第11話-散る飛沫-
「こいつ、前と全然違うじゃねぇか!こんなに力技使ってくるような感じじゃなかったろ!」
「あのローブの女も言っていたがやはり本来の姿から変質してしまったのだろう、ゆめゆめ気を緩めるな、桜鬼殿。」
変質したマグラの攻撃をかわしながら湿地帯を二人は駆け抜ける。マグラは木々を器用に避けながら、道中の岩をもう一対の手で掴みあげて投げてくる。
「「ま、て、逃げる、な」」
「無茶言ってくれるぜ、本物の鬼に追いかけられるよりこえーぞあんなの。」
「貴殿も鬼では無いのか?」
「あ、まぁそうなんだけど、ほら、度合いが違うじゃん?っぶね!」
「はは、桜鬼殿といると退屈はしなさそうだな。あの黒服がついてまわるのもそれとなく合点が行く。」
「終わったらゆっくり話すからよ、まずはあれどーにかしようぜ!」
桜鬼は気に腕を回し、180度回転すると棍棒を構えた。
「っしゃオラァ!」
木の幹に勢いよくぶつけると衝撃に気が幹から折れ、マグラに倒れていく。動きが見えているためマグラは横に回避する。
「「今、更、当たら、ない」」
「ホントにそうかァ?」
回避する動きに合わせ、桜鬼マグラの初動に併せて同じ方向、その懐に飛び込んでいた。
「「!!」」
そのまま縦、横と二撃叩き込む。一発は腕に命中し、もう一撃はみぞおちを一文字に叩いた。
「見事!」
「この距離なら流石に入ったろ!」
二人が様子見する中、マグラは体を折り曲げて苦しんでいる──かと思いきや。
「「アハ、ハ、ハハハ、楽、死、楽シ、イねぇ!!強、いねぇ、おに、いさんた、ち!!」」
「こいつホントに気味悪ぃ…どうやったら倒せんだ……?」
「まともな手合いだと思わぬ事だ。何者にも限界はある。我々二人で打ち砕こう。」
「勿論!コイツをぶっ倒して、ロームって奴にも一発かましてやんねぇとな!」
異質な相手にも怖気付く事無く剣と棍棒ををかざす。
そして左右に駆け出し、挟撃しようとする。しかしマグラの手足に不足はない。フォウルの剣筋に切られ、桜鬼の棍棒に叩かれても笑顔を浮かべている。そして腕を、足を振るって二人をけん制する。
「こいっつ…!本当に止まんねえな…!」
「手数でこの差を埋めるとは…!」
手で棍棒を抑え、足で剣の平たい部分を地面に押さえつけ、膠着状態に移行する。二人はそれぞれの得物に力を籠めるがピクリともしない。
「「し、まい?おしま、い?」」
そういうとマグラは天高く声高に笑う。またもや鐘の音が響き二人の間隔を揺さぶる。思わず二人が力を抜いてしまったその瞬間、再度足と手でもって二人を振り払う。裏拳がフォウルの顔に、けたぐりが桜鬼の腹にクリティカルヒットし、それぞれの体が吹き飛んだ。
「華奢だと思っていたがなんという怪力!」
「予想以上だ…いよいよ手詰まりかァ?」
三人の間に再び緊張が流れ──
「その顔腫れ上がらせてあげる!」
「逆にその触手で縛り上げてやるよ!」
桜鬼たちが激戦を繰り広げている一方、ゼツとロームも拮抗状態にあった。
互いに精神への特攻を持つもの同士、犯し犯されの攻防が続く。
触手が伸び、ゼツの腕にまとわりつく。触手からは影が伸び、ゼツの腕を侵略せんとする。
「反転しろ!」
そう命じると影の侵略が裏返り、今度は触手の根からロームを侵す。すぐさまに自らの肉ごと切り落とし、即座に再生を行う。
その間にゼツは距離を詰める。
(弾いて触手でのバリアを──)
「退け!」
弾くために接敵した触手があらぬ方向にひん曲がる。バリアも意味をなさず、中央にロームがむき出しになる。ゼツは片手を広げ、ロームの頭をわしづかみにする。
「やはりな、オメー『神卸し』してんのか。随分大人しくいくこと聞くもんだな、邪神ってのは。」
ギリギリと頭部を締め付けロームの力の源を看破する。
「だがそれもここまでだ。お前もへき開を──」
「直で触ると力が増すタイプなのね」
余裕そうなロームの声が掌の向こうから聞こえる。
「私もそうなんだ。」
みるとゼツの胸にロームの掌が置かれている。
(マズ…ッ!)
「へき開を晒しな!」
そう言い終わる前に離れたが、一瞬間に合わず、手の置かれていた箇所には掌の大きさのヒビが入ってしまった。
「厄介なヤローだな、俺と同じタイプたぁな」
「察しがいいのってホント厄介ね」
全ての触手を再度展開し立ち直る。
「さ、第二ラウンドといこうか?」
「タフさ加減はいいね、俺もすぐ終わるのは嫌いだから。」
首を鳴らしてゼツも整える。
そして腕と触手が再びぶつかりあっていく。
舞台は再度戻り桜鬼たち。力の差はそれぞれ同じ、下手に動けば決着がついてしまう。楽し気に首をかしげてマグラがニッコリと口を開く。
「「ふ、ふ、動けない?それ、と、も動、きたく、ない?」」
「クソ、舐めやがって…!」
「いかん、動くな!」
一歩遅く、踏み出した桜鬼の右足が水の塊に突っ込む。
「しまっ…!」
「「かかっ、た!か、かった!!」」
目にもとまらぬ速さでマグラが桜鬼の方へ突っ込む。そのまま腹に蹴りこもうとしたが、間一髪躱す。しかし拳はよけきれずたちまち四発、顔と腹に食らってしまう。
動き出したフォウルの剣から放たれていた風が後方からマグラを吹き飛ばした。能力を維持できなくなった水の塊がたただの水分となって地に戻っていく。
「大丈夫か?」
「クソッ、マジで早々に決着つけないとマズイぜ」
「ああ。一瞬だが全開で力を使う。合わせられるか?」
「一か八か、ってやつ?いいぜ!やってやろう!」
「いい返事だ」
ニヤリと二人は笑って向き直る。マグラも体勢を立て直している。
「「お、お前の、風、邪、風、めん、どくさ、い」」
「心配するな。その風もお前にとってすぐに心地よい風になるだろう。」
その言葉を皮切りに二人が真正面から突進する。。
「「引き裂いてや、る!!」」
「風の前では歌の小節だな」
フォウルはマグラの攻撃が当たるギリギリの距離まで見計らい、剣を下から上に振った。今までとは格が違うほどの突風が吹き、マグラを巻き上げた。
そして剣の切っ先を横に、平らな部分が上になるように構えなおす。
横から回り込んでいた桜鬼がその上に飛び乗る。体重と棍棒の重さをフォウルは自らの腕力と脚力で支える。
「飛べ!」
「うおりゃァァァァ!!!」
桜鬼はフォウルの風を得て高く飛び上がった。胸の宝石を煌めかせ、棍棒に炎がやどる。
「ふッ!」
フォウルも桜鬼の後を追って飛び上がる。桜鬼は炎の羽を出し、はためかせて高度を上げた。マグラは合間に挟まれた。桜鬼は棍棒を下に構えて落下していく。
「「タァーーーーッ!!」」
熱を帯びた棍棒と鋭い風を纏った剣が上下から交錯し、マグラを叩き、貫く。ヒビの入った箇所が桜鬼の炎で熔け、フォウルの風の力でバラバラに砕ける。割れた体が僅かな陽の光を透かしてステンドグラスのように輝いて──
マグラの体は上半身と下半身に分かれ地に落下した。
「「ぼ、くの、ぼ、くたち、の、体、が…」」
首だけで自らの体が砕けたのを認識し、困惑した言葉を残し、マグラは動かなくなった。
「今度こそやったか」
「あぁ、だと思うぜ。」
フォウルも剣を収める。
「急いでゼツに合流しよう、ゼツは喧嘩はからっきしだから、あの触手女相手だと遅れを取ってるかも…」
「あぁ。あの女は相当の手練らしい、急がねば」
そう言って二人がゼツを探すため行こうとした時だった。目の前の空間に穴が空き、その空間には黒い渦が巻いている。二人は訳が分からずに覗き込もうとしたその時、悪魔の姿をしたのゼツとロームが飛び出してきた。
「ゼツ…なの…?その姿は……っていうか無事だったか!」
「あんまし無事とはいえねーがな。」
服装でゼツだと認識するも、確信が持てない桜鬼。しかし今はそれに気を取られている場合ではない。三人はすぐさまロームへと向き直る。
数で不利に立たされ、ロームも改めて臨戦態勢を整える。
「今の私じゃ、多少分が悪いけど……!」
「「お、ねエさ、ん、、ぼ、ぼくが、僕達、が、こわレち、ゃッた」」
三人へ攻撃を仕掛けようとしたその時、上半身だけになったマグラがロームの足元へと泣いて擦り寄る。
「マグちゃん…!まさかここまでやられるなんて…!」
「あいつまだあんな余力が!」
変異したマグラの変わり果てた姿を見て、流石のロームも分の悪さを理解した。
マグラを触手で抱えあげ、足元に煙幕を展開した。
「!待て!逃げるな!」
「この子達を見捨てて戦っても良いんだけど、私はなるべくそんなことしたくないんでね。安心しな。そこの黒いの含め、お前ら全員地獄にきちんと送ってやるからな!」
「この野郎ッ!!」
桜鬼は棍棒を勢いよく投げたがロームには届かず、黒煙に穴が空いたのみだった。
「クソッ!また逃がしたか…」
「逃げ足はホント早いよな。ボロボロにしてやったとはいえあの変なのにも結局逃げられちまったし。」
「……なぉ、お前、ホントにゼツ?…なんかちょっとおどろおどろしい、というか…なんというか……」
「慣れねーか?」
「うん、まぁ…」
そう答えるとゼツはいつも通りの姿に戻った。
「ほい。これで元通り。」
しげしげと頭の先から爪先までゼツを眺める。
いつも通りだ。羽の生えていた背中のシャツに穴が空いてること以外は。
「やっぱさっきの姿見たことないんだけど!どうなってんのアレ?」
「アレが本来の俺に近いの。これから見る機会増えると思うし慣れてくれや。」
「んな無茶な……」
二人のやり取りを横で聞いていたフォウルが何かを考え込んでいる。
「やはり、二人はもう察してると思うが今対峙したあの女性が元凶だろう。」
「だろうね。やりあって分かった。アイツあれで全力じゃないし、おそらく小手先の奥の手をまだ隠し持ってる。あの不気味な化け物作り出すくらいだしな。」
「そうすっと…今の俺でも勝てるかわかんねー…ってことか?」
流石の桜鬼も二人の顔を見て自信が持てなくなったのか、おそるおそる二人に尋ねる。
「勝てるかわかんねーっていうか、無理だな。多分フォウルが来てなきゃ殺されちまってぞ。俺ら。」
「そんなに…」
「どうにかして戦力増強、ないし味方を増すかしないと、か…」
三人は考え込んだ。そしてゆっくりとフォウルが口を開いた。
「戦力の増強となれば、まずはやはり修行、手合わせが手っ取り早いだろうな」
「は?」
「騎士流の修行はお嫌いか?」
そう言ってフォウルは彼には珍しく、いたずらっぽくニヤリ、と笑ったのだった。
To be continue...
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