第5話 特技と苦手・外国語講座

 ババババババッ!


 まるでレーシングカーのようなスタートダッシュ。草が派手に飛び散る。

 なんていう豪快さ。さすが100万点のゲーマーだ。

 と思ったら……


「きゃああああぁぁぁああああああぁぁぁ!」

 リーナが金切声を上げた。必死な顔で、レバーを上下左右にたおしまくっている。どうやらわざとこのスピードを出しているわけではないらしい。

 マシンはトップスピードで、右に左にぎゅんぎゅんうねる。暴れるように庭をでたらめに走り回り、白い花の群れに近づく。


「リーナ! ストップだ、ストップ!」

 レオと学が叫ぶが、スピードは落ちる気配もない。

 あわやのところで、急カーブ。助かった、と思ったら目の前に今度は青い花が。

「右だー!」

「左、ひだりー!」

 またもやぎりぎりをかすめて急カーブ。青い花びらが2つ3つバリバリっと宙に舞った。


「トトーッ!!」

 リーナが力いっぱい叫ぶ。


 ピタッ!


 一瞬で、時間が止まったように庭が静かになった。

 全速力で走ったあとのように、肩でゼイゼイと息をするリーナ。

ひゅんひゅんと光るトト。

 マシンは、花の群れにつっこむ直前で動きを止めていた。


「だからやめろと言ったのに」

 学がつぶやく。

「でも、やってみたかった……」

 リーナもつぶやく。

「リーナって、すご腕ゲーマーなんじゃないの……?」

 レオはあっけに取られ、首をひねる。


 学は、冷や汗をたらしてリモコンを握りしめているリーナの手からリモコンを回収すると、レオに返した。

「驚かせたな。実はリーナは、ぼく以上に運動神経が悪いんだ」

「そ……そうなんだ」

 どうやらリーナにラジコンの操縦をしてもらうのは難しかったようだ。車の走った跡が、ぼうぼうの草むらに落書きしたようにむちゃくちゃに残っていた。


「じゃあ、ぼくががんばって花の名前を覚えるよ。えーと……」

 こうなったらやるしかない。レオは庭を見まわす。

(さっきリーナに教わった花は、白と青と、ピンクだっけ?)

 レオは雑草しかなさそうな場所に、マシンを移動させた。

「このへんは走らせて大丈夫だよね?」

 ところが。

「だめ。そこまだ咲いてないけどお花のつぼみがある」

「つぼみ! 花蕾ホアレイ! ビルイム! あります!」

「つぼみ? ああ、これ……」


 花が開いてないとなると、花の色を目印にはできない。困ったなあと思いながらも、レオはつぼみをよくよく観察して覚えこんだ。


「じゃあ、このへんなら大丈夫かなー?」

 レオはマシンを移動させ、自信なさそうに尋ねる。するとリーナがマシンの前にしゃがみこんで、葉っぱを指さしてレオをふり返った。

「だめ。この葉っぱ、見て。これはさっきのお花の葉っぱ」

「葉っぱ! 잎《イプ》! リースト! ワラク! さっきのお花のデスネ!」


「葉っぱ!?」

 花でもつぼみでもなくて、葉っぱ!?

「それも避けなきゃなんないの?」

 リーナがうなずく。

「まだつぼみついてないけど、もうすぐ咲くはずだから」

「そんなもん、避けられっこないよー!」

 花だって見分けられないのに、葉っぱを見分けるなんてぜったい無理だ。雑草も、大事な花も、どれも同じようにしか見えない。

「だめだー! これじゃどこも走らせらんないー! せっかくのぼくのスーパーマシンがー!」


 レオが嘆きながら地面をゴロゴロする。草がふわふわで意外と気持ちいい。なんて言ってる場合じゃないけど。すると、トトの画面がひゅんひゅん光った。

「トト、おぼえました! トト、知の神デス! 覚えルのトクイ!」

 レオに対抗しているのか、それとも自慢をしているのか、もしかするとレオを励ましているのか。無邪気な声である。


「そうか。トトはAIだもんな」

 学が腕組みをして、うなずく。そして何かをひらめいたように言った。

「レオ。リーナ。ここは2人の特技をかけ合わせて、マシンを『最強』にグレードアップさせるってのはどうだ?」

「最強っ!?」

 レオの声がはずむ。

 最強って?

 それに、2人の特技をかけ合わせるってどういうこと?

 レオの特技はもちろん工作。だけど、リーナの特技ってなんだろう。

 気になる!

 リーナも興味津々。となりで丸い目をらんらんと輝せて話の続きを待っている。


「そう。マシン自身に、大事な花を避けて走ってもらうんだ」

 学はまるで、スーパー・ソード・マシンに自分で物を考える力があるかのようなことを言った。そんなことができるならそれが一番だけど、そんなことラジコンにできるわけがない。

 と思ったら、リーナがとなりでコクンとうなずいた。

「わかった。その子に学習をさせればいいんだね」

 その目は、スーパー・ソード・マシンに向けられている。

 

 ?????

 その子――?

 学習させるって――?


――スーパー・ソード・マシンに物を覚えさせるっていうこと?


 レオの頭の中に、となりの家のかしこい犬が浮かぶ。

 待てとかお手とか取って来いとか、他にも計算だとかすごい技が色々できる柴犬なんだけど、なんでも調教師に特別な訓練をしてもらったんだそうだ。


 もしかしてリーナって、調教師!?

 それがリーナの特技?


 でもあれは犬で、これはラジコンだ。そんなことできるわけない。

 いやでも、もしかして……


「そんなことって、できるわけ?」


★ここでとつぜん外国語講座~!★

 様々な国の言葉をしゃべれるトト。今回はそんなトトのしゃべっている外国語を紹介するよ!

 例えば、あいさつをする時。「こんにちは」は英語でハロー。フランス語ではボンジュール。アラビア語ではアッサラーム・アレイコムっていうんだ。だからトトはあいさつしたい時、「ハロー! ボンジュール! アッサラーム・アレイコム!」なんて言ったりするよ。どこの国の言葉を組み合わせるかは、トトのその日の気分によるんだ。

 スーパー・ソード・マシンと名づけた時には、「ハオ! 好! ジャッザーブ!」と言ってたよね。好は中国語でいいですね、すばらしい。ジャッザーブはアラビア語でかっこいいという意味なんだよ。よっぽどマシンの名前を気に入ったってことだね!

 アラビア語がよく登場するのは、トトが名前をもらった「知の神トト」はエジプトの神様だから。エジプトではアラビア語が使われていて、トトはアラビア語が特に得意なんだ。

 ということで、ここまで読んでくれてありがとう! サンキュー(英語でありがとう)! グラシアス(スペイン語)! シュクラン(アラビア語)!

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