第7話 社食が超絶美味すぎてやる気が漲る
大神殿の中を歩き、到着した先はホテルのビュッフェのような場所であった。すでに時刻は正午を越えており、食堂には三〇名ほどの人が食事を楽しんでいた。
「色々な方がいますね? 皆さん社員ですか?」
「え? ああ、あの人達はエルクラスト害獣駆除機構の職員さんですよ。我が社のお得意様です。各国から派遣されてる貴族の方達ですよ。だから、ご挨拶だけは欠かさないでください」
エスカイアさんの後について、食事をしていた職員さん達にご挨拶周りしていく。エルフの男性、有翼人の女性、ドワーフの女性、ダークエルフの男性など多種多様な職員さんとご挨拶を交わさせてもらい、終えると例の日本人の料理長を紹介してもらうことになった。
「おぅ、エスカイアか。今日は……新人のお守りか?」
コック服を着た三〇代後半の精悍な表情をした男がこちらを見ていた。
この方が例の移住しちゃった人かぁ。職人っぽい人だな。けど、さっきから視線の端に出る☆マークは何だろうか……。
気になったマークに意識を向けたら、唐突にステータスが目の前に公開された。
――――
天木 志朗(あまき しろう) 年齢38歳 人間 男性 国籍:日本
社員ランク:S
勇者素質:S
LV98
HP:35682
MP:24998
攻撃:18997
防御:16778
素早さ:19862
魔力:12345
魔防:12560
スキル:料理++ 料理知識++ 味覚++ 神剣++ 剣術++ ローブ++ 抜刀術++ 魔物鑑定++ みかわし++ 解体術++ 切れ味++ 遠距離防御++ 経験値効率++
――――
この料理長のおっさん只者じゃねえ……Sランク社員だった。うへぇ、超レベル高けえ……。
「よろしくお願いします。天木料理長。新人の柊翔魔です。今日から業務前研修に入りましたので、以後お見知りおきを」
「あれ、わたくしがお名前……はっ!? まさか人物鑑定しました?」
「え? ああ、☆マークが気になったんで……」
「ほー、面白いスキル持ってるなー。坊主。人様のステータスを覗き見るとは……いっぺん死ぬか? 人物鑑定されると、俺からはステータス見られているのが分からねえから、人によったらトラブルになる。鑑定をするなら黙ってやれ!」
持っていた肉切り包丁をオレに突き付けて睨む料理長の額には、青筋が走っているのが見て取れた。
やばぁい、眼がイってる。この会社の男子は怖い人しかいない……。ヤの付く企業ではないのは理解したが、バイオレンス臭のする社員が多くいることは理解できたぞ。
「死にたくないです。すみません、すみません。ご忠告承りました以後気を付けます!」
オレが人物鑑定してステータスを見ていることは相手には分からない様子だった。なんにせよ鑑定は黙ってやった方が無難だな。やり方は分かったし。
「まぁ、いい。初めてじゃあ仕方ねえな。柊だったな? 久しぶりの新卒が入社すると聞いてたが、お前みたいなボサッとした坊主で務まるのかね……ここの業務は気合入れねえとやっていけねえからな」
「天木料理長、あんまり苛めてあげないでくださいね。わたくしの久しぶりの教育担当なんですから。それに志朗さんも食材を取りに行くと言って勝手に魔境に入るじゃないですか。アレも機構から嫌味を言われるんですよ。まぁ、その分社食が美味しくなるからみんな口を噤んでいますけど」
「エスカイア、俺はそういう条件で派遣勇者兼任の料理長を受けたはずだが? 違うのか?」
「違わないです……」
あ、あのエスカイアさんがやり込められている……。このおっさん意外とやるな……。それに派遣勇者も兼職してるのか。あの強さなら頼まれるよね。
「まぁ、それは置いとくとして。エスカイアは柊が心を病まないように気を付けてやれ。それこそ俺の教育担当だったアッシェのように手取り足取り、ベッドの中までってな」
天木料理長の言葉を聞いたエスカイアさんは、ブワっと顔を真っ赤にしてアワアワしていた。
「なななな、なんてことを言うんですか! そりゃあ、アッシェ先輩は超肉食系のダークエルフですし、志朗さんを積極指導してましたけど……それにしたって……草食系エルフなわたくしが……そのような……。というか! わが社は社内恋愛禁止ですから!」
き、気になる……ベッドの中のご指導って……教育担当はそっちの教育までしてくれるのだろうか……。
アワアワしているエスカイアさんの容姿をあらためてじっくりと観察する。
金髪ポニテ、くっきり二重の翡翠色の眼、肌理の細かい色白な肌、おっぱいはそこまで大きくないけど、スレンダーな体型の割に出っ張ってる。
……カワイイというのは失礼だな。綺麗すぎる……。
でも表情がコロコロと変わって見てて飽きないなぁ。こんな子が彼女だったらどんなにか人生が楽しくなるだろうか……。
「アッシェも言ってたぞ。『いい男は早めにツバを付けとかないと、誰かに掻っ攫われる』ってな」
「ひえぇ! 無理ですから。もう、その話は無し。それ以上言うなら、社長に志朗さんからセクハラされたって言いますよ」
「おっと、それは困る。査定で社員ランク落とされるとアッシェに叱られるからな。よし、やめた。お前等も早いところ飯食わねえと休憩時間終わっちまうぞ」
天木料理長の言葉で時計に目をやると、すでに一二時半を回っていることに気が付いた。このままだと、飯を喰いそびれてしまう。
「ああ! 柊君。早いところご飯選んで食べよう。日替わりメニューのビュッフェ形式だから、好きなのとって食べていいわ。煮込みカレーと和風唐揚げ、あと石窯ピザだけは食べてみてね。めちゃくちゃ美味いから」
そう言ったエスカイアさんはお盆を手に取ると、数十種のメニューから嬉々とした顔で選んでいた。オレもお盆を手に取ると勧められた三種に加え、野菜サラダ、スイーツにシュークリームを取ると、エスカイアさんの指定席だという窓際の席に移動した。
おお、絶景かな、絶景かな……これがエルクラフト大陸ってとこかぁ。
自然に溢れた風光明媚なところだ。日本じゃないよな、絶対。東京近郊にこんな広い大地はねえもん。
異世界……というやつだな……ゲームやラノベの世界かと思ってたけど東京から行けるだなんて……。
「素敵な景色でしょ? この大神殿は元鉱山の廃坑を利用して建てられているの。食堂は展望室も兼ねてるから、最上階に作られているわ。日本じゃ見られない景色でしょ?」
「ええ、マジでここは異世界なんですね。半信半疑で聞いてましたけど、これ見て一応納得しました。ところで、帰れますよね? こっちに来たら、帰れないじゃあ困るんですけど」
「ええ、帰れるわよ。とりあえず、社員証があれば帰還の魔法陣が使えるしね。ただ、こっちにいる間は、スマホは圏外だから気を付けてね。午後からこっちでの通話手段を教えるわね。さぁ、冷めないうちに頂きましょう」
「あ、はい。お願いします」
勧められた煮込みカレーをスプーンですくう。溶けるまで煮込まれた野菜の旨味と極限まで柔らかい牛すじとスープと旨味が癖になるルーに溶け込んでいて、次の一口を呼び込んでしまう。
うめえ……美味すぎる……カレーが飲み物だなんて与太話だと思っていたけど……このカレーならオレは飲める。これがタダで食べ放題だと……なんという恐ろしい会社……。
和風の唐揚げも一つ摘まむ。サクサクとした衣と弾力のある鶏肉から出た脂が、醤油ベースの出汁にショウガ、ニンニクを加えたつけ汁を絡めて飛び出してくる。一気に口の中が和風な味で占拠されていった。
止まらねえ……この唐揚げなら山盛り一皿でもペロリと喰える気がするぞ。あのおっさんすげえな……。
石窯ピザも一切れ取ると口に入れる。クリスピータイプの生地はサクっとしており、オリーブオイルやバジル、トマトの具材とチーズが合わさって、次の一切れを手に持ってしまう。
三種類とも激ウマかよ。親と行った高級ホテルのビュッフェもここまで美味いとは感じなかったぞ。ああ、やばい中毒になりそう……。
オレが天木料理長のご飯に蕩けさせられている間、エスカイアさんも同じように幸せそうな顔で頬に片手を当てて食事を楽しんでいる。
「はぁ、美味しいよね……この会社の何がいいって、このご飯が食べられることよね。八年前に志朗さんが転職してくる前はマズい仕出し弁当だったし……やっぱ、ご飯美味しいと仕事も捗るわよ」
「おっしゃるとおり……美味い物が喰えると分かれば、オレ頑張れそうです」
サラダもシュークリームも絶品であった。いささか、欲張りすぎて食べたため、腹がパンパンになっていた。
だが、いつもみたく空腹を満たすための食事ではなく、空腹と脳を満たすとても幸せな食事時間であった。
「ごちそうさまでした。ああ、美味かった」
「でしょ。日替わりだから、まだまだ美味しい物もあるし、新作も結構並ぶの。期待してね」
「期待します。マジか……」
食べ終えたところで休憩時間も終りかけていたので、お盆を厨房に返すと、天木料理長にお礼を言って、午後の研修予定である『魔術適正試験』、『武器適性試験』を行う試験場へ連れていかれた。
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