第4話 大切な思い

 ぼくのマシンを止めたのは、リーナだって?

 なんでー!? あんなにキラキラした目で喜んで見てたのにー!?


 って、それよりも……。

 レオはマシンが止まった時のことを思い出す。

 あの時リーナはレオのとなりにいて、マシンには何もしていなかった。リモコンだって持っていたのはレオで、リーナは手も触れていない。リーナが何かをやったとは、とても思えないんだけど……。


 首をひねるレオに、学の推理が聞こえてくる。

「妨害電波を出してるんだろう?」

「ぼ……ぼうがいでんぱ!?」

「妨害電波でラジコンの通信機能を効かないようにしてるんだよな?」

 ええー!?

 妨害電波だなんて、それってスパイ映画かなんかじゃないの?

 レオは信じられないという目で2人を交互に見た。

「そんなことが、できるわけ?」

「できる……」

 リーナがつぶやくように答える。

「ラジコンに使われているのと同じ周波数帯の電波を送れば」

 さすが学のいとこだ。難しい説明をしてくれる。

「で、その電波の発信元はトトというわけだな?」

 学ににらまれて、スマホの画面が静かに点滅した。神妙に罪を認めたようだ。

「はあ~。すごいんだなぁ」

 レオは自分がやられたことも忘れ、すっかり感心してしまった。トトは元気を取りもどしたようにシャキッとした声で言った。

「スゴイデスカ! アリガトウゴザイマス! サンキュー! グラシアス! シュクラン!」

「喜ぶところじゃないぞ」

 学がすかさず釘を刺した。


「まったく。すぐに解除して、どうしてこんなことをしたのか説明した方がいいぞ? リーナ?」

 リーナは不思議そうな目で学をながめ、しばらくしてやっと学の言う意味が理解ができたというように、「わかった」とまじめな顔でうなずいた。

「解除するなら説明しておいた方がいいね。同じことをくり返されないためにも」

「リーナ。ぼくはあやまった方がいいと言ったんだ」

「……? そんなこと言ってないよね?」

 リーナには遠回しな言い方が通用しないらしい。学はあきれた顔でリーナを見つめた。


「え~っと、とりあえずぼくのマシンの動きを止めた理由を聞かせてよ。何か理由があるんだよね?」

 2人の間にレオが割って入る。リーナは、レオと学を交互に指さして言った。

「あなたたちが、おばあちゃまの大切なお花まで切っちゃいそうだったからなんだけど」

「花……?」

 きょとんとしたレオにリーナがうなずく。

「もうちょっとで大事なのが切られそうだった」

 そ、そうなんだー!

 便利な物を作って喜んでもらおうと思っていたのに、大事な物をだめにしそうになっていただなんて……。


 だけどどこにそんな大切な花があるんだろう。レオはラジコンが進もうとしていた先を眺める。特に花らしい花は見えない。

 学も腑に落ちない顔をする。

「リーナ。ぼくらは花壇には手をつけてないんだが」

 きれいな花の咲いた花壇は学の言う通りレンガで囲ってあるからマシンは入れない。おばあちゃんの花は安全だったはずなんだけど……。


 リーナはちょこちょこと庭の端に行き、

「ほら」

 と言って、花壇の外に咲いている小さな白い花を指さした。

「これ、おばあちゃまの好きな花。あなたたち、この花まで刈っちゃうつもりだったでしょう?」

 レオと学は草の中にうずもれた小さな花にポカーンとした。

「それ、雑草じゃないの?」

 2人の反応に、リーナはわずかに眉を寄せる。

「雑草じゃない。花壇の中の花が外に増えたもの」

 学がスマホをポケットから出し、検索する。

「ええと、カモミールか? たしかに雑草じゃないようだが、花壇の外に生えてるんだから刈った方がいいんじゃないのか?」

 その言葉に、リーナの眉がますます寄った。

「おばあちゃまはナチュラルガーデンな雰囲気が好きだから、こういう風にしてる。いつもそうだった。刈ったら、だめ。マシンを動かしたかったら、ちゃんとこれを避けて」


(ばあちゃんが言ってたけど、リーナって本当に庭が好きなんだな。それに、思ったよりばあちゃん思いで優しいんだな)


「わかったよ。じゃあ、この花を避ければいいんだね」

 そんなことでいいのなら、簡単なことだ。リーナのかわいらしい要求に、レオは笑顔で答えた。

「花! 花! フラワー! フラワー! よければいいですネ! よければいいですネ!」

 リーナが妨害電波を解除する。レオは抱えていたマシンを再び庭におろした。では発進、と思ったら。


「あと、これとこれと、これとこれとこれ」

 リーナが次々とちがう種類の花を指さした。

「それから、これも」

「お……多いんだね……」

 その数の多さにレオは参ってしまう。

「レオ、覚えきれるか?」

 学が心配そうに言う。

「ど……どうかな」

 どの草を残してどの草を刈るのか、見分けもあまりつかないし覚える自信もない。

(学に操縦代わってもらおうかな。でも学もあんまり花に詳しそうじゃないし――)


「そうだ。よかったらリーナ、操縦してよ」

 レオがリモコンを差し出す。すると、いつもあまり表情の変わらないリーナの顔が、にこぉ~っとにやけた。

(この子、やっぱりスーパー・ソード・マシンが好きなんだ!)

 レオはうれしくなって、機関銃のような勢いで説明を始めた。

「ここを押すと電源が入って、これを回すとスピードアップ! で、このレバーで向きが変わるんだ!」

「ちょっと待て。レオ、リーナ」

 学が何かを伝えようとしているが、レオもリーナもそれどころではない。早くラジコンを動かしたくてたまらないのだ。

「やめておけ、リーナ!」

 しかし車はすごい勢いで走り出した。

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