっちは一番得意な物が付与されるのか……おおぉ、銃とかあるな。銃いいな。けど、オレ武道の経験なんてないけど……使えるのか?


 さっきとは別の場所に設置された宝玉に手を触れていく。同じようにステータス画面の表示が切り替わっていった。


――――


 柊翔魔 武器適性試験機接続OK


 試験プログラムスタート


 武器適性試験開始


 剣……OK


 槍……OK


 弓……OK


 短剣……OK


 斧……OK


 銃……OK


 杖……OK


 槌……OK


 武器適性試験終了 付与スキル 全武器適性


 防具適性試験開始


 軽装鎧……OK


 重装鎧……OK


 ローブ……OK


 盾……OK


 大盾……OK


 防具適性試験終了 付与スキル 全防具適性


――――


「……待ってください。これは完全に壊れてます……なんで、得意武具が全部なんですか?」


「いや、オレに聞かれましても……分かりませんとしか……」


 魔術に続いて武具もオール適性が出てしまったようで、五度ほど再試験を行ったが、やはり『全武器適性』、『全防具適性』と表示されていた。


「ふぅ……」


「おっと、倒れるなら倒れると言ってもらえますか。オレがキッチリと支えますから」


 三度、気を失ったエスカイアさんを抱き留める。TVで見たことがあるが、強いストレスに晒されると失神することがあるという。


 オレのステータスはエスカイアさんに強いストレスを与えるほどなのか。


「ああ、醜態を晒しました。わたくしとしたことが……。認めるしかないのですね……。勇者素質『SSS』、統合スキルを作り出す能力、他人のスキルを模倣する能力、すべてを鑑定できる能力、そして、すべての魔術を操り、すべての武器を使いこなすという史上最強の勇者の存在を……」


 なんだか、エスカイアさんが言っている勇者が、とってもオレと思えない……。


「今はただの見習い社員ですから……」


 こうして試験を終えたオレはスキルに『全系統魔術』、『全属性』、『全武器適性』、『全防具適性』が追加されていた。



「HAHAHA、それは凄い逸材だったな! 柊君は我が社のエースになるかもしれんな。私もこれで機構の人間に大きな顔で交渉ができるというものだ。ご苦労だったなエスカイア。君の待ち焦がれていた伝説クラスの勇者がやってきたということだ」


「ク、クロード社長!? べ、別に柊君に対してそんな気持ちを微塵も思ってませんよ」


 試験を終えて、最初に来た社員登録をしたエントランスホールに帰ってきたところで、クロード社長と出会い、エスカイアさんが試験結果を伝えていた。


 ……オレとしては非常に高い期待値は困るけど、エスカイアさんから好意を持ってもらえるなら……。それはそれでやぶさかでも無いけど……というか嬉しいです。はい。


「それはそうと、柊君はうちの社員寮に入るかい? 実家から通うのかい? 私としては社員寮からの通勤をお勧めしたいが……ああ、ウチの社員寮はワンルームマンションを借り上げてるし、大概の物は備え付けてあるからすぐにでも住めるよ。エスカイアも住んでることだし」


 イカツイ顔のクロード社長に近寄られると、背筋がゾクゾクして膝もガクガクと震え始めていた。

 

 社長に顔を寄せられると無条件で身体が恐怖を示す……怖えぇえ。


 これ、断ったら、絶対に明日の朝迎えられないやつだよね。死にたくないので、頷くしかない。


 実家ではお袋に就職したら家を出て行けとグチグチ言われていたのもあるし、一人暮らしもしてみたいから、そう悪い話でもないか。


「あ、はい。クロード社長のご厚意に甘えさせてもらいます。今日は一旦家に帰って、両親に伝えおきます」


「なら、手続きはわたくしが進めておきますね。部屋は明日からでも使えますから、当面の手荷物を持ってきてくれれば明日の朝に案内しますよ」


「だそうだ。明日は着替えとか持ってくるがいい。その他の荷物は休みの日でも運べばいいからな。おおぉ、そろそろ終業時間だな。帰るとしよう」


 来た時と同じように文字の書き込まれた魔法陣の所まで歩くと、エスカイアが何かを思い出したような顔をしていた。


「あ!? ビックリすることが多すぎて忘れてました。こっちでの通話方法の説明を完全に忘れてましたよ。今からすぐに説明しますね。オープンメニューで社員証出したら『トーク』と呟いてください。登録者の一覧がディスプレイに表示されるので、指先でタップしていただければビデオ通話みたいに通話できるようになります。ただし、遺跡内、魔境、極地では通話不可になることがありますので気を付けてください」


 すげえな。スマホより進んでいる機能のような気もしないでもないが……。そういえば、登録はどうすれば……いいんだろうか? 考えるより聞いた方がいいな。


「あの、登録は?」


「はいはい。登録はどちらかが社員証に触れればリストに登録されますよ。えい」


 使い方をマスターしようと出していた社員証にエスカイアが指を触れる。


 >エスカイア・クロツウェルが登録されました。


「私もついでに」


 クロード社長もゴツイ指先で社員証を触れた。


 >クロードが登録されました。


 ああ、やべえよ。社長と直通のホットラインが登録されちまった。これ、ブロックできねえのかな。


「ちなみに着信をブロックしたい時は登録者一覧の所の×マークをタップしておいてもらえば、着信ブロックできますが、おすすめはしませんけど」


「まさか、柊君が私からの着信を拒否したいだなんて思うわけがないだろう」


 す、すいませんっ! 実はメチャメチャ着信拒否したかったです。けど、するとヤバイ場所に飛ばされる気がするんで着信拒否諦めました。速攻ゴマすりモード発動です。


「クロード社長と直通のお話ができるだなんてありがたい限りです。はい」


「HAHAHA、困ったことがあれば、すぐにかけてくれたまえ」


 恐れ多いというか、無理というか、恐怖というか……絶対にオレからはかけませんからね。


「これで、完全に業務前研修は終わります。後は帰還の方法だけど、この魔法陣で社員証出して『リターン』と呟くと」


 説明をしていたエスカイアさんが、魔法陣から発生した光の粒子に包まれて姿が消えていった。


「といった具合に日本へ帰れるわけだ。ちなみに、この世界の身分証ではこの魔法陣は使用できず、わが社の社員証を持つ者と同行者一名しか転移できないから忘れないようにね」


 ああ、なるほど。朝来た時は社員証の無かったオレは社長の同行者として転移したのか。


「ありがとうございます。では、今回は自分で帰ります。リターン」


 足元の魔法陣が白く発光すると、光に包まれエレベータに乗った時のようにフッと身体が軽くなった。


「おかえりなさい」


 出迎えてくれたのは先に帰っていたエスカイアさんだった。二度目だったんで最初みたいに気を失うことはなかった。


 おお、帰ってきた……。


 時刻はちょうど一七時を指していた。

 

 クロード社長も帰還してきたところで全員揃った。 


「よし、本日の業務はこれにて終了。お疲れさん」

「お疲れ様でした。明日もお願いします」


 その後、みんな一緒に会社を出てそれぞれの自宅へ向けて帰っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る