第8話 試験って緊張するわ 魔術適性試験編
昼食で腹が膨れたため、座学は嫌だなと思っていたが、連れてこられた試験場は体育館のような場所であった。
「さて、お腹も膨れたし、座って話を聞くのも飽きたと思うから、これからは実地で説明してくわね。でも、その前に魔術について説明するわね。まず、魔術は六系統の素養で構成されてるの。『攻撃魔術』、『防護魔術』、『召喚魔術』、『回復魔術』、『精霊魔術』、『隠蔽魔術』の六つね。攻撃魔術は文字通りダメージ与える魔術、防護はステータスアップやダメージ軽減、召喚は契約を交わした害獣を呼び出し使役する魔術、回復は体力や気力の回復や状態異常からの回復、精霊魔術は精神世界に住む六元素精霊の力を借りて攻守回復など色々な効果をもたらす魔術、最後の隠蔽魔術は身を隠したり、変化させたりする魔術となっています」
「へぇ、六系統もあるんだね。エスカイアさんは精霊魔術だったよね?」
「ええ、適性試験で他の素養は無いと判断されました。素養がある人が人口の半分くらいで、二系統以上だと更に半分になって、一つ増える度に半減していきます。全系統の素養を持つ方は現在一人しか確認されていませんね。あと、得意属性がありまして火・水・土・風・光・闇の六属性から得意な属性がスキルに付与されます。わたくしは風属性が得意なので、風の精霊魔術をかなり得意としてますね」
エスカイアさんはステータスで確かに『風属性』というのを取得していたと思われる。
魔術は『素養』と『得意属性』で大まかなところが決まるのか。オレも一つくらい使えるといいなぁ。確か、天木料理長は魔術系のスキル持ってないから素養が無かったんだよな。
「で、その素養を調べるのが『魔術適性試験』というわけですか?」
「そうね。試験は簡単よ。あそこの宝玉に触れるだけだもの。あとは勝手に判断してくれてステータス欄に記載されるから」
体育館っぽい試験場の片隅に派手な装飾が施された台座に据えられた大きな水晶球が置いてある。エスカイアさんはアレに触れれば試験結果が出ると言っていた。
「じゃあ、触ればいいんですね?」
「ええ、できればステータスオープンしておいてもらえるとありがたいわね。サポート職員として柊君の能力を把握したいし」
「あ、はい。オープンメニュー。ステータスオープン」
言われるがままにステータス画面を表示すると、宝玉に手を触れていった。触れるとパッと光が宝玉から溢れ出すと、ステータス表示していたディスプレイが切り替わる。
――――
柊翔魔……魔術適性試験機接続OK
試験プログラムスタート
系統試験開始
攻撃魔術……OK
防護魔術……OK
召喚魔術……OK
回復魔術……OK
精霊魔術……OK
隠蔽魔術……OK
系統試験終了 付与スキル 全系統魔術
属性試験開始
火属性……OK
水属性……OK
風属性……OK
土属性……OK
光属性……OK
闇属性……OK
属性試験終了 付与スキル 全属性
――――
色々な色の光がオレの身体を包み込んでいったが、それが終わる都度、試験結果がディスプレイに書き込まれていった。
「……あ、あれ? 壊れてるのかしら……おかしいわね。最近、採用者がいなくて使ってないから……壊れちゃったのかもね」
その後、二度ほど繰り返したが、結果は同じく『全系統魔術』、『全属性』と表示されていた。
「ああぁあ……柊君……君はなんて子なの……両方とも全部兼ね備えた人なんて初めてよ……ああ、本当に伝説クラスかも……フゥウ……」
「ああ! エスカイアさん、しっかりして!」
倒れそうになるエスカイアさんを抱き留める。オレとしても試験結果には驚くが、二十数年ふつうに日本で暮らしてきただけの男なので、凄い伝説クラスの勇者だと言われてもピンとこなかった。
「ああ、ごめんなさい……わたくしとしたことが二度も倒れるだなんて……柊君のすさまじい素質に身震いしちゃうわ……ああぁ、これでわたくしの宿願も……」
もたれかかっていた身体を起こしたエスカイアさんは、うっとりとした眼でオレを見ている。
ちょっと、そんな眼でオレを見られるとプレッシャーが半端ないっすけど……美人の先輩社員に期待されるってのは、結構なハードルの高さですよ。
初仕事でヘマして掌返しされて蔑まれると、精神的ダメージがでかいので、期待値上げはやめてくれ。
「ああ、オレなんてまだ何もしてない見習い社員ですから……エスカイアさんの方が凄いですよ」
「今はそうかもしれないけど、数ヵ月したら抜かれちゃうわ。それくらいの素質だもの。わたくしがビシバシと鍛えていきますからね」
できれば、長くお付き合いして鍛えてもらえるとありがたいなぁ……。そういうお願いってSランク社員になったらお願いできるのかな……。
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