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第9話 AIのやきもち・豆知識
全国小学生工作大会と書かれた大きな賞状。それがたくさんの人の前で、レオへと渡される。
「最優秀賞おめでとう」
レオの工作が、日本で一番の賞を獲ったのだ。深くお辞儀をして賞状に手を伸ばすと、まわりから大きな拍手が湧き上がる。顔を上げると、たくさんの人の中にリーナがいた。
「おめでとう。さすが、わたしが仲間と認めた人」
近づいてきたリーナが、真顔でレオに右手を差し出す。
ふ。
(ぼくは、天才に仲間として認められたのだー!!)
「ふふふふふふふふふ……!」
バンッ!
「レオ! 変な声出して、どうしたのっ?」
とつぜん大きな音と声が聞こえたかと思ったら、開いたドアと母さんが見えた。横向きに。
「あら寝言?」
って? 今の、夢~!?
「早く起きなさいねー」
母さんは朝ごはんの待つキッチンへと向かう。
「はーい」
窓から差しこむ朝日がまぶしい。レオは目をこすりながら、起き上がった。
(変な夢、見ちゃった)
学のおばあちゃんちに着くと、そこにはすでにリーナが来ていた。
(プログラミング日本一なんて、すごいよなぁ)
夢を思い出しながら、声をかける。
「おはよう」
するとリーナはレオが来るのを待っていたように、パソコンからすぐに顔を上げた。
かわいらしい丸い目――ではなく、半開きの目がレオに向けられる。
(こ……怖い。ぼく、にらまれるようなことしたかな?)
ビクッとしたところに、学がやってきた。
「どうしたリーナ。目の下にそんなくまなんか作って。くまったことでもあったのか?」
リーナは学にもジト目を向ける。でもこれ、にらんでいるわけではないようだ。くまができてるってことは、体調でも悪いのかもしれない。
「大丈夫?」
「大丈夫。徹夜には慣れてる」
「徹夜!?」
思わず声が裏返る。なんで徹夜を……って、プログラミングをしていたにちがいない。
「おかげで、久しぶりにタイムトライアルしてしまった」
「リーナ、タイムトライアル、得意デス!」
タイムトライアルというのは、いかに早くできるかという時間を競う競技である。つまりリーナは一晩という制限時間を自分で設けて、大急ぎでプログラムを仕上げたということだ。
出来上がったプログラムの入ったブルーベリーパイが、リーナの小さな手からレオへと渡された。
「さあ。レオ、学。ボードをセットして。学習を始めよう」
「はじめヨウ! レッツ・スタート!」
まずはゴーグルを装着! それから設計を広げ、マシンを組み立て始める。
みんなは、テレビで爆破装置を解体するシーンを見たことがあるだろうか。赤いケーブルと青いケーブル、どちらを切れば助かるかなんてやってるけれど、今レオがやっているのは、ちょうどその逆。つまり装置が上手く動くように、ケーブルをつないで、回路を作っていくのだ。それを車の内部にセットして、ボディーを被せる。
「できあがったら、庭に置いて」
庭にマシンを置くと、リーナがつくえの上のパソコンのキーをひとつ押した。
ウィーン。
マシンのタイヤがそーっと回り出した。
リモコンはもう必要ない。何の操作をしなくても、スーパー・ソード・マシンは自動で庭を走るようになったのだ。
「やったー!」
喜ぶレオに、トトが張り合うように言った。
「成功! オメデト! コングラチュレーション! でもトトだって手があれバ、組み立てくらいデキマス!」
「あればね」
ズバッとリーナが現実を突きつけた。
シュゥゥゥン……
トトの画面が弱々しく光を失っていく。
リーナはめげるトトのことなど気にも留めず、パソコンの前へと2人を呼んだ。
「レオ! 学! こっち来て」
駆けつけると、リーナは無言でパソコンを指さした。
2人は画面をのぞきこむ。するとそこには、ラジコンが見ている世界が映しだされていた。
「すげー!」
「ジャングルみたいだな」
草に囲まれ、地面がすぐ間近に見える。アリが行列していて、バッタが草を食べている。
「ほら、きのう教えたお花も映ってる」
リーナは花の画像の上で、カチッとマウスをクリックした。
「そうやって、刈ってはだめな花として登録するんだな」
「そう」
画面に映る植物が少しずつ入れ替わる。
「これはねこじゃらしだから駆除、と」
マシンを少しずつ動かし、ひとつひとつの花にチェックを入れる。それからリーナはソファーに座るおばあちゃんのところへと向かった。
「おばあちゃま。AIにお花のこと教えてあげて」
おばあちゃんのとなりに腰かけて、パソコンを見せる。
「まあ~。なんて素敵な景色なんでしょう」
ラジコンの撮っている世界に、ばあちゃんが感激の声をもらす。
「これはねえ……」
ばあちゃんは楽しそうにしゃべりだす。
「いつの間にか生えていた野菊なの。植えたわけじゃないから取ってしまってもいいんだけど、かわいらしいでしょ?」
リーナはキーボードに手を伸ばし、データを更新した。トトはすっかりだまりこんでしまっていた。
「トトのやつ、すっかり拗ねてるな」
「もうちょっと優しくしてあげればいいのにね」
「リーナは冷たくしてるつもりなんてないんだろうけどな」
学は、AIに学習させているリーナの方をこっそり指さす。
「コンピューターには、ああやって本当のことを教えるのが当たり前だと思ってるんだろう。トトに心があるなんて、思ってないようだし」
「あんなに仲よくしてるのに不思議だよ」
「作った本人だから、よけい気がつかないのかもな」
そんな話をしながら待つこと30分。ついに待ちわびた声がした。
「学習データができた。これでレオのマシンは、知性を持った最強マシンにグレードアップする」
3人は縁側に並んだ。さあ、走行が始まる。
ばあちゃんは、庭を眺めるみんなの後ろ姿を嬉しそうに見つめると、またソファーへと休みに戻っていった。
★ここで豆知識!★
ブルーベリーパイというものは現実には存在しないけど、同じような機能を持つ物はあるよ。小型シングルボードコンピュータとか、マイコンとか呼ばれる分類のものだよ。
それを使ってどういう風にパーツを動かしたいか、プログラミングで指示を書けば、オリジナルのマシンを作ることができるよ。どんな機能を持った物を作りたいか、考えるのも楽しいね。
パーツとセットになった電子工作キットという形で売られていることもあるよ。ちなみに、物語の中で板の色は緑だと言っていたけど、たまに緑以外の物もあるんだよ。
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