第5話 就業前研修って大事だよね
研修室はそれまでの神殿風の建物とはガラっと変わって、普通の白色を基調とした一〇名ほどが入れる部屋でカーペット敷き、ホワイトボード、パイプ椅子、二人掛けのテーブルが常設されていた。
企業の会議室まんまだな……。さっきまでとは全然違う。というかここはどこだろうか?
「柊君、一番前に座ってね。本年度の研修は君一人だから」
促されて一番前の席に腰を下ろす。
「さて、じゃあ業務前研修を始めさせてもらうわね。講師はわたくしエスカイア・クロツウェルが務めさせてもらいます」
エスカイアさんは小脇に抱えていたテキストをオレに手渡してきた。表紙には『業務内容研修テキスト』と書かれて、剣と盾のイラストが描かれている冊子だった。
「テキスト一ページ目。わが社の主業務である『派遣勇者業』の説明をさせてもらいます。まず、この『派遣勇者業』とは、エルクラスト大陸における国家機関、自治体、商会様よりの派遣依頼を受けて、依頼主様の困りごとを我が社社員が解決し褒賞を得ることを主たる業務しております。主な依頼内容は害獣駆除、要人護衛、古代遺跡探索等となっていますね。ここまではよろしいですか?」
え!? ちょっと待って……官公庁、自治体って日本のじゃないの。え!? え!? エルクラスト大陸ってどこよ?
「特に質問が無いようなので、次テキスト二ページ目。『派遣勇者』制度についてです。こちらは日本国とエルクラスト大陸各国が批准した『日エ友好条約』に基づき、勇者適正平均値が高い日本人を我が社が雇用し、エルクラスト大陸全土に蔓延る害獣退治・要人護衛・古代遺跡の探索を請け負うことで、この地と日本との交易を円滑に行えるようにしております」
ちょ!? 待って! 勇者ってなんですか? 意味がわかんないっす!
「続いてテキスト三ページ目、『勇者』についての説明です。エルクラスト大陸では、すべての人に『勇者適性』と『スキル』が付与されるようになっております。まず、『勇者適性』についてですが『F~SSS』まで適正値分けされており、ランクが高いほど、LV上限と成長値が高いことが判明されています。現在、エルクラスト大陸生まれの方は最高Aランクの方が確認され、平均ランクはDランクですね。種族によっても若干違いますがおおむね平均はそれくらいです。それに対して日本人の方は平均Bランクと高い方が多く、本日めでたく最高ランクと思われる『SSS』ランクが誕生することになりました」
ん? 確かあのディスプレイには勇者適性『SSS』と書いてあったような……?
「続いて『スキル』ですが、これは何百種類も確認されており、色々な効果を持ったスキルがありますので、詳しい説明はステータス確認の仕方の項で教えます。ここでは割愛していくことにしますね」
まぁ、ゲームのスキルと同じようなことか……。というか、ここはゲーム世界?
「五ページ目、主たる依頼内容『害獣討伐』について、エルクラスト大陸では『害獣』と呼ばれる生物がたくさん生息しており、普段は魔境と呼ばれる特別生息区域に住んでおりますが、人里に出てきた場合、その強さと影響範囲に応じて『F~SSS』までランク分けされて、わが社に駆除依頼が出され、ランクが高いほどその褒賞金が高く設定されます」
ということはこの会社は勇者として社員を派遣して、魔物を倒して金を稼いでいるということか?
「六ページ目、『ステータスの確認の仕方』です。先ほど発行された社員証ですが、エルクラスト大陸共通の身分証でもあります。基本的に体内に収納されているため、取り出す際は『オープンメニュー』と言ってもらえば、体内から排出されます。一度試してみてね」
エスカイアさんが自分の手の甲の上に先程の社員証を浮かび上がらせていた。
ポケットにしまった社員証を探したが無くなっていた。そのため、半信半疑であったが取り出してみることにした。
「オープンメニュー」
手の甲の上に先程の社員証が現れていた。流石にここまでくると、オレは何か違う世界に訪れている気がしてならなくなった。やばい、オレとんでもない会社に就職を決めてしまったかもしれん。
「はい、上手にできましたね。身分の提示を求められた場合はそのようにして社員証を見せていただければ、犯罪者、盗賊、暗殺者等の敵対勢力以外の方は協力的になってくれます。続いて、ステータスについてです。『オープンメニュー』された状態で『ステータスオープン』と言って頂けますか?」
エスカイアさんの社員証から先程の透過型ディスプレイが飛び出し数字の羅列が表示されている。
「ステータスオープン」
エスカイアさんと同じようにディスプレイが展開されていた。おおぉ、カッコイイかもしれないな……。
「柊君、呑み込みが早いわね。じゃあ、氏名、年齢、性別は省きますよ。まず、種族ですね。日本人の方は人間、エルクラスト生まれの人は『人間』、『エルフ』、『ハーフエルフ』、『ダークエルフ』、『獣人』、『小人』、『ドワーフ』、『竜人』、『有翼人』に分類されます。それぞれ色々な特徴がありますが、ここでは割愛します」
エルフやダークエルフいるのかぁ……エスカイアさんってエルフなのかな? おおぉ、投影されているディスプレイ見たらエルフだった。
いやマジで、現代日本でエルフに会えるだなんて、マジかぁ……それに獣人ってことはケモノ娘とかもいるのかよ。
なんという天国……。というか、本当にここは日本じゃないんだな……。
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