第22話-いざゆかん、決戦の地-

武士たちを下して、四人は再び境内へと戻った。

多少の傷を負いながらも無事に帰ってきた四人を見てこぶ鬼と子供たちは大層喜んだ。

こぶ鬼に至っては涙と鼻水でベショベショに桜鬼の着物を濡らした。たった1日、2日の出会いの割に大袈裟な反応なのは、恐らく彼自身義理や友情と言ったものに厚いのだろう。

泣き終わるとこぶ鬼は、預かっていた馬頭首を桜鬼に差し出した。

「あ、そういえば揃ったんだっけ!」

「あぁ、いよいよ本懐達成だな、桜鬼さん。」

「結構苦労したけど、ようやく揃ったなぁ……」

先の戦闘もあり、安堵したからか疲れがどっと滲み出た。その傍でフォウルが持ってきたことを知らないゼツが不思議そうに口を開く。

「というかいつの間に揃ったんだ?こぶ鬼が持ってきたのは分かるし、藤の山から桜鬼が持ってきたのがひとつ。あと一つはどこから……」

「一つは私が確保した。二人が地下に行っている間に、ロームが闇の中に隠しておいたのを少し拝借した。」

「え、フォウルあそこに乗り込んだの!?よく無事で帰ってきたな……」

桜鬼が驚いて声を上げた。ゼツもやるじゃん、と言いたげにフォウルを見た。

「お前胆力あんのな、意外と。ちっと見直したわ。」

「悪魔に認められるとは、なんとも複雑な気分だな。」

ニヤリと笑ってフォウルが返す。皮肉っぽい言い回しだが、賞賛に対しての礼も感じられる口調だ。

「さ、いつまでも突っ立ってる訳にも行かないし、一旦社の中で作戦会議しましょ。」

藤が先頭に立って歩き出して続ける。

「どうやって甦らせるか、その方法も考えなきゃ。」





「さて、繰り返しになるがいよいよコイツが揃ったわけだ…が。」

首を並び終えてゼツが座る。ナンバーと戦闘で荒れた社の中に藤、フォウル、こぶ鬼、ゼツ、そして桜鬼が座っている。子供たちは後方離れた場所で戯れ、藤の妹の鈴があやしている。

円を作って座る一同の前には、ついに揃った馬頭首が鎮座している。

「これを起こさなきゃならないわけなんだが……誰も方法は知らないのか?」

桜鬼の問いに全員が俯き、困った顔をした。

「なにか特殊な並べ方とかあるんじゃない?」

藤が首のひとつをつまみ上げて眺めながら述べた。

「それか何か魔法陣のような術式が要るのではないか?」

藤が投げて寄こした首を受け取ってフォウルも推論を述べた。

「その辺はゼツ殿の方が詳しい気もするが。」

「術式つっても何百、何千、供え物によっては何万にもなるぞ。ちょっとの食い違いで別モンが出てくることもあるから手当り次第っつーわけには出来ねーのよ。」

今度はフォウルが投げた首をゼツが受け取って、更に桜鬼へとパスする。

「せっかく揃ったのに、ここで手詰まりなのか?」

さっきまでの雰囲気が嘘のように意気消沈した空気が流れた。

後ろでキャッキャと遊んでいた子供たちも察したのか遊びの手を止めてじっと背を見てくる。

その時だった。社の窓がかすかに震える音がした。最初に気がついたのは藤だ。

「なにか音がする…」

「……確かに、窓震えてんな……何か来るぞ!!」

ゼツが叫び終わると同時に天井を突破って何かが落ちてきた。全員は後方にもんどり打って倒れ、藤だけは後方の子供たちを庇うように体制を立て直した。

もうもうと立ち込めるホコリの中から声がする。

「ブルル、強い力に引っ張られて来てみれば…」

「まさか本当に我々の首を揃える者が出てくるとは。」

「しかしながら天国から随分と遠いものだな、兄者。」

「違うぞ、私は大兄者だ、弟者。」

「おお、これは失敬。」

一同は唖然として目の前に現れた三つの巨体を眺めた。

背丈は2mをゆうに超え、耳は天井についてしまっている。馬の顔に人間の体、そして顔から露出した肌の部分全てが栗毛に覆われている。黒光りする鎧の材質は不明だが、磨かれた黒曜石のように輝いている。

──どうやら成功したらしい──

一同は眼前の巨体を見て確信を得た。

暫く眺めた後、復活した馬頭首三人衆へ目を輝かせて桜鬼がズイッと近寄った。

「おおお!めっちゃデケェ!カッコイイじゃん!!」

藤も後に続く。

「黒光りの鎧!いいな、私も欲しい!」

「天井が…補修箇所が増えた……」

「一体、どうやって…?いやそれよりも、何がきっかけで……?」

興奮する桜鬼と藤、一方で現実主義なつぶやきのゼツとフォウル。やいやいと賑わいたつ四人(+子供たち)をポカンと眺めて馬頭首達が会話する。

「…ここは現世か?」

「いや、恐らく空世だろう。空気の感覚が違うぞ、兄者。」

「ううむ、やはり現世に我々の首は行けなかったとみえるな、兄者達。」

三匹…いや、二足歩行のため三人が正しいだろうか、三人がそれぞれ話し出す。いよいよ全員が落ち着く……訳もなく、ゼツやフォウルも興味の方向を三匹に変えると、皆は矢継ぎ早に質問をあびせた。


以下、抜粋。

誰がどの質問がは口調にて推察するべし。


Q:その鎧何で出来てるの?触らせてくれねぇか!?

A:我々も知らん。幾らでも触っていいぞ。指紋は拭き取ってくれ。


Q:あなた達普段何食べてるの?人参食べる?あと鎧くれ。

A:人参は食べるが骨や唐辛子といったものの方が好きだ。元々地獄の住人ゆえな。鎧は支給品で換えがないからやれぬ、すまない。


Q:あんたがたってどれが長男で誰が一番下の弟だか?

A:後に答えよう。


Q:なんでおうまさんってたてるのー?

A:努力の賜物だ。


Q:どうやって復活したん?

A:仏様の慈悲により、集まったその場で復活できるように約束して貰った。願いを叶える力も同様だ。


Q:同じ外見に見えるが、外で言うテレ…パシー?みたいな、喋らずとも会話すると言った不思議な力があるのか?

A:同一個体では無いが、我々は魂の奥底に強い絆があるから可能だ。


Q:(上の質問に対し)そうなのか兄者?

A:すまぬ、嘘だ。


Q:おうまさんおっきぃー!

A:ありがとう。


Q:繁殖どうやってんの?

A:気がついたら増える。と言っても我々は数年増えたことは無いが。


エトセトラ、エトセトラ。

珍しい生き物にやいやいと順番もなく質問攻めするが、落ち着き払った様子で三匹は全ての質問に答えた。

ようやく場が落ち着いて一段落した。

「いやー、盛り上がっちったけどさ……」

ふうと息をついて桜鬼が口を開いた。

「見た目こそ変わってるけど、俺たちも結構特殊だったよな。なんでこんな盛り上がったの?」

「言うなって、それ。聞くな、俺たちに。」

悪魔のゼツ、炎を操る(一応)人間の藤、風を操れる(恐らく普通の)人間の騎士のフォウル、そして鬼の桜鬼。

確かに見た目が人間やそれに近いというだけで、馬頭首たちに負けず劣らず彼らも特殊だ。特段珍しいことはない。

…見た目も違うこぶ鬼は少ししょげたが。

「そうだろう。見た目が違う以外に、お主らと我々に違いは無い。」

「何せここは空世だからな。」

「どんな生き物がいても不思議では無い。」

馬頭首がうんうんと頷く。

ゼツが先の質問から気になっていたことを尋ねた。

「で、後で答えるつってたけど、誰が長男なん?パッと見、全員同じ毛の色だし誰をどう呼んで見たらいいのか分かんねーんだけど。」

ゼツの問いかけに馬頭首の一体が自分とは別の一体を指さす。

「こっちが兄者」

「私が弟者」

「そして私が大兄者だ。」

三人がそれぞれ指さす。間を置いて、ちょっと首を捻ってゼツが問いかけた。

「うん、わからん。それに大兄者…ってやつからしたら二人とも弟者じゃん?どっちのこと言ってるのか分かるか?首向けずに言って伝わる?」

ゼツの問いに自信満々に大兄者が頷く。

「分かるぞ。なぁ弟者。」

首を向けずに問いかける大兄者。

「あぁ。私のことだろう、大兄者。」

「いや、もう一つ隣だ。」

「私のことか、大兄者。」

「うむ。」




沈黙。




「いやわかってねーじゃねーか!そんなんじゃ俺らもわかんねーし、今後何かあったら会話について行けねーぞ!?」

最もな指摘を桜鬼が叫んだ。他の者もうんうんと頷く。

その指摘に3匹は同時に首をポリポリとかいて困った様子を示した。

「ううむ、今の醜態を見られては返す言葉もない。我々三人全員栗毛。すぐに見分けるのは難しいか…」

「すぐに、っつーか今後も見分けられる自信ねーわ。せめて次男坊とか三男坊って呼び方は…」

桜鬼の提案に真ん中の兄者が首を振る。

「我々は長年これで呼びあってるゆえ、今更変えるのも……」

「だぁーも、めんどくせーなお前ら!ちっとぁ融通効かそうとは思わねーのか!」

ゼツが痺れを切らした。

その時、藤が弟者と呼ばれている1人を指さした。

「ねぇ、よーっく見ないとわかんないんだけど、弟者…あ、真ん中のほうね。あなたの頭についてる筋、これ目印にならないかな?」

「筋?」

全員が寄って目をこらすと、確かに薄く横に一筋、額の部分の肉がくぼんでいる箇所がある。

「あ……」

フォウルは思い出した。ロームの元から馬頭首を奪う際に、剣を振るった勢いでついた傷。恐らくあの傷のせいで少し肉が窪んだのだろう。

申し訳なさにサッと目をそらすが、幸い誰も気づいていない。

「おお本当だ。いつの間についたんだ弟者?」

「いや、私も心当たりがない。恐らく骨になっている間についてしまったのかもしれん。雑に保管されるのは誠に遺憾だ。これでも我々は繊細なのだ。」

ブルル、と首をふるわせて中央の馬頭首が顔を振るう。藤がもう少し近寄る。

「あんた何番目だっけ?」

「並び順通り二番目だ。」

「そ。」

そう言って藤が頷いたと思いきや、腕をいきなり振って、真ん中の馬頭首の額の筋を焼いた。

「ちょちょちょ、何してんの!?正気!?」

慌てて藤を制止するがそれ以上なにかする気は無いようで、スンとすました顔で桜鬼を見た。

「いや、目印に丁度いいでしょ。あれだけ薄かったらわかんないし。」

「だからっていきなり焼くのはダメでしょ!!子供たちも見てるよ!」

しまったと言う顔で藤が子供たちを見る。

だが心配とは裏腹に、荒山での暮らしでこんな事(こんな事?)には慣れているのか、妹共々何かあったのかと言わんばかりにキョトンとしている。

一方の馬頭首三人衆は部屋の隅で突然の蛮行にガタガタと震えて固まっていた。質問攻めには動じなかったが、流石に命の危機を感じたのかすっかり怯えてしまっている。

「な、なんだ!?私たちの知らぬうちに、外はこんなに野蛮な人間が増えたのか?」

「うむ!恩を返す前で申し訳ないが、もう帰りたくなってきた!」

「私の綺麗な栗毛が…地獄でも自慢だった栗毛が……」

焼かれた馬頭首は二人の兄弟に守られるようにブルブルと震えている。

ゼツは深々とため息をついた。

「……ホントに頼りになンのかコイツら……」







しばしの後。

模索の末、見分け方についてはそれぞれの鎧の肩に大きく一、二、三と兄から順に番号をふることで落ち着いた。

結局、焼かれ損となった次男は自慢の栗毛が無意味に焼かれたことに最後まで不満だったが、藤が育てた人参を今度持ってくるから、という事で落ち着いた。(唐辛子の方が好きなのだが、とゴネはしたが。)

「よし!じゃあいよいよ本題だ。お前たち、集めた人の願いを叶えてくれるって本当か?」

桜鬼が切り出す。長男が頷いた。

「間違いない。金銀財宝、地位や名誉まで欲しいものを与えよう。」

「それが命を与えてくれたことへの返礼だ。なんでも遠慮なく言ってみるがいい。」

次男も続いて快諾する。

「それなら…」

桜鬼はこれまでの経緯も交えて、改めて馬頭首たちにロームの宮殿までの道のりを開いて欲しいと頼んだ。

願いまで全て聞き終えると、三人は快く頷いて返答した。

「うむ、そんなことならばお易い御用だ。実際に行ってみて確かめるみるとしよう。」

「ホントか、ありがてぇ!よし、早速行こう!皆もいいよな?」

桜鬼の気合いと裏腹に、腹からは虫が空腹に鳴いた。

「あ、そういえば今日何も食べてない……」

当たり前だ、とゼツが告げた。

「それにお前はアレだけの力も使ったし連戦だからな。その体じゃ無理だろ。」

ゼツが当然と言わんばかりに視線と言葉を向ける。

フォウルもゼツに並んで桜鬼に言葉を向けた。

「桜鬼殿、はやる気持ちはわかるがこちらも先の武士達の戦いで疲れている。猶予はないかもしれないが、とりあえずのところ今日は休んではどうだろうか。」

「でも……」

「腹が減っては戦は出来ぬ、よ。鈴と一緒にご飯作るから、そこで待ってて。」

返事も聞かずに藤は社の中へ消えた。

「俺は別に食わなくても持つからな。休みと哨戒も兼ねてちっとその辺歩いてくるわ。」

「ちょ、ちょっと皆……」

それでも行こうとする桜鬼をまぁまぁとフォウルが制した。

「ゼツ殿のアドバイスを受け入れるのだ、桜鬼殿。ほら、助力ながらこういったものでも…」

フォウルがフッ、と手を静かに振ると桜鬼の体がふわりと宙に浮いた。まるで風のハンモックのように体が宙に横たえられる。

「桜鬼殿の重さなら落ちることもない。ご飯時には起こしに来る、それまでゆっくりしているが良い。」

「フォウ、ル……」

これまでの疲れが溢れ、瞼が落ちる。礼を言える事無く、意識は睡魔の底へ落ちていった。

「ふむ、新しい主は随分お疲れのようだな。せっかく出たばかりでなんではあるが、席を外した方が良いだろうか?」

「あぁ、申し訳ない馬頭首方。せっかくならゼツ殿と周囲の警戒を頼めるか?」

「うむ、我々は戦闘も得意だぞ。任されよう。」

「それはそれとしてご飯は食べたい、後で呼んでくれ。」

「唐辛子も頼む。」

馬頭首たちは身を翻して石段正面、右方向、左方向へと消えていく。

「桜鬼ー、調味料は…」

続いて社から出てきた藤にシー、とフォウルがジェスチャーする。ひそひそとフォウルが藤と会話する。

「そっとしておいてあげよう、よく寝ている。精神的にも肉体的にも限界だったのだろう。」

「そうね、わたしと別れたあとも大変だったんでしょう?」

「それはもう、な。その辺りは話の肴にでもしようか。」

二人は静かに寝息を立て始めた桜鬼をじっ、と見た。

「あとどれ位持つの?」

「私にも見当がつかん。正直ロームとの力の差は大きいだろう、むしろここまで桜鬼殿の世界が安定しているのが奇跡だと言っていいかもしれない。」

「明日にでも崩壊する……?」

いや、とフォウルは首を振った。

「神の力が宿った今、力の均衡がどうなったのか私にも分からない。だがそのおかげですぐに崩壊する、ということはあるまいよ。それは安心して良い。」

そう言って藤を見た。

「やはり藤殿も桜鬼殿が心配なのだな。」

「あの時も言ったけど、久しぶりの友達だから。……誰かのために動くっていうのも、悪い気分じゃない。それは知ってるからね。彼には恩が出来たから。本当に大きな……」

そう言うと後ろを向いて社へ入っていった。他人への気持ちの吐露は慣れていないのか、照れで耳まで赤くなっている。

「さ、早くご飯にするよ。あなたも手伝って。」

「承知した。」

少し笑ってフォウルも藤の後を追った。


桜鬼は1人、境内でフォウルの風に浮いたまま、雲の切れ間の夕日がその顔を照らした。


夜にはゼツが桜鬼を社の布団へと運んで行った。






翌朝。

昨晩食べ損なった分も含めて桜鬼は用意されていたご飯を朝食代わりに平らげた。

皆もそれぞれ朝食をとり、外に並んだ。

相変わらず曇っているが、それでも僅かな陽の光を浴びて伸びをする桜鬼。

「ふわぁぁぁ……よく寝た。」

「久しぶりの俺らの家だからな、よく寝たわ……」

今まで殆どを木の上で寝て過ごしたゼツもつられて欠伸をする。

「よっし、休みは十分!早速行こうぜ!」

軽く腕を回して馬頭首に向き直る桜鬼。しかし馬頭首は静かに笑って桜鬼を制した。

「早まるな鬼の子よ、我々にも準備があるのだ。」

「……準備?」

気がはやる桜鬼と一同を制し、馬頭首は三角形を描くように立った。

「久しぶりにやるな兄者、少し緊張するな。」

「息の合わせ方は覚えているか、大兄者?」

「無論だ、弟者達よ。……さぁやるぞ。」

そういうと三角形の中心へ歩み寄った。

だが三人の体がぶつかることはなく、1つの像となった、そして三人の輪郭がピンぼけのように曖昧になったと思った次の瞬間──

「合身、馬タウロス!」

瞬きをするとそこには強靭な馬頭のミノタウロス…のように合体した三人の姿があった。胴体から伸びる腕は四本、顔は三つ首竜のようになってひしめいている。

カッコイイ反面、邪魔じゃないかな、と思ったのは桜鬼だけではないだろう。

「準備はできた。乗るが良い。」

「お、おぉ!頼むぜ、馬頭首達!」

少しばかり異様な出で立ちに面食らったものの、ひょいと身を翻して馬の背に飛び乗った。

「馬タウロスって、そもそもタウロス自体が牛って意味だし、馬頭の伝承が東洋発祥の割に横文字って、お前らそれでいいのか……?」

「まぁまぁゼツ殿、この際細かいことは抜きにしようではないか。この状況下においては野暮というものだぞ。」

「野暮なもんかよ……」

ため息とボヤきを混ぜながらゼツも飛び乗り、フォウルも続いた。

馬タウロスの背は広かったが、それでも三人が限界だった。桜鬼が藤を見る。

「うーん、これだと乗れそうにないけど、藤はどうする?」

「手間だけど一度戻って来る他ないんじゃない?飛んで行くとしても、私の羽じゃその馬…タウロス?の速度には追いつけないと思う。」

「それなら案ずるな、炎の女子おなごよ。」

合体した馬頭首の一本が藤の方へ話しかけた。

「話を聞く限り空間が歪んでいるゆえ、速度は必要ない。城までの道のりの呪いを踏破できればそれで良いからな。我々の周囲に入れば問題は無いだろう、ゆっくり着いてくるが良い。」

「わかった、それなら頑張ってついて行ってみる。」

返答を返して藤はこぶ鬼の方を見た。

「こぶ鬼さん、悪いけどまた子供たちをお願いできる?」

「もちろんだがよ。あ、じゃが念の為コイツを連れてっとくれ。」

そう言ってこぶ鬼が指笛を吹くと上空で待機していたカラスが再度舞い降りてきた。

「桜鬼さん達の言葉もわかるはずだ、何かあったら飛ばしてくれ。……いよいよ本拠地だぁ、気をつけてな。」

藤が頷いて答え、カラスは藤の腕に止まった。

ひと声高く鳴くとまた飛び上がり、藤のやや上空で滞空した。

「お姉ちゃん!桜鬼さん!」

突然の声に後ろを見ると鈴が何かを腕に抱えて駆け寄って来た。

「鈴、どうしたの?」

「これ、昨日の残りと台所にあった材料で作って持ってきたの。」

見るとその手には包みに入った握り飯が数個入っており、包みは六つ、馬頭首の分を含めてもひとつ多かった。(鈴の中では、馬頭首達は三人で1カウントなのだろう。)

「勝手に漁ってごめんなさい、でも多分この後にご飯を食べる余裕とかなさそうだし、せめて持って行ってください。」

「本当に!?あぁ、全然いいよ、助かる!」

全員が鈴からの包みをひとつ携える。藤が鈴の頭を撫でて優しい声で礼を告げた。

「ありがとうね、鈴。きっと皆で帰って来るから。」

「もちろん。私、信じてるから。お姉ちゃんも、桜鬼さん達も!頑張ってね!」

そう言って鈴が背を向けて走り出し、やがてその背中が社の中に消えた。後を追ってこぶ鬼も続く。

「よし、各々方準備はいいか?」

馬頭首の問いかけに全員が頷く。覚悟はとうに決めている。

「目標、ロームの本拠地!いっくぜぇ、皆ァ!!」

桜鬼が手綱を引くと大きくいなないて前足をあげる。

三人を乗せた馬頭首は、石段を軽やかに降りて力強く林をつきぬけていく。藤も後方にピッタリとくっついていく。


いよいよ切って落とされる決戦の火蓋、果たして彼らの旅路に待つものとは───


To be continue…

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