Chapter 9-9
立ち上がる京太たちに、終焉の魔神は歓喜の笑みを浮かべる。
「やはり立ち上がるか、扇空寺の鬼どもよ。お前たちの望むものはもう、この世界にはないと言うのに」
「背負ったもん投げ出して、自分だけが呑気に暮らせる、そんな世界は俺自身が望んだって御免だ。散っていった皆の全てが無駄になる、そいつぁ仁義に反するどころじゃねぇって事よ」
京太の言葉に、魔神は満足げに嗤った、ように見えた。
「幾億にも紡がれて来た星の夢の終焉りだ。見届けるがよい」
「させねぇよ」
京太たちはそれぞれの獲物を構える。
「四条あやめ」「月島水輝」「風代朔羅」「穂叢なぎさ」「玖珂紗悠里」「神埼空」「扇空寺京太」
全員の声が重なった。
「推して参る」
開戦。
口火を切ったのは、水輝の放った七色の光条である。これを左右に反転しつつ回避する終焉の魔神へ、続いて朔羅が斬りかかる。
袈裟狩りの一撃を後退して避ける終焉の魔神だが、そこにはなぎさが設置した機雷が待ち構えていた。炸裂し、強力な電撃が終焉の魔神を襲う。更にとばかりに懐へ飛び込んだ京太が、その首級を狙って斬り上げる。
しかし、終焉の魔神は電撃を浴びながらも、それを物ともせず動き出した。
終焉の魔神が振るった腕と、『龍伽』の刀身が交錯し、火花を撒き散らして弾き合う。
「ちっ」
反動で床を滑りながら後退させられた京太は、軽い舌打ちを入れると再び飛び出す。円を描くように終焉の魔神の周囲を駆けながらも距離を詰めていく。
その間にも空の放ったオーラが、終焉の魔神を捕縛する。今度こそ動きを封じられたとみるや、水輝が七色の光条を撃ち放ち、あやめの射ったエーテルの矢が重なり、相乗の槍となって終焉の魔神を撃ち貫く。
――かに思えた瞬間、終焉の魔神は拘束を引きちぎり、両腕で光条を受け止める。これ自体が驚くべき芸当だが、更に彼奴は光条をまるでおもちゃか何かのように無造作に掴み取る。
「これはこのままお返しさせてもらおうか」
そしてそれを、水輝に向けて投げ放つ。
「水輝!」
飛び出したのは京太だ。水輝の前に立ち塞がり、光条をその手に受けて払い除ける。鬼の抗魔力があってこそなし得る、無茶苦茶な防御方法である。
そこで足を止めた京太に向けて、終焉の魔神はその腕を縦横無尽に伸ばして攻め立てる。が、これを止めたのは紗悠里だ。玖珂式の絶対防御がこの必殺の一撃をも払い除ける。
「済みません、京太君!」
「構わねぇよ! 次だ! 畳み掛けるぞ!」
「はい!」
数的優位を活かし、終焉の魔神に攻める余裕を与えず倒す。これが今の京太たちにとっての必勝法であることは明らかだった。
水の奔流がうねりを上げ、エーテルの矢が虚空を切り、稲妻が轟音を立てる。追い詰められた終焉の魔神に、処刑鎌の一撃が迫るも、彼奴はこれを鞭のようにしならせ伸ばした腕で絡め取る。
「こん……のぉ……っ!」
「そのまま踏ん張れよ、朔羅!」
そこへ斬りかかるは同時、京太と紗悠里だ。左右からの同時の剣戟。繰り出したるは必殺奥義。
――扇空寺流、奥義。鬼龍大天衝。
――扇空寺流玖珂式、奥義。朧雪月花。
京太は身を捻るほどに大きく振り被った刀を、大股で踏み込むと同時に叩きつけんばかりの勢いで振り下ろす。
紗悠里は滑り込むようにして終焉の魔神との距離を詰め、上段、中段とフェイントを入れた後、下段からの斬り上げを放つ。
更には水輝が放つ七色の光条が、終焉の魔神の身体を穿たんと迫る。エーテルの矢が、水の奔流が、雷撃が、この戦いを終わらせんと一様に終焉の魔神に向けて放たれた。
轟音が響き渡り、世界が一瞬の間ホワイトアウトする。皆の攻撃に乗ったオーラが炸裂し、眩い光を放ったのだ。終焉の魔神の姿も見えなくなるが、だが手応えはあった。
晴れていく視界の中、京太は確かに終焉の魔神を斬った実感を得ていた。果たしてそこには、斬り刻まれ、絶命した終焉の魔神が立っていた。
――そう。微動だにせず、立っていたのだ。
全員がその違和感に気付いた瞬間、終焉の魔神の身体から、猛烈な勢いで黒いオーラが噴出した。たった今白く反転していたばかりの世界は、今度は果てなき闇に包まれる。
するとどうしたことか、まるで鉛を背負ったかのように身体が重くなり、身動きが取れなくなってしまった。堪らずその場に膝を突く京太たちへ、どこからか彼奴の声が聞こえる。
――この程度とはな。
終焉の魔神の身体は既にそこにはなく。
――新たなヴァルキリーとエインフェリアたちがどれほどのものかと思えば。これではイリス・ウィザーズとそのエインフェリアたちの足元にも及ぶまい。
四方八方から響く彼奴の声だけが――いや、この黒い世界全体に染み渡るかのような存在感が、彼奴がまだ倒れていないことを証明していた。
終焉の魔神が言葉を重ねる毎に、京太たちを襲う圧力は増大していく。
「もう……ダメ……っ!」
「空……ちゃんっ! うぐっ……!」
空に続き、朔羅が、なぎさが、水輝が、紗悠里が、あやめが。耐え切れずに倒れていく。
京太でさえ限界が近かった。しかしギリギリで踏みとどまり、終焉の魔神へと言葉を返す。
「足元にも及ばねぇってのは……! 間違っちゃいねぇな……! けどな……っ!! そんなもんは、こちとら百も承知の上だ!! だからってな、ここで世界を終わらせちまって、俺たちの力があなたたちに及ばなかったからですなんつって下げるような頭ぁ、最初っから持ってきちゃあいねぇんだよ!!」
京太は纏うオーラを莫大なまでに増加させる。加速度的に肥大したオーラは倒れた仲間たちまでをも包み、力を与える。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
雄叫びと共にオーラが爆裂する。この黒い空間さえも呑み込み、世界は白く染め上げられる。
「……最後だ。力を貸してくれ、鈴詠」
京太は握った『龍伽』を大上段に構える。
――うん。終わらせよう、京太君。
京太のオーラが『龍伽』の刀身から伸びる光の柱と化す。立ち上がった仲間たちが、京太の肩に手を置く。彼らの纏うオーラも『龍伽』の刀身へと集中し、光の柱は更に強い輝きを放つ。
「終焉の魔神。てめぇが世界を終焉らせるってんなら、俺が、俺たちが、てめぇを終わらせてやる」
京太は柄を握る手を、一層強く握り締めた。
「往生しな」
振り下ろされた光の柱が、空間を切り裂いていく。ありとあらゆる物を破壊したかのような破砕音が鳴り響きながら、世界は元の形を取り戻していく。
光の柱が天を穿ち、収束した時、世界は終焉りを迎える事なく未来をその手に掴んでいた。
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