第10話 AI、ウソつかない
マシンが勢いよく動き出す。みんな期待の眼差しでマシンを見つめる。
まずはぴんぴんと天を刺すように伸びた雑草たちだ。マシンはバッサバッサと切り倒しながら、ぐんぐんと進む。その先に、ピンクの花が迫ってきた。
(さあ、どうなる!?)
みんなの緊張が高まる。マシンはタイヤ一つ分ほどまで近づいたところで、ひょいとそれを避けた。
「「「おおー!」」」
そのあとも上手い具合に大切な花を避けながら、雑草を刈っていく。
スーパー・ソード・マシンのグレードアップ作戦は、大成功に見えた。そこに異変が起きたのは、庭の半分くらいがきれいになったころだった。
ウイーン……ウィーン……
マシンが前に進まず、きょろきょろとし始めた。
「あれ? どうしたのかな?」
「まさかまたリーナ……」
学はリーナを一瞬疑わしそうに見たが、でもすぐに首を横にふった。
「……なわけはないよな」
「わたしにも、どういうことだかわからない」
今のリーナに、マシンを邪魔する理由はない。
その時……。
「トトモ、悪いコト、ナニモシテマセン」
たずねられてもいないのに、とつぜんトトがそう言った。
怪しすぎる!
「「ぜったいウソだ」」
レオと学の声が重なる。しかもいつもとちがって、思いっきり棒読みじゃないか。
しかしリーナは、
「学もレオも何言ってるの? トトはウソなんてつかない」
なんて大真面目な顔で言う。
「「いやいや、どう考えてもウソっぽかったぞ?」」
「そんなはずない。コンピューターは、自分からウソをつくことはない。教えられたことがまちがっていれば、ウソを出力してしまうことはあるけど」
レオと学は顔を見合わせる。
「トト。リーナはああ言ってくれてるぞ。お前を信じてもいいんだな?」
「トト、ワルイコト、シテマセン。トト、ワルイコト、シテマセン」
機械的にメッセージをくり返すトト。思いっきり胡散臭い。しかしリーナは言った。
「ほら、してないって」
何も疑ってない表情だ。
「ま、いーや」
リーナがそう言うなら、そういうことにしておこう。
レオは庭に下りて、マシンを拾い上げた。
「草がタイヤに絡んでたりするのかもしれないし、ちょっと見てみるよ」
「わたしも、プログラムにまちがいがないか、見直す」
リーナも縁側にノートパソコンを広げ、ねこのように背中を丸くしてコードを読み始めた。
「進めなくなったというより、迷ってるみたいな動きをしていたから、サーボやカメラがこわれてないかを、チェックしてみるといいかもしれない」
学も2人に合わせて、心当たりを探る。
「なるほど」
サーボには、方向を決める機能がある。機械が思ったように動かない時には、そういったものが壊れていないか一つ一つ確認して原因を探していく。
「迷ってたみたいってことは、学習が足りてないってこともありうるよね。だったら、学習を強化してみようかな」
学習が不十分だと、どう動作するのがいいかが判断できなくて、想定とはちがう動きをしたり、動かなかったりする。
「うん。それもいいかもしれないな」
もちろん、不調の原因がトトのせいでなければだけれど。と、学はひっそり思う。
レオがラジコンに、リーナがコンピューターに向かっている間、学も何かヒントになることはないかとスマホで調べていたが、ふとマシンが刈り残した雑草が目に入って、手で抜き取った。
刈り残しといってもマシンがミスをしたのではなくて、青い花の群れの中に、雑草が混ざって生えていたというものだ。手でなら草をかき分けて抜くことはできても、ラジコンだと難しい。よく見るとそんな刈り残しがたくさんあった。学は次々に抜いていく。
3人が3人、それぞれ必死になっているうちに、時間はいつの間にか昼を過ぎていた。
「わ。いつの間にかこんな時間じゃないか」
スマホで13時08分という文字を確認し、学は焦った。レオとリーナは聞こえていないのか、夢中になって作業を続けている。
「まったく。腹、空かないのかな。それにしてもこの2人はともかく、ばあさまが声をかけてこないなんて変だな」
いつもなら昼食の支度をとっくに終えているころなのに。
「ばあさまー?」
学は2人を置いて、部屋に上がっていった。
それからすぐのことだ。
部屋の中から、大きな声が響いた。
「ばあさま! ばあさま!」
ただ事じゃない声。さすがのリーナも、はっと顔を上げた。
コンピューターを抱えたまま、バタバタと奥の部屋へと走っていく。それを見たレオも慌てて靴をぬぎすてて、縁側から中へと入った。
「ばあさまっ!」
かけつけたリーナとレオが見たのは、ソファーに倒れこんでいるばあちゃんだった。
「おばあちゃま!? おばあちゃま!?」
リーナが駆けより、声をかける。でも、返事はない。おばあちゃんを揺すろうと、リーナはしゃがみ、とっさにパソコンを足元に下ろす。
「だめだ、揺らしたら。それより救急車……」
学が震えながら、スマホを出す。
「う……うまくかからない……」
動揺しているせいで、なかなか119番が押せない。それを見たリーナが、代わりにスマホを取り出した。
「トトッ!」
リーナは救急車を呼ばず、トトをばあちゃんに近づけた。トトからビームのような光が出て、ばあちゃんを上から下までさっと照らす。
「脈拍、正常! 呼吸、正常! 血圧、正常! 体温、正常デス!」
「全部正常なの? じゃあばあちゃん、大丈夫なの?」
「いや、こんなにまわりが騒がしいのに、意識が戻ないなんて変だ。いったい何が――」
学がそう言った時だ。
ビカーンッ!
リーナのノートパソコンの画面から強い光があふれだした。
「わあっ!」
3人はあまりの眩しさに、目をおおった。
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