第6話 やばいスキルが混入していた
「続いてHP(ヒットポイント)これは本人の生命力残量を表示してます。ゼロになったら気絶に陥り回復措置を取らないと死にます」
死ぬ!? マジでそりゃあそうか、ゲームじゃないし!
「なお、日本人勇者の方はエルクラスト大陸在住時には気絶のみで死亡することはないと確認されてますが、死亡前の半日の記憶が吹っ飛ぶことが確認されていますので、あまり死なないことをお勧めします」
はぁ!? 死なないの? えっとゲームみたいにリスポーンするってことか?
でも、記憶を失うのは怖いな……。
「過去の最大復活数記録は一人で八回ですね。一部記憶障害が発生したとの事例もありますし、日本に帰られた際は基本的に死にますから、勘違いして日本国でTUEEをしないようにしてください。二十年間で一名だけ、日本国でTUEEと勘違いして死亡された方がいます」
記憶障害……復活しまくると頭がぶっ壊れる可能性があるのか。
それに、こっちの大陸だとTUEEけど、日本国ではTUEEわけじゃないんだな……。勘違いしちゃった奴がいたんだろう。
「MP(マジックパワー)こちらは後でお話しする魔術に関連するもので、精神や気力といったものです。魔術やスキルを発動させる際に消費します。無くなるとこちらは昏倒しますが、時間経過で回復しますのでご安心を」
うへぇ、マジかぁ、オレ何だかしくじりそうだよ。
「残りは攻撃力は物理的なダメージ力、防御力は物理的ダメージへの耐久力、素早さは行動速度、魔力は魔術的なダメージ力、魔術防御は魔術的ダメージへの耐久力。まぁ、このあたりはゲームと同じような仕様です。数字が高いほど強いことになっています。とりあえず、私のステータスを確認してみて」
自分のディスプレイをエスカイアさんが指先で触ると、裏返って読み取りやすくなる。
――――
エスカイア・クロツウェル 年齢123歳 エルフ 女性 国籍:エルクラスト(聖エルフ共和連邦国)
社員ランク:A
勇者素質:B
LV32
HP:568
MP:2046
攻撃:146
防御:228
素早さ:467
魔力:692
魔防:701
スキル:精霊魔術++ MP増加+ 風属性+ 交渉 教育+ 情報収集 索敵 軽装鎧 弓術++ 読解++
――――
やっぱり、ベテラン社員なだけあってエスカイアさん……え!? 年齢123歳? オレより超年上かよ!? やっぱエルフは年齢チートな種族なんだな。それに社員ランクAってことは結構な高給取りか。
「エスカイアさんは強いんですね。仕事もできるし、尊敬します」
「いえ、わたくしは百年以上の自己研鑽の賜物です。けど、柊君はきっとすぐに強くなるわよ。なにせ世界初の『SSS』勇者ですから」
エスカイアさんは何だかウキウキした様子でこちらを見ているが、『SSS』勇者が凄いのかどうかがよく分からないので、曖昧な愛想笑いに終始してしまう。
とりあえず、期待されているようだけど、たいしたことないのになぁ。
「さて、最後はスキルだけど、これは内容を知りたければ、ディスプレイのスキル名をクリックすれば説明書きが出るようになってます。柊君の三つのスキルは初出のスキルなんで新スキル発見報告書を書きたいので、今から確認してもらえるかしら?」
「あ、はい」
促されるまま、自分のディスプレイに映されているスキルを指先でクリックする。
『スキル創造……MPと既存スキルを使用して新たな統合スキルを作り出すことができる』、『スキル模倣……他者の持つスキルをMP消費することでコピーして取得できる能力』、『神の眼……真贋、人物、宝物、毒物、魔物の鑑定を行う能力』とポップアップされて表示された。
むぅ、凄いのか凄くないのかよく分からん。頭の作りはそんなに上等でないからなぁ。
オレがスキル説明文と格闘していると、ポップアップを覗き込んできたエスカイアさんが持つボールペンがカランと音を立てて地面に落ちていた。
「……はぁああああぁ!? なにこのぶっ壊れスキルは!? 事件よ。事件!! こんなスキルが存在するだなんて……しかも世界初の勇者素質『SSS』の子がこんなスキルを持ってるだなんて……ああぁ、気が遠く……」
オレのスキルを見たエスカイアさんがフラっとしたので、思わず席を立って彼女を抱き留める。ふわりと香水の匂いが鼻孔に飛び込こんだ。
「だ、大丈夫ですか? まさか、オレのスキルってダメダメスキルですか? 首ってことないですよね? エスカイアさん!? ちょっと、起きてください」
「ああぁ、ごめんなさい。わたくしは見てはならないものを見てしまったようですね。統合スキルを生み出すスキルと、他人のスキルをコピーできるスキル、そしてすべてを鑑定できるスキル持ちだなんて……」
若干蒼ざめた顔色のエスカイアをパイプ椅子に座らせる。
「なんかオレ、マズい感じですか? エスカイアさんが気絶するくらい社員として使えない奴ですかね?」
「え? いいえ。むしろ、逆よ。たぶん、わが社始まって以来の大人材よ。わたくし、柊君の教育係になれて嬉しいわ。歴史に名を残す勇者のサポート職員だなんて……ああぁ、夢のようね」
何だか、違う世界にイってしまっているようなエスカイアさんをジト目で見る。オレの視線を受けてハッと我に返った彼女は研修室の時計を見た。
「ああぁ、ごめんね。何だか、研修に夢中になり過ぎてもうお昼だわ。とりあえず、座学はこんなものね。基本的なことは教えたから、分からないことは随時わたくしに聞いてね。さて、これから食堂でご飯食べて、午後からは『魔術適正試験』、『武器適性試験』を行ってもらうわよ。質問がなければ、ご飯食べに行くわよ」
「あっ、はい。ぼんやりと業務内容と勇者について理解できたと思います」
「そう? 色々とウチは普通の企業と違うからね。あっ、こっちにいる際の食費は会社負担になってるから、お昼は好きな物食べていいわよ。こっちでも二〇年で日本食は普及してね。みんなが食べるようになったの。今やパンを駆逐してご飯が主食になりつつあるわ。あ、そうそう。ここの食堂の料理長は元高級ホテルの総料理長だった人よ。こっちに誘ったら、食材の新鮮さに魅了されたようで移住しちゃった人よ。結婚もこっちの子としちゃたし。その彼が、柊君の言ってた行方不明案件の人なの」
ご飯の話になったら、俄然エスカイアさんが幼くなったように感じた。きっと、ご飯を美味しく食べる人なんだろう。
それに行方不明の人が移住していただなんてなぁ……。こっちってそんなにいい所なのかな……。
「さぁ、食堂にいこうか。わたくし、今日は何を食べようかしら……」
キリっとしたかと思えば、コミカルな動きをしたり、ビックリして気を失っちゃったり、ご飯を思い浮かべてニンマリするエスカイアさんは見ていて飽きなかった。
「エスカイアさんのおススメあったら、教えてくださいね。期待してます」
「え!? アレとアレは外せないし、いやー待ってよ……ああぁ、柊君に何を勧めようかしら」
オレ達は研修室を出るとエスカイアさんの先導で食堂に向った。
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