第16話-黒白(こくはく)-

白でもなく、黒でもなく。

耳鳴りがするほど静かで、静かなほどうるさい。

思考が巡り、巡り、巡り、抱えきれないほど膨大に膨れ上がっていく。


目の前には肉が転がるばかり。かつて自分と笑みを交し、共に泣き、大切にしていた肉。

石畳には肉から染み出した真紅が広がっていく。

肉が宙に浮く。



──あぁ、俺が拾ったのか──


もはや自分の行動すら神経を離れ、思考だけが取り残されていた。


これは誰の顔だったか。半分になってしまっては思い出せない。


この腕の形はどの子だったか。

小さな、しかして足りない指の本数を何度も何度も数え直しては無数の童の顔が浮かんでは消える。


細くて白い脚、入り乱れて動いていたことは思い出せる。しかし誰のものだったか。やはり脳裏には浮かばない。


彼は肉を貪った。

口腔を経由せず、まるで肉体全体で取り込むように血と肉を貪った。

吸収と言っても良かった。





周りの空間が爆発した。

烈火だった。

彼の者には無縁だった物。

憎悪か。

憤怒か。

喰らった肉が、血が、意識が燃料となって炎を連鎖させる。


頭上に道が開いた。

かつて一度通じた道。しかし彼には覚えのない道。

無数の無念がこじ開けた、閉ざしていた道を。

見上げて、無垢な感情を吐き出す。

「一度だけ」

葉の擦れる音よりも、蛆の這いずる音よりも小さく、しかして確かに口にする。

「晴らさせてくれ」


意識は白色の中に落ちていった。






願いは果たされた。




To be continue...

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