第15話-消える命-
大タコは残った触手でもって桜鬼達に猛攻を仕掛けた。地面に接地した口を上げ、黒い霧を吐き突進してくる。徐々に桜鬼に抜かれた触手も再生していく。
「クッソ、思った以上に厄介だな!あと一本抜きゃ終わりだと思ったのによ!」
「そう…簡単に行くわけ…ねえだろう…ゴホッ」
桜鬼は邪を払う炎の力で霧の影響は受けないが、ゼツは黒い霧の影響を直接受けてしまっている。いくら悪魔といえども力を吸われてしまってはどうしようもない。本来の姿に戻ることもできず、その場にうずくまってしまった。
「ゼツ!」
「気を…取られるなって…」
「でもお前…!」
大タコの触手をすんでのところでかわす。ゼツに駆け寄りたいが、桜鬼はゼツと大タコの間に位置するため、どちらかに気を取られると隙を晒すことになる。
「こんなのに…今更時間を取られる訳には行かねぇ!!!」
桜鬼は覚悟を決めた。構えていた棍棒の長さをさらに伸ばす。大タコとの距離は約10メートル程。しかし触手を含めるとその半分もないだろう。
フォウルとの訓練を思い出す。地を蹴って前進し、跳躍して向かってきた一本を横薙ぎに払う。
─相手の出方を意識しろ─
もう一本の触手が迫る。横に払った体制からさらにひねりを加え、もう一回転描いて更に触手を払う。地面に着地したところで、正面から見えていなかった触手も襲いかかる。
─変わった武器の動かし方を─
振り下ろされた触手を迎え撃つように下から棍棒を振り上げる。打ち上げられた触手が円を描いて真横から横腹めがけ飛んでくる。
上に上げた棍棒は構え直さず、後方に振り切り、地にめり込んだ。その反動と脚力を活かした跳躍で桜鬼の体は宙に舞い、触手は空を振り払う。
「おおおりゃぁぁぁぁぁ!!!」
跳躍した勢いに腕力を加え、大タコの目に目掛けて棍棒を投げナイフのように投げる。持ち手は離さず、棍棒と桜鬼が一体になって飛んでいく。
棍棒は向き直った大タコの顔面へ直撃した。
軟体動物とはいえ、流石に視覚への一撃は効いたようで、大タコが悶える。水中なら簡単に逃げられたかもしれないが、丘に上がってしまっては悶えるのが関の山だ。
桜鬼はそのまま棍棒を伝って大タコの頭部にしがみついた。
「藤、悪ぃがまた力を貸してくれ……!」
そのまま力を込め、胸の宝石が煌めく。
「ちょっと無理してみるか……!」
宝石が輝きを増す。燃えるような紅が、たちまち白色に光る。
「おおおおおおおおおおお!!!!」
炎が桜鬼の体に収まらなくなり、大タコに伝わる。
熱量がさらに膨大していく。地面があまりのエネルギーに唸り出す。
「おま、え……」
「いかん!悪魔のあにさん、こっちに逃げなせぇ!」
こぶ鬼が危険を察知してゼツを引きずって下がる。
逃げ切ったその瞬間──
大タコごと、桜鬼の宝石を中心に大爆発が起こった。爆風が辺りの砂を、小石を巻き上げ爆煙が立ちのぼる。
こぶ鬼とゼツは後方に少し吹き飛ばされ、鬼狐も思わず右前足で顔を覆い、目を細めた。
爆煙が収まるとそこにはクレーターが出来上がっていた。中心には桜鬼の胸にあった宝石が転がっている。
「さ…桜鬼……!」
「桜鬼さん、どうなっただか……!?」
「俺にわかりゃ……苦労しねぇ……!おい!」
もうダメか─そう思った時、六本の炎の線がどこからともなく宝石に集中した。そして中に浮かび上がり──
人の形を形成し、やがて桜鬼が復活した。力をほぼ全て使い切ったからか、着物の下の宝石の輝きは弱く、消えそうな灯となっている。
「はァッ……はァッ……!!結構……無茶……しちまった……」
どさりと桜鬼は倒れ込んだ。
「いつもの事だろうが……でも今回はいつも以上に無茶したな……こんな派手にやるたァな。」
二人は並んで大の字になった。元凶を打ち消した影響で霧は次第に晴れていく。
「いやいや、実にアッパレやわ。触手だけなんとかしてくれたらアタシが霧の穴はなんとかしたろ、と思っとったのに、まさか丸ごと終わらせてくれるとは。空世の者も案外馬鹿にできんねぇ。」
のしのしと鬼狐が歩み寄った。動物なのであまり表情の変化に乏しいが、それでも悩みの種が無くなり幾分晴れやかな雰囲気である。
「あったり…めぇよ……!オレとゼツのコンビ、舐めんじゃねー…ぜ!」
「うむうむ。実に爽快、まさか自らを爆弾のようにするとはな、恐れ入ったわ。約束通り、あの狸には私が言うておくさかい。少し時間はいるじゃろうが、ちゃあんと馬頭首は持っていくから、安心して地上に戻り。ほんによくやってくれはったなぁ。」
「桜鬼さん!アンタやったなぁ!!すげーがよ!!これでまた関所は平和だァ!!」
こぶ鬼が嬉しくて小躍りする。二人は疲弊しきった体で、鬼狐とこぶ鬼の賞賛の声を全身に受けた。
「あの、鬼狐さん?」
「どないした?」
「いや、認めてくれてるのは嬉しいんですけども、ここまでして頂かなくても…」
桜鬼は鬼狐の背に乗せられたまま話しかけた。隣にはぐでっとしたゼツもいる。鞍のように干される形で二人は鬼狐の背に載せられていた。ゼツはまだ体に力が戻らないようで声すら出さない。
「ええてええて、気にしなさんなや。どっちみち上への帰り道なんてわからんやろ?それに疲れた体じゃあ回復するまでなんぼかかるか分からんし、十分な働きもしてくれた。アタシも今は気分がええし、せっかくの神獣の背に乗れる機会なんやから、堪能しいや。」
「はぁ、それはどうも…なんか嬉しいやら照れるやら……バチ当たんないかな……」
「いやぁ、名誉なことだがよ。ワシらなんて乗ろうと思ったら最後、骨も残らずバラバラにされちまうからなぁ。」
「なんや、ウチがそない物騒に見えるんか?あの狸ならやりかねんけど、ウチはそないな事はせぇへんよ。せやなぁ、狐火で炙る位はするかもしれへんけど。」
「そ、それはそれで恐ろしい、どうか勘弁してくだせぇ…」
二人の談笑に耳を傾けながら桜鬼は鬼狐の背に心地良さを感じていた。天国の使い、という特別な性質だろうか、ぶら下がって乗っているだけでも、疲弊した体が少しずつ癒されていくのを感じる。ゼツもいつもの無表情だが、桜鬼と同じなのか心地よさそうな表情に見えた。
しばらく進むとふと鬼狐が止まった。何か…いや、誰かが鬼狐の前に立ち塞がっている。
「どうした?」
鬼狐の背から降りて桜鬼が問うた。地に足を付けられる程には体力が戻っている。
「なんか怪しいのがいますだ。どうもここにいていいもんじゃあ無さそうです。」
こぶ鬼が囁いた。
「そこで止まり!」
鬼狐が叫ぶと青年はピタッと止まった。
ドグラ・マグラと同じようにスーツにサスペンダー、短パンという出で立ちだが、あの二人よりは歳が上に見える。しかし魂が漂うこの場において、桜鬼たちと並ぶ異質さを放っている。
鬼狐が続けて問いかける。
「名を名乗れ!どこから来たんか!?」
「僕はナンバー。どこから来たかは…後ろの2人ならなんとなく察しがつくでしょう?」
ナンバーと名乗る青年は丁寧にお辞儀をし、鬼狐ではなく桜鬼に視線を向ける。
桜鬼とゼツはすぐさまに理解した。
「まさか─あの女の─!」
「そそ。後ろのお兄さん達は流石に分かっちゃうよね。あのタコさんでどうにかなるかと思ったけど、流石にドグラ・マグラを倒しただけの事はある。あのタコさんじゃ力不足だったみたい。面倒は嫌いだけど、楽しそうだから相手してあげようと思って来たんだ。」
鬼狐が桜鬼とゼツの間にぬっ、と顔を出した。ヒソヒソと耳打ちで会話する。
「あの坊主、臭うで。知り合いなんか?」
「アイツとは初対面だ。でもわかる。さっきまでの黒い霧と触手の元凶、その手下だ。間違いねぇ。こんなところにまで来るなんて。」
「なるほどな。…二人は下がっとき。アタシが方をつける。」
「おい、幾ら神の使いだからって…」
「もうここに踏み込んだ以上は二人だけの問題やない。アタシも、あの狸も、この童の主に苦しめられた。少しは意趣返ししてやらなきゃ気ぃ済まんわ。」
言葉を重ねる事にビリビリと怒りが伝わってくる。今までとは違う鬼狐の気迫に思わず桜鬼もゼツも一歩下がる。
その時ナンバーと名乗る青年が何かを投げた。人間が投げるにはあまりにも素早く、鬼狐は避けきれなかった。が、避けるつもりもなかったのか、毛皮にその何かは飲み込まれた。
しかし体に特に変化は無い。鬼狐はそのままナンバーをまた睨みつけた。
「出目は3か、ちょっと多いな。止まる前に僕が殺されないといいけど。」
「童、今なら見逃してやる。お前の主の元へ帰れ。さもなくば、この場を荒らした代償をその魂を持って償わせようぞ。楽に死ねると思うな、俗物。」
訛りも抜けるほどに激高した鬼狐がナンバーに脅しをかける。毛が逆立ち、四肢が今にも飛びかからんと緊張する。
「脅しで一、構えて二。あともうひとつアクション欲しいなぁー?」
その言葉が言い終わるか終わらないかのうちに鬼狐はナンバー二飛びかかった。牙を光らせ、爪を最大限に伸ばし空を切った。
「飛びかかって三。はい、もうおしまい。」
牙がナンバーに届く直前、急に空中で鬼狐の動きが止まった。桜鬼たちとこぶ鬼はわけも分からず呆然としている。
当のナンバーはニヤニヤと笑いながら手のひらにサイコロをうかべた。六面全てが1〜3で埋まった特殊なサイコロだ。
「これが僕の能力。これを相手に貼り付けると、その出目の数だけしか行動が出来ないの。僕が触れるか、集中が切れるか。はたまた別の対象に新しくサイコロを付与するまで、行動回数に制限をかけられるんだ。」
懇切丁寧にナンバーが自身の能力を解説する。今までに会ったことの無いタイプに思わず面食らった。
「自分の能力わざわざ教えてくれるっつーのはどういうこった?まさかその上で俺とゼツに勝つ、とか言うんじゃぁねーだろうな?」
「うん!勝つよ?僕強いし。」
「コイツ舐めやがって…!」
捉えられると見込んだのか、珍しくゼツが桜鬼より早く前に出た。右手を突き出して捉えようとする─がナンバーは側転でそれをかわしただけでなく、側転の勢いでゼツの顎を勢いよく蹴りあげた。タイミングと距離感が完璧だ。ゼツは避けきれずモロに食らってしまう。
「……ッ!!」
「ゼツ!」
桜鬼が駆け寄り肩を支えた。ゼツの口の端からは血が赤黒い血が流れた。
「友達の心配なんて優しいんだね、鬼の子は。」
いつの間にか背後に立っていたナンバーが桜鬼とゼツの間から顔をのぞかせた。反応する間も与えず両腕で二人の首を軽く拘束した。桜鬼は力を込めたがなぜだか振り解けない。
その首筋には出目が1のサイコロが、死角に貼り付けられていたが、桜鬼は気づかない。
「それじゃ、ここでの僕の用事はこれでおしまい。お狐さん、ゴブリンさん、また会おうね。」
それだけ言い残すと、ナンバーと桜鬼、ゼツの三人はフッと消えてしまった。
「さ、桜鬼さん!?ゼツさん!?どこいっちまっただ!?返事してくれぇ!!」
こぶ鬼が叫ぶも返事は無い。完全に三人は消えてしまった。
「こぶ鬼はん」
怒気を含んだ声に思わずこぶ鬼は振り返った。
見るとあまりの怒りに周囲の空気が揺らめいた鬼狐の姿があった。
「狸鬼のとこに行くわ。ぶんどってでもあの馬頭首を頂戴するさかい、アンタが直接桜鬼さんとこ持っていき。」
「は、はぁ…あ、あの。鬼狐様は、何をするおつもりで……?」
「…神に喧嘩売ったこと、骨の髄まで後悔させたるわ」
そう言って鬼狐はその場を後にした。こぶ鬼は状況が呑み込めないまま、鬼狐の後に続いた。
「ここは…?」
見覚えのある石畳だった。
「お前の神社だ。戻ってきちまったらしい。」
「マジ!?」
急いで辺りを見回す。確かに桜鬼たちが暮らしていた神社だ。後ろには出かける時に見た、村人たちの仮説の小屋が立っている。
急に現れた三人に何事か、とゾロゾロと小屋と社から村人が出てくる。
「誰だアレ?」
「鬼っ子だ!鬼っ子が帰ってきてやがる!」
「でもなんか急に現れたよな、魔法か?」
「お父ちゃん、鬼っこが帰ってきた!!」
喜びと驚きの声が交互に桜鬼の背中に刺さる。
桜鬼が帰ってきたと知るや否や、たちまち村人で境内から社の中まで埋め尽くされる。
「ダメだ!危ねぇから皆下がってろ!まだ危険な状況なんだよ!」
流石に寄ってくる村人に注意を促す。関所──地下世界でのやり取りでナンバーが油断出来ない相手だとハッキリわかったからだ。
「僕は地図上を自由に移動できる力もある。」
ナンバーの声に桜鬼とゼツが振り向く。見るとナンバーの前には二枚の地図が浮いている。
「下にあるのがさっきまでいた関所…地下世界。そして上がここ、元の世界。地図を区分けして、数を割り振って認識すれば僕はどこにでも行ける。ちょっとしたショーの為に君の家を借りるよ。」
「ここは神様の加護が着いていたハズだ。簡単に入れるわけがねぇ。どういう手品だ?」
「加護って言ったって、地下まで張ってなきゃ意味無いでしょ。それに直線のように真っ直ぐ進むなら確かに加護に阻まれて難しいけど」
そう言ってナンバーは両の手のひらをくっつけた。
「点と点で繋いでしまえば間にあったものなんか無視できるからね。」
そう言ってケラケラと笑った。
「やべぇな桜鬼、なんとか村人を巻き込まないようにやるしかねぇぞ。」
「俺の馬鹿力が振るえねぇって事だろ。そのくらいの加減はできる。藤の力…は使えないけど、時間さえあれば戻ると思う、多分。」
大タコへの大爆発でエネルギーを使い果たした宝石はまだ黒ずみ、仄かに光るのみである。
「見たところ厄介なのはサイコロだ。なんとか貼り付けられねぇように動かないとな。ゼツと同じタイプだろ?」
「あぁ。おそらく対象は一人だけだが、出目に左右される分実質1対1だ。格闘戦の力がわかんねぇし、油断すんなよ」
ナンバーは鳥居を背に立っている。村人は桜鬼たちの後方、比較的社に寄った場所で緊張した面持ちで眺めている。二人はゆっくりとナンバーとの距離を詰め、やがて三人の誰が動いても必中の間合いになった。
先に動いたのは桜鬼だった。棍棒を懐から取り出し、即座に拡大、ナンバーに殴りかかった。ヒラリとナンバーは飛んで交わすが、先に見切ったゼツが飛び上がり、蹴りの体制を取った、が──
ヒュッ、と音がしてナンバーの腕からサイコロが解き放たれた。ゼツの額に張り付く。出目は2。
「足を上げて一、着地して二。」
ゼツはそのまま足を振り切った。ナンバーは空中で体操のように身を捻ってかわし、着地する。
ゼツも着地したが、サイコロの効果で動かない。
「ゼツ!こ、のクソサイコロ……!」
桜鬼がゼツの額からサイコロを剥がそうとするも、ビクともしない。
「言ったでしょ。僕の集中が切れるか、新しくサイコロを付けるか、僕が触れるか。そのどれかじゃないと上書き出来ないの。」
ナンバーが歩み寄る。桜鬼は諦めてナンバーに再度棍棒を振り下ろした。
「直線的過ぎるなぁ。こんなつまらないのにドグラ・マグラちゃん達負けちゃったのか。」
棍棒を振り下ろした桜鬼の側面に回りこみ、延髄蹴りを叩き込む。桜鬼はダメージを押し殺して片方の手を棍棒の柄から離して殴る。
「読みやすすぎ。戦闘慣れしてないでしょ。」
しかし延髄蹴りの足を軸にナンバーはさらに回転、反対方向に着地すると技でもないヤクザのような蹴りを桜鬼の腹に叩き込む。
「ア゛ッ゛……ガッ!」
「喧嘩っていうのは冷静に、しかして激しく。技も力も使ってこそなんだよ。覚えた?」
急所への立て続けの攻撃に流石の桜鬼もたまらず地面で悶えた。
「見逃してないよ。」
そう言ってナンバーが腕を振った。
後ろには浮遊を活かしてゼツが忍び寄っていたが、気づかれているのは予想外らしくギョッとした顔をした。
避けきれず、またもやサイコロがビタッとゼツの服に張り付く。ナンバーに向かって見える出目は1。
「一歩分下がる。一消費。」
途端に後方に退いたゼツの体が張り付いたように動かなくなった。体の自由を奪われ、表情すら強ばってゼツが呻く。
「こ、の……!」
「君は厄介だと姉さんから聞いているよ、悪いけど先に始末させてもらうよ。」
「させるかァ!!」
横から体制を立て直し割入った桜鬼が棍棒を振り下ろした。
「おっとっと。危ない危ない」
意識の先がゼツから逸れ、体の自由が戻る。
「大丈夫か!?」
「体は何とかな、しかし本当にイラつく野郎だ。戦闘慣れもしてるし、能力もダンチじゃねぇか。勝算あんのか、コイツに!」
「じゃ、そろそろ本命と行きますか。」
スッ、とナンバーはポケットから黒い塊を取り出した。二人が訝しげにそれを見ると、ナンバーは塊を握った手をゆっくりと開いた。
小さな黒い塊が宙に浮く。そして塊から渦巻いた空間の穴が現れた。
「イッツ・ショータイム!」
そしてもう片方の指を空中でパチンと鳴らした。黒い塊はブォン、という音と共に姿を消した。
音が響いて、時間が流れていく──
そして。
突如、村人たちの足元に黒い渦が巻いた。
その後──なんと村人たちはその黒い渦の中に沈んでいく。
僅かな間の戸惑いの声は、やがて狂乱の悲鳴となって空にこだまする。悲鳴を聞いて二人は思わず後方に視線を向けた。
「あ、足!俺の足が!!食われていく!うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「お母さーん!僕、僕の手が!無くなっちゃうよ!!動かないよ!!」
「感覚、感覚がない!穴に飲まれた腹の感覚がもう無くなっちまってる!!誰か!助けてくれーーーッ!!」
何が起こっているのか飲み込めず、桜鬼は戸惑った。ゼツも困惑の表情を浮かべるが、ナンバーの能力で動きは封じられて動けない。
「テメェ!!俺の大事な人たちに何しやがる!!」
半ば困惑したままナンバーに殴りかかった。同じようにサイコロを飛ばすが、動体視力でかわす。
棍棒を振り下ろすと地面がえぐれ、石を打つ音が響いた。ナンバーは後方に飛び退いた。
「おおっと、流石に危ないね。」
「逃げるんじゃねぇ!!早く皆を元に戻せ!」
「もう止めてるけど?」
「あぁ!?」
ナンバーが地に降り立つ。桜鬼は耳を澄ませた。
……声が聞こえない。さっきまで響いていた叫びが途絶えている。静けさが耳に痛い。
「君が途中で殴りかかるからさ。集中切れちゃった。そのままだったらもうちょっとみんな楽に逝けたと思うんだけど。」
桜鬼はゆっくりと視線を後部に向けた。
横にはナンバーの集中から外れたゼツが体の自由を取り戻していた。恐らくは見てしまったのだろう。
振り返る桜鬼に向かって叫ぶ。
「振り返るな、見るな桜鬼!!」
しかしもう止められない。桜鬼は既に振り向いている。
そして見てしまった。
地面に巻いた渦はもう消えている。しかしそんなことは頭に入らなかった。
腕─指─脚─上半身──下半身──三分の一だけになった頭部───悲鳴をあげたまま絶命した顔──バッサリと地面に飲まれ途切れた胴体───
大人も──子供も──男も──女も──一切の容赦はなく──等しく──容赦なく──
命だったものがまるで石ころのようにころがっているばかりだった。
彼が、桜鬼が愛した村人たちの成れの果て。
無惨な肉塊が、桜鬼の瞳に焼け着いて離れなかった───
To be…
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